第22話 ひとつ星冒険者たちの戦い
緊急クエストが始まってから1時間以上が経過した。
冒険者の先輩たちはそろそろA班とB班が、目標のモンスターと交戦している頃だと話していた。
「シャルちゃん大丈夫かなぁ」
「危険度の高いモンスターが多いと言ってたからな……今回ばかりは心配だな」
リアナちゃんも私と同じで落ち着かないみたいだ。
前線はどうなったいるんだろう、ここからじゃわからないからモヤモヤする。
どうかみんなが無事に帰ってきますように。
「とにかく私たちは私たちで、今できることをやるしかない」
「うん」
私とリアナちゃんは他のC班の人たちと一緒に、城壁の周りに罠を仕掛ける。
罠といっても大がかりなものではなく、魔法が施された平べったい鍋の蓋みたいなアイテムを、この辺りにモンスターが来そうという場所に置いている。
これがどんな効果を発揮するのかは、このアイテムを踏まないとわからない。
少し踏んでみたい気もするけど怖いからやめておこう。
アキューちゃんは後方で、遠距離の敵を攻撃できる投石器などの準備をしている。
C班の作戦はできるだけ接近戦を避けて、遠くから攻撃してモンスターを追い払うというもの。うまくいけば強いモンスターが来ても、ケガ人を出さなくて済む。
「よしこっちは仕掛け終えた、ココそっちはどうだ?」
「こっちも大体終わったよ!」
「よし、それじゃ私たちもアキューたちのところへ戻ろう」
自分たちで仕掛けた罠を踏まないように、気を付けながらレルエネッグに向かって駆けた。他にも罠を仕掛けてた人たちが続々と街のほうへ戻っていく。
「これだけ準備していればきっと大丈夫だね!」
「ああ、絶対にレルエネッグを守るぞ」
「うん! あ、リアナちゃん、アキューちゃんが手を振ってるよ!」
急いで東門の前まで走ってアキューちゃんと合流した。
どうやら遠距離武器の準備も終わったようだ。
あとは次の指示があるまで待機。
来ないほうが良いけどモンスターが来るまで出番はなさそう。
そう思った矢先の出来事だった。
城壁の上で見張りをしている衛兵さんが大きな声で叫んだ。
「モンスターがこちらへ接近中!」
「来たか!」
「C班戦闘態勢、モンスターをレルエネッグに近づけるな!」
指揮を執っている先輩冒険者の掛け声で、私たちはバタバタと投石器や弓を装備して迫りくるモンスターの集団を待ち構える。
心臓の動きがばくばくと早くなってきた。
これから戦うのは今までとは違う、強いモンスターだからすごく緊張する!
隣のリアナちゃんも足が震えているし、アキューちゃんも……いつもと変わらない無表情だけどきっと緊張してるに違いない!
大きく息を吐き出して前方を見据える。
雨の音に混じってどどどっとたくさんの足音が聞こえてきた。
「来た!」
誰かの声と同時に視界にモンスターの姿が映った。
大きいトカゲみたいなのと大きなクマが接近してくる。
モンスターたちは私たちが仕掛けた罠の場所に差し掛かった。
パンパンパンっと大きな破裂音がレルエネッグ東門まで響き渡る。
ここからだと遠くて効いてるかわからないけど、罠にはかかっているみたい!
しかしモンスターたちの動きは一瞬止まっただけで、またすぐにレルエネッグに向かって接近してきた。
「くっ、罠だけでは退いてくれないか!」
「C班攻撃開始だ!」
先輩冒険者の声に合わせて投石器で石をぶん投げる。
普通に手で投げるよりも断然遠くに飛ばせた。それにすごい速度で飛んでいく!
私の投げた石は放物線を描いて、トカゲみたいなモンスターに当たった。
「やった、当たった!」
「こらこら喜んでる場合じゃないぞ」
「……ココ次を投げて」
リアナちゃんとアキューちゃんに注意されて急いで次の石をセット。頭の上でブンブン振り回してまた石を放り投げた。
みんなが弓や投石器で攻撃をしているけど、モンスターたちは全然怯まずにこっちに向かって走ってくる。
「くそ、これでもダメなのかっ、仕方ないC班接近戦に移れ!」
「これ以上街に近づけるなー!」
わああああっとみんなの雄叫びが響き渡り、私たちは自分の武器を構えてモンスターの集団に突撃した。
近くで見るとトカゲっぽいのも熊もすっごく大きい!
