第11話 みんなの勇気が集まれば
もう結構深いところまで来た気がする。
ここまで来る間に三回の戦闘があった。
それも段々と間隔が短くなってきている。
モンスターの縄張りが多くなってきた証拠だと思う。
それにしてもだ。
このレイ君率いるパーティは、どうしてこんな森の奥まで来たんだろう。
冒険者ギルドのひとつ星が受注できるクエストに、こんなところまで来ないといけないのがあったのかな。
ひとつ星だけでこんな森の奥なんて、おすすめできそうにないけどなぁ。
今は理由がどうであれ、あの魔法使いの女の子を助けることだけを考えよう。
「レイ、アンリ、まだなのか?」
「もうすぐだ、もうすぐだけど……」
「また、あれの前に戻らないといけないのよね」
二人の様子がおかしい。
足取りも段々と遅くなってる気がする。
リアナちゃんも二人の様子が変なことに気づいているようだ。
「二人とも何を言ってるんだ?」
「アンタたちは見てないから……あれの怖さがわからないのよ」
アンリちゃんは巨大蜘蛛に酷く怯えているようだった。
でも怖いのはみんな一緒のはずだ。
そう思ってたのは私だけではなかった。
黙っていたシャルちゃんが口を開く。
「あのさー、モンスター怖いなんて言ったら、リアナなんてどんなモンスターでも怖がってるんだよ? 今から遭う巨大蜘蛛なんて見たら、失神するんじゃないかってくらい怖いはず。それでも君たちの仲間のために、勇気振り絞ってこうして来てるんだからさ。この子の勇気を無駄にしないようにしてねー?」
シャルちゃんに怒られて、レイ君とアンリちゃんは顔を伏せて黙った。
よく言ってくれました! でも気まずい、すごく気まずい空気だよ!
ここはなんとかフォローをしないと。
「こ、怖いのは、みんな一緒だよ。だからできる限り力を合わせようっ」
「ああ……わかってる。んなことわかってるよ」
「……言われなくたって、でも」
あんまり効果なかった!
シャルちゃんの言葉がちゃんと届いてると信じるしかない。
「ところでシャルちゃんは、いつもとあんまり変わらなそうだけど怖くないの?」
「今のところ怖いよりも、巨大蜘蛛がどんな味なのか気になるねー」
「えぇ、蜘蛛を食べる気なの!?」
シャルちゃんは相変わらずだった。
そんな彼女を見て少しだけほっとした。
レイ君とアンリちゃんの案内は続き私たちは目的の、巨大蜘蛛の近くまでやってこれた。
木の影からその姿を覗き見る。
本当にめちゃくちゃでかい!
捕まったら頭からがぶりって、やられてしまいそうなくらい大きい。
みんなは大丈夫だろうか……?
レイ君もアンリちゃんも顔を蒼くして震えている。
そりゃあんなのって知ってればそうなるよね。
対してシャルちゃんは、じーっと巨大蜘蛛を観察している。
どの部位が美味しいか考えてそうだ。
そしてリアナちゃんはというと、もう白目剥いて失神寸前だった!
震え方も尋常じゃない。だ、大丈夫なのかな。
巨大蜘蛛は一見宙に浮かんでるように見えるけど、よく見ると蜘蛛の糸で作られた大きな巣がある。
巣にはデカブトムシや、他のモンスターも引っ掛かっている。
その中にあの魔法使いの女の子、セニアちゃんの姿もあった。
「どうやって助け出せば良いんだろう、シャルちゃん何か思いつく?」
「うーん、幸い蜘蛛の巣の低めの位置に、セニアって子がいるから蜘蛛の注意さえ惹ければ、その隙に助け出すことはできそうだね。ただ注意を惹くほうは、正面からやりあわなくちゃいけなくなるから、かなり危険な役割になるねー」
誰がその危険な惹きつけ役をするか、だよね。
みんなシャルちゃんの話を聞いて言葉を失っていた。
その作戦でいくなら、誰かがあの巨大蜘蛛を惹きつけないとダメだからね。
やりたくないのはみんな一緒だ。
でもそれじゃセニアちゃんを助けられない。
うーん、どうすれば良いんだろう?
「わわ、わわわわ私が、その役目ををを、すすすすするぞ!」
リアナちゃんが歯をがちがち鳴らしながら立候補した。
全員の顔を見てシャルちゃんが頷く。
「じゃあ、惹きつける役はリアナとあたしかな」
「シャルちゃんもそっちなの?」
「できるだけ長く惹き付けておきたいからねー」
そんな二人の姿を見て、アンリちゃんが歯ぎしりをして手をあげた。
「ちょっと待ちなさいよ! リアナ、アンタそんなに震えてて、この危険な役ができるわけないじゃん! この役目は……あ、あたしが引き受ける!」
そう言ってアンリちゃんは、シャルちゃんを睨みつけて続けた。
「それにさっきからアンタなんなのよ! 一人だけ涼しい顔しててむかつく! 自分ならあの蜘蛛の相手ができますーとでも言いたいの!?」
「時間稼ぎくらいならやってみせるよ」
「い、言ったわね! でも、アンタが簡単にやられちゃったらみんなが困るのよ。だから、だからあたしが最初にあの蜘蛛を惹きつける!」
アンリちゃんは弓を私たちに見せた。
遠くから弓矢で攻撃して蜘蛛を、自分のほうへ誘おうとしてるんだ!
