第23話 魔法使いとひとつ星たち

 とんがり帽子のお姉さんの魔法を食らったホッピングベアーは、一度怯んだもののまだ戦う意思を示していた。

 大きな体をゆっくりと動かして低い唸り声をあげている。


「あんなに魔法が当たったのにあのクマまだ元気だ」

「伊達に危険度が高いわけじゃないというわけか」


 私とリアナちゃんは武器を握り直して攻撃の隙を探す。

 二つ星以上の冒険者はいつもこんなに強いモンスターと戦ってるんだなぁ。

 どうすればこのホッピングベアーをやっつけられるんだろう。

 考えてみるけど全然思いつかなかった。


「イグアナどんの相手をしている者たちも苦戦してるな……ルミーアホッピングベアーはお前に任せても大丈夫か?」

「ええ、ダインはイグアナどんと戦ってる子たちの加勢に行ってあげて」


 ダインさんと呼ばれた大きな剣のお兄さんはその大きな剣を、引きずるように構えてトカゲっぽいモンスターのほうへ駆けて行った。


「さぁてと、どうやってホッピングベアーを倒そうかしら。初級魔法じゃ威力が足りないみたいだし……中級魔法を使う方がいいわよね」


 とんがり帽子のお姉さんルミーアさんは、誰に向かってでもなくそう口にした。

 さっきの魔法よりもっと強い魔法があるみたい!

 でもルミーアさんは強い魔法を使うのをためらっているように見える。一体どうしたんだろう?


「中級魔法ならホッピングベアーを倒せますか?」

「おそらくね」


 C班の一人が尋ねるとルミーアさんは頷いた。

 その答えに私たちはわっと盛り上がる。

 しかし、ルミーアさんは笑ってはいなかった。


「ただ中級魔法は発動までに時間がかかるの。それまであなたたちだけで、ホッピングベアーの相手をしなきゃいけなくなるのよ」


 みんなその事実を聞いて息をのむ。

 私は運よく無事だったけど、次はクマの攻撃で大ケガをしてしまうかもしれない。まだ強敵との戦いに慣れていない私たちひとつ星冒険者にとっては、あのクマの前に立つのはすごく怖いのだ。


 それでもやっつける方法が、ルミーアさんの魔法しかないならやるしかない!

 C班の仲間たちは硬い表情のまま頷き合い各々武器を構えなおした。


「ごめんねみんな、少しだけ耐えてね!」


 ルミーアさんが魔法の準備に取り掛かった。

 とにかく誰もケガをしないようにして時間を稼げれば良いんだ!

 10人近くいる私たちひとつ星冒険者は、一丸となってクマに突撃した。


 しかし固まって攻撃を仕掛けたのは、失敗だったとすぐに思い知らされる。

 ホッピングベアーはびょーんと大きく跳びあがり、大きなお尻でみんなを踏み潰しに来た。


 咄嗟に逃げた私たちは避けられたけど、逃げ遅れた3人がクマのお尻の下敷きになって倒れてしまった。


「ぐぁ……!」

「うぅぅ!」


 体勢を戻したホッピングベアーは、倒れた冒険者にトドメを刺そうと太い腕を振り上げる。


「くっ、させるか!」


 C班の仲間を助けるために、リアナちゃんがクマの懐に飛び込んで攻撃を受け止めた。倒れたみんなを守ることはできたけど、リアナちゃんはさっきの私のように地面を転がった。


 クマはそのままリアナちゃんに標的を変えてゆっくりと近づいていく。

 わわわ、どうしよう大ピンチだ!

 そう思った時、隣にいたアキューちゃんがあることに気付かせてくれた。


「……精霊の力は借りられない?」


 頭が真っ白になってて全然思いつかなかった!

 そうだ、私には精霊たちがいる!