「気を付けろっ、そいつはホッピングベアーだ!」
誰かがそう叫ぶと同時にクマ……ホッピングベアーが高くジャンプして、大きなお尻でどーんと踏みつけてきた!
咄嗟にその場を離れてなんとか避けれたけどびっくりした!
このクマ飛び跳ねるのかぁ!
あのお尻に踏み潰されるとすごく痛そうだぞ!
大きいトカゲっぽいのはどんな動きをするんだろう?
ちらっとC班のみんなが戦っているトカゲっぽいのを見てみると、赤ちゃんが腹ばいで回るようにおなかを軸にして、ぐるんぐるん回って尻尾で冒険者たちを吹っ飛ばしていた。
あっちはあっちで大変そうなモンスターだ!
おっと、あんまり余所見をしてるとクマにやられてしまう。
再びホッピングベアーに視線を戻してメイスを構える。
のそりと体勢を立て直し、ホッピングベアーは腕を広げてがぁーっと吠えた。
また飛んでお尻アタックをしてくるかも!
その前に攻撃してやるー!
「てえええええい!」
ダダダっとホッピングベアーに向かって走り出す。
私の動きに反応したクマは、かかってこいと言わんばかりにその場に突っ立っている。だから力いっぱいメイスを横に振るって、ホッピングベアーのおなかを叩いた。
しかしクマは攻撃を受けたにも関わらず、右腕でばちーんと私を引っ叩く。
その威力はすさまじく、私は吹っ飛んでごろごろと地面を転がった。
「うわあっ!」
「ココ! 大丈夫か!?」
リアナちゃんが私の前に立ってホッピングベアーの注意を引く。
「気を付けてリアナちゃん、このクマすごく強いかも!」
「ああ、ココの攻撃も効いてないようだからな……!」
起き上がってまたメイスを構えてクマと対峙する。
ホッピングベアーはのそのそと私たちのほうへ歩いてきた。
むむむ、どうすれば良いんだろう?
クマにダメージを与える方法は何かないかな?
考えてみるけどすぐには思いつかなかった。
その間にもホッピングベアーはゆっくりと近づいてきている。
「2人が危ない! 魔法を放て!」
誰かの合図のすぐあとに、炎の玉がホッピングベアー目掛けて飛んで行く。炎の玉は見事に命中してクマの体をよろけさせた。
続けて第二第三の魔法がホッピングベアーを襲う。炎や氷の魔法が次々と命中してホッピングベアーは後ずさりした。
「ココ今のうちに!」
「うん!」
急いでクマから離れてC班の仲間たちの元へ。
魔法を使って助けてくれたのは誰だろう?
周りを見て確認すると、C班にはいなかったとんがり帽子を被ったお姉さんと、大きな剣を携えたお兄さんが、私たちを見て安堵の表情を浮かべていた。
「良かった2人とも無事だな」
「ふぅ、間に合って良かったわ」
どうやらこの人たちが助けてくれたみたい!
お礼を言おうとしてとんがり帽子のお姉さんの顔を見る。
あれ、このお姉さんどこかで会ったような?
「あら、あなた確か前に高ランクの依頼を受けようとしてた娘よね」
「…………あ!」
思い出した!
冒険者になった時に間違って受けそうになった依頼を、代わりに受けてくれた優しいお姉さんだ!
「あの時はありがとうございました! あっ、今もありがとうございました!」
「いいのよ、無事で何よりだわ」
とんがり帽子のお姉さんはふふっと大人っぽく笑ってウィンクした。
「さぁて、まだ戦闘は終わってないからおしゃべりは後でね」
そう言ってホッピングベアーを見て宝石の付いた長い杖を構えた。
私も慌ててメイスを握り直してクマのほうを向く。
止む気配のない冷たい雨の中で、私たちの戦いはまだまだ続くのだった。
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