みんなアンリちゃんの考えがわかって息を飲む。
シャルちゃんはアンリちゃんの目を、まっすぐに見据えて頷いた。
「んじゃー、接近してきた蜘蛛から、君を逃がす時間稼ぎは任せて」
「……ふんっ」
二人のウマは合わないようだけど、囮役は決まった。
次はセニアちゃんを助ける役だ。
これはシャルちゃんが名指しで決めた。
「助けるのは、レイ君だっけ、君の役目だねー」
「お、俺? どうしてだ?」
「男の子の力じゃないと彼女を背負って走るのは難しい」
その一言でレイ君は納得したようだった。
「わ、わかった。ただ、背負って走るなら俺は戦えなくなる。逃げてる時に俺たちが襲われた場合、誰が俺とセニアを守ってくれるんだ?」
「わわ、私が守る!」
今度こそリアナちゃんが立候補する。
これで私以外のみんなの役割分担が決まった。
私はどうすれば良いんだろう?
「ココは精霊の力借りられないかな? それでみんなのサポートをしてほしいんだけど」
「うん、わかった!」
「精霊……?」
レイ君とアンリちゃんが不思議そうな顔をしている。
でも説明している時間はあんまりなさそうだ。
「よし、それじゃセニアちゃん救出作戦、スタートだよー」
シャルちゃんの掛け声とともに私たちは散開する。
まずはできるだけ囮役と救出役の距離を広げる。
近すぎず離れすぎず。逃げ切った時にすぐに合流できる距離を。
私はまず囮役のほうへとやってきた。
シャルちゃんとアンリちゃんが攻撃開始位置を決める。
その周りに蔓やちょうど良い太さの木の根っこがないか探す。
探していると後ろから二人の会話が聞こえてきた。
「ねぇ、あの子は何してんの?」
「詳しくはわからないけど、奇跡を起こそうとしてるんだよ」
「はぁ?」
蔓とちょうど良い木の根っこを見つけたので早速声をかける。
「こんにちは、こんにちは」
少し待っていると土と木の根っこから小さな精霊が現れた。
土の精霊と木の精霊。
今回はこの子たちにお願いをする。
「急に呼び出したりしてごめんね。君たちにお願いがあるんだ。私のお友達を助けてほしいの」
土の精霊と木の精霊はきょろきょろと辺りを見て、シャルちゃんとアンリちゃんを指さした。
私はうんうんと頷く。
「そう、あの二人を向こうにいる、大きな蜘蛛から守ってほしいんだ」
土の精霊と木の精霊は巨大蜘蛛を見てぶるるっと震える。
でも私のほうを見て腕を上げて頷いてくれた。
「ありがとう。君たちは勇気があるね。えっと、それじゃあ私が合図をしたら、木の精霊さんは、あの蜘蛛の足に蔓と木の根を巻き付けて」
木の精霊がこくりと頷く。
次に土の精霊には別のことをお願いする。
「土の精霊さんはあの二人が逃げやすいように、彼女たちの後ろに土埃の煙幕を作ってあげて」
土の精霊が両手を上げてぴょんぴょん飛び跳ねる。
それぞれお願いすると土と木の精霊は仲間たちを呼んだ。
辺りからたくさんの精霊たちが現れる。
それを見てアンリちゃんが、なんだかマヌケな顔をしていた。
「な、なにあれ?」
「だから言ったじゃない、精霊の奇跡だよー」
アンリちゃんは精霊たちが動きまわる度に、肩をびくっと震わせていた。
「よーし、じゃあ私はあっちにも罠を仕掛けてくるね!」
「うん、よろしく頼んだよー」
「よ、よくわかんないけど、任せたわ!」
今度は救出役の退路にも同じ罠をお願いしに行く。
リアナちゃんとレイ君のところに辿り着いた私は、二人に罠の説明をして早速精霊たちにお願いする。
「精霊の罠……?」
「えっと、土の精霊と木の精霊が、みんなを守ってくれるから全力で逃げてね」
「あ、ああ、わかった。俺たちは逃げるのに専念すれば良いんだな?」
「うん! リアナちゃんも体震えてるだろうけどがんばって走ってね!」」
リアナちゃんが、がくがく体を震わせながら頷いた。
よし、これで準備完了だ。後はみんなが見える位置に行くだけ!
急いでみんなが見えるところへ走っていく。
みんなが見える位置に到着すると、シャルちゃんとアンリちゃんに準備ができたと手を振って合図を送った。
アンリちゃんがしゃがんで弓を構える。
セニアちゃん救出作戦が間もなく始まる。
絶対助け出してみせるぞ! 待っててね!
そして、始まりの矢が放たれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます