第10話 モンスターの多い森の中で

 昨日は武器も買ったし、新しい仲間にも出会えた。

 後は武器を使いこなせれば完璧だ。

 というわけで今日のクエストは、レルエネッグ南東の森のモンスター退治。

 普段よく行く北の草原よりも、手強いモンスターがいるらしい。

 どんなモンスターと戦うのだろう。

 今から緊張してしまうなぁ。


 現在雑貨屋さんでアイテムの補充をしている。

 傷薬と包帯、他には何が必要かな。

 森の中は毒を持った虫が多そうな、イメージがあるから毒消しも買っておこう。

 必要そうなアイテムを両腕で、抱えてカウンターに持っていった。

 お金を払ってアイテムを鞄にいれたら準備完了。

 先に買い物を終わらせて店の外で待っている二人の元へ。


「おまたせ!」

「よし、ココも買い物終わったようだし行こうか」

「目指せ南東のヨクアール森」


 多分森の方向を指さしてシャルちゃんが先頭を歩き出す。

 私とリアナちゃんも遅れずについていく。

 レルエネッグは緊急クエスト以降、特に問題も起こらず平和だ。

 今も多くの住民が石畳の道を行き来している。

 通行人に混ざって私たちも南門へ向かって歩く。


 しばらく南門へ向かって歩いていくと、だんだん冒険者の姿が増えてきた。

 きっと私たちと同じヨクアール森に向かう冒険者もいるのだろう。

 やがてレルエネッグ南門に到着した私たちは、門番さんにギルドカードを見せて通してもらった。


 南門を抜けて道なりに進んでいくと分かれ道に到着した。

 まっすぐ行けば次の街へ、曲がればヨクアール森だ。

 目的通り道を曲がって森に近づいていく。


 強いモンスターがいるんだから、十分に注意して進まなきゃ。

 辺りをきょろきょろ見ながら森の入口まで歩いた。

 冒険者の姿もないしモンスターの姿もない。

 想像より安全なんじゃないかなと、ちょっと思ってしまう。


「モンスターいないね」

「この辺りはまだモンスターの縄張りじゃないんだね。森は奥へ進むほど、モンスターの縄張りが増えてくるから中に入ったら要注意だよー」


 と、シャルちゃんはいつも通り、のんびりした口調で説明してくれた。

 できるだけ奥には進まないようにしないとだね。

 森の入口にはヨクアール森、と書かれた立札が立っている。

 一応中へと続く道があるので、私たちはそのまま進むことにした。


 森の中はちょっと薄暗く怖い雰囲気だ。

 まだ入って数歩なのにもう怖い。

 早く目標のモンスターを倒して帰りたいなぁ。

 そう思っていてもなかなかモンスターと遭遇しなかった。

 仕方なく私たちは奥へ奥へと進んでいく。


 森の中の道をしばらく進んでいると、他の冒険者たちをちらほら見かけるようになってきた。

 違うパーティの人たちだけど、やっぱり人と出会えると安心するなぁ。

 そう思っていた矢先の出来事だった。


「他の冒険者がモンスターを倒してるかもしれないから、ちょっと道を外れようー」


 シャルちゃんがとんでもないことを言い出した。

 道を外れるのはすごく危険なんじゃないのかな。

 でもこのままじゃモンスターに遭えないのも事実。

 そう思っているとリアナちゃんが聞いてくれた。


「しかし、道を外れるのはその、きき危険じゃないか?」

「この辺りなら大丈夫さー。もっと奥へ行くほうが余計に危険だよ」


 草をかき分けシャルちゃんが進んでいく。

 し、仕方ない。怖いけどついて行く他なさそうだ。

 リアナちゃんも顔を青くし始めていた。


 しかしシャルちゃんの勘は当たった。

 道を逸れてから少しして私たちは、目標のモンスターと遭遇したのだ。


「い、いた、今回の目標。デカブトムシだ」

「すごい、カブトムシなのに二足歩行で歩いてる!」

「感心してる場合じゃないよ。ココ、リアナ、戦闘準備」


 私はベルトからアキューちゃん謹製メイスを抜いた。

 このメイスを使う初めての戦闘だ。

 気合いれていくぞー!


 二体のデカブトムシは、私たちに気づきゆっくり近づいてくる。

 大きさが成人男性くらいあるからかなりの迫力だ。


「片方はあたしが引き付けるから、もう一体のほうよろしくねー」


 シャルちゃんが一体の、デカブトムシに飛び蹴りを食らわせた。

 そのまま私たちから離れるように、移動しデカブトムシを誘導する。

 彼女の狙い通りデカブトムシは向きを変えて追いかけて行った。

 もう一体はそのままこっちへ向かってくる。

 うぉー、やっつけてやるー!


「てーい!」

「ま、待てココ! 迂闊に