第13話 過去の失敗は未来で活きる

「リアナちゃん!」


 突然倒れたリアナちゃんに声をかけるが返事はない。

 ただ苦しそうに呼吸をしているだけだった。

 上体を抱きかかえるけど、大ケガをしている様子はない。

 蜘蛛の爪による傷はいくつかある。これが原因なのかな?

 シャルちゃんが切り傷を見て呟く。


「もしかしてあの蜘蛛毒を持ってたのかも」

「毒だって!?」


 レイ君がシャルちゃんの言葉を聞いて、目を覚まさないセニアちゃんに近づいて、彼女にも傷がないかを調べ始めた。

 その結果、セニアちゃんにも切り傷が発見された。


「シャルちゃん、リアナちゃんをお願い」

「どうしたの、ココ?」 


 リアナちゃんをシャルちゃんに抱えてもらう。

 原因が毒ならと急いで鞄の中を漁る。確か買ってきたはずだ!

 傷薬や包帯やポーションなどを鞄から出していく。

 そして鞄の中の毒消しを取り出した。


「毒消し、あったよ!」


 私が手にしている毒消しを見て、みんなの表情が明るくなった。

 早速長い毒消しの葉を細かく千切っていく。

 次に飲み込みやすいように、ポーションの中に千切った毒消しを入れた。

 後はよく振って毒消しの成分を、ポーションに混ぜ合わせて完成!


 まずは苦しそうに息をしているリアナちゃんから。

 口の中に少量ずつ毒消しポーションを流し込む。

 始めは少しむせていたけど、次第に飲んでくれるようになった。


「セニアちゃんも!」

「あぁ、すまない助かる」


 レイ君がセニアちゃんの変わりに返事をした。

 嫌な子という印象があったから、素直なお礼にちょっと驚いた。

 とにかくセニアちゃんにも同じようにして飲ませた。

 時間が経てば効果があらわれるはずだ。

 でも市販の毒消しはあくまで応急処置用だから、やっぱり早く街に戻ったほうが良いだろう。


 それにここにいると、モンスターが現れるかもしれない。

 みんな私と同じ考えのようで、すぐに街に戻る準備をした。

 私とシャルちゃんは二人でリアナちゃんに肩を貸し、セニアちゃんは引き続き、レイ君が背負っていくことになった。


 アンリちゃんが先頭に立ち、モンスターを警戒しながら歩いていく。

 できるだけモンスターと遭遇しないように、アンリちゃんがモンスターを発見すると迂回して進んだ。

 来た時よりも時間がかかってしまうけど、今はあんまり戦闘したくないからね。

 しばらく歩き続けていると、私たちの前を歩いているレイ君がアンリちゃんに声をかけた。


「アンリ、疲れてないか? 疲れてるなら少し休憩を」

「疲れてるに決まってるじゃない。なぁにレイ、なんか気持ち悪いよ」

「気持ち悪いってなんだよ。俺は心配して……」

「アンタが人の心配なんて、明日は雪でも降るんじゃない? でもま、あんがと。アンタも疲れたら言いなよ」


 なんだろう。この二人がちゃんと会話をしているところを、あまり聞いたことはないけど、二人とも少しだけ雰囲気が柔らかくなったように感じた。

 最初に冒険者ギルドで見かけた時とか、リアナちゃんが一人残されてた時とかは、もっとトゲトゲしい感じだったのに。


 やがて長い時間をかけて、私たちは森の入口まで戻ってこれた。

 リアナちゃんとセニアちゃんは、毒消しが効いたのだろうか呼吸も安定してきている。後は街でちゃんと診てもらえばすぐに良くなりそうだった。


「やっと森から出られたぁ、あー疲れた!」

「おつかれさま、アンリちゃん! それに精霊のみんなもありがとう!」


 森を離れる前に精霊たちにお礼を言うと、木や地面からひょこっと顔を出して私たちに手を振り見送ってくれた。


 危険な森を抜け出せて、体から力が抜けてしまう。

 でもまだ街まで距離があるから、もう少しだけがんばろう!