 私は空中で舞っている風と雨の精霊たちに声をかけた。


「精霊のみんな私の声が聞こえる?」


 私の呼びかけに風と雨の精霊たちが反応してくれる。

 精霊たちは手を繋いで降りてくると私の顔の前までやってきた。


「仲良くしてるところをごめんね! 私の大切な仲間たちがあのクマのモンスターにやられてしまいそうなの。みんなを救うためにどうか私たちに、あなたたちの力を貸してほしいの!」


 リアナちゃんのほうを見ると、もうすぐ近くまでクマが接近していた。

 風と雨の精霊たちは私の視線を追って、リアナちゃんと倒れているC班の仲間たちをを見つめる。それから私に向き直って首を縦に振ってくれた。


 風と雨の精霊は仲間たちを集めて何かをしている。

 何が起こるかわからないけどきっと大丈夫だ!

 リアナちゃんが起き上がった時には、もうホッピングベアーはすぐ近くにいたけど急にその動きが止まった。


「みんな今のうちだよ!」


 リアナちゃんは姿勢を低くしてクマの横を素早く駆け、倒れた3人は他のC班の仲間たちが助け起こしにいく。

 ホッピングベアーはその場で顔をぐしぐしと腕で擦っている。

 精霊たちは一体どんな行動を起こしてるんだろう。


「ははっ、今のは精霊の力か!」


 リアナちゃんがおかしそうに笑って私たちのところへ戻ってきた。


「うん、でも精霊たちは一体何をしたのかな?」

「逃げる前にちらっと見えたが、大粒の水の玉で目つぶしをしていたぞ。ダメージはないかもしれないが、時間稼ぎには十分な効果だったみたいだ」


 クマは今もなお腕で顔を擦り続けている。

 きっと何が起こってるのかわかってないんだと思う!


「な、なんか浮いてるぞ、なんだあれは!?」

「モンスターではなさそうだけど……」


 この場にいるみんなが、精霊が見えるようになって驚いていた。


「この子たちはモンスターじゃないから安心して! 今みんなに見えてるのは風と雨の精霊たちだよ、私たちを助けてくれているの!」

「せ、精霊……っておとぎ話に出てくるあの?」

「どうして突然見えるようになったんだ……!?」


 みんな少し混乱気味だけど精霊を傷つける人がいなくて良かった!

 詳しい説明はあとにして今はクマをやっつけるのに集中しないと!


 倒れた3人を無事に安全なところに連れてこれたのとほぼ同時に、ルミーアさんの魔法が完成したようだった。


「あなたたちよく耐えてくれたわ。さぁホッピングベアーから離れていてね!」


 ルミーアさんが長い杖で空中に何かを描くと、杖の先端から赤い線がホッピングベアーの足元に伸びていく。その線は地面に魔法陣を描いたあと大きな火柱をあげてホッピングベアーを包み込む。


 魔法によって倒れたホッピングベアーを見て私たちは歓声を上げる。

 メイスで叩いてもびくともしなかったクマを一撃でやっつけた!

 こんなに大きなのは初めて見たけど魔法ってすごいなぁ!


 トカゲっぽいモンスターイグアナどんも、ちょうど倒されたところだった。

 向こうでもC班のみんなが両手を上げて喜んでいる。

 私も嬉しくてリアナちゃんとアキューちゃんと、3人でハイタッチして喜んだ。


 精霊たちも私たちを見て嬉しいみたいで、たくさんの風と雨の精霊たちが私たちの周りをくるくる飛び回っていた。


「精霊のみんな手伝ってくれてありがとう!」


 私がお礼を言うとC班のみんなも、飛び回る精霊たちにお礼を言って手を振った。


「いきなり出てきてびっくりしたけどありがとな!」

「おかげで助かったよありがとう!」


 みんなに感謝された精霊たちは、嬉しそうに両手を振って空に消えていった。


 こうしてひとつ星冒険者ばかりの私たちC班は、ルミーアさんとダインさん、それに風と雨の精霊たちの助けによって危険度の高いモンスターとの戦いに勝利した。


 でもまだ緊急クエストは続いている。

 私たちの戦いはまだ終わらないのだった。

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