 私たちは今一度気合を入れて歩き出した。


 街に帰ってこれたのは、辺りが暗くなった頃だった。

 すぐにリアナちゃんとセニアちゃんを、休ませるために冒険者ギルドに向かう。

 夜のレルエネッグの街は昼間の喧騒を忘れて静かだった。

 そんな静かな街を私たちは急いで歩いていく。


 冒険者ギルドが近づくと中から賑やかな声を聞こえた。

 ここだけは夜でもいつも通りで安心するなぁ。

 早く中に入ってリアナちゃんと、セニアちゃんの様子を診てもらおう。


 二人を連れて冒険者ギルドの医務室へ。それから勤務している先生の指示に従い、二人をベッドに寝かせた。

 リアナちゃんとセニアちゃんが心配でそわそわしていると、シャルちゃんが私の肩をぽんと叩いた。


「さ、後は先生に任せて、あたしたちは酒場に行って先にごはんを食べよう」


 確かにおなかがすいていた。

 二人が心配だけど私たちはまず、自分の心配もしなくちゃいけない。

 だから少し心苦しいけど医務室を出て酒場へ向かった。


 相変わらず賑やかな酒場の中で空いてる席に座る。

 私とシャルちゃんの後にやってきた、レイ君とアンリちゃんも同じテーブルに着いた。

 シャルちゃんはメニューに目を通すと、すぐにウェイトレスさんを呼んだ。


「みんな二人が心配なのはわかるけど……あ、ここからここまでお願いします。きっとすぐに元気になっておなかすいたって言うよ」

「そう、だね。その前に私たちも元気にならなきゃだね」

「そのとーり。ほらそこの二人もココを見習って、元気になる努力をしよう」


 しばらく待っていると料理が大量に運ばれてきた。

 その量を見てレイ君とアンリちゃんは唖然としていた。


「みんなの分も注文したから、どんどん食べなよー」

「四人で食べるにしても多くない?」

「気にしない気にしない」


 アンリちゃんの疑問をさらっと流して、シャルちゃんは手を合わせる。

 同じように私も手を合わせた。


「それでは……いただきます!」

「いただきまーす!」


 今日の前菜はどれだろう?

 基本的にシャルちゃんが注文する料理は、お肉かお魚が使われているので、どれもメインディッシュに見えるのだ。だから量が少なめだったり、味がさっぱりしているものを前菜と勝手に決めている。


 これだという料理を選んで口に運ぶ。

 うん、美味しい。

 一口食べるたびに元気になっていくのがわかる。

 今日はこれが前菜に決定だ。


 レイ君とアンリちゃんも、おずおずと料理に手を伸ばし始めた。

 料理を食べると二人も表情が明るくなる。

 私たちは元気になるためにみんなで料理を食べていった。


 そうして全体の半分くらいを食べ終えた頃、シャルちゃんが更に料理を追加注文した。見慣れている私から見てもいつもより多めに見える。

 

「アンタまだ食べるの!?」

「さすがに食べすぎじゃないのか」

「大丈夫だってー。追加はそんなに多くないから」


 アンリちゃんとレイ君は驚くというよりも戦慄していた。

 追加が来るならもう少しがんばらないと、シャルちゃんを除く二人が危ない。

 残りの料理に手を伸ばしがんばって食べる。


 なんとか残りの半分の半分を食べ終えようとした時、階段を下りてこちらへやってくる、リアナちゃんとセニアちゃんの姿が私たち全員の目に映った。

 二人はゆっくりと、私たちのところへ歩いてきた。

 そして私たちに向かって頭を下げる。


「すまない、心配をかけた」

「リアナちゃん!」


 席を立ってリアナちゃんに抱きついた。

 良かった、元気になったんだ!


「レイ、アンリ。それにリアナとお友達の二人も、助けてくれてありがとう」


 セニアちゃんは私たちみんなにお礼を言った。

 そういえば三人の中でこの子だけはあまりトゲトゲしくなかった気がする。ともあれ二人とも元気になって良かった!


 全員が揃って明るい雰囲気の中、レイ君は俯いていた。

 少しの間を置いてレイ君は、意を決したように立ち上がり深々と頭を下げた。


「今回こんなことになったのは全部俺のせいだ! 俺が、早くふたつ星冒険者になりたいからという自分勝手な理由から、身の丈に合わないクエストを受けてしまった。そのせいでセニアを始め、みんなを危険にさらしてしまった……本当にすまなかった!」


 驚いた。あの感じの悪かった子が、こんな風に謝るなんて思わなかった。

 頭を上げたレイ君は私たちを見てもう一度頭を深く下げる。


「助けを求めた時、何も聞かずに手助けをしてくれて、そしてセニアを助けてくれて本当にありがとう!」

「気にしなくてもいいよー、私たちは冒険者で、リアナは」

「ああ、困っている者がいれば助けるのが当然だ。それが騎士だからな」


 レイ君は二人の言葉に涙を流しながら頭を下げる。


「もう二度とこんなことが起きないように……俺は、冒険者を……」


 冒険者を……その後の言葉を、セニアちゃんとアンリちゃんが遮った。


「確かにレイは少しわがままで、自分勝手で暴走する癖がある。でもそこさえ気をつければ頼りになるリーダーよ」

「冒険者やめる、なんて言わないよね? それはダメだよ。あたしらまだまだ冒険したりないんだから」

「お前たち……」


 セニアちゃんもアンリちゃんもレイ君を責めなかった。

 そのやり取りを見て彼らもまた、仲間なんだと思えて嬉しい気持ちになった。


「みんな無事に帰ってこれたし仲良くもなれた。それに過去は反省できて未来に活かせられる! 大切なのはこれからだよ! それでいいんじゃないかな?」

「ココの言う通りだ、もう反省しているなら、後は活かすだけだ。今はみんなの無事を喜び合おう。それにしてもずっと何も食べてなかったからおなかがすいたな」

「リアナがそう言うと思って追加を注文しておいたよ」


 私たちの結論が出たところで、ウェイトレスさんが料理を運んできてくれた。

 みんなもう一度席について、今度こそ全員の無事を喜びながらの食事になった。


「今日もまたすごい量だな……ココ、どれが前菜だった?」

「今日はねー、これだよ!」


 こうして今度こそ本当に、今日という日の冒険は終了した。

 明日になればまた次の冒険が始まるだろう。

 その前に今日の思い出をたくさん作っておこう。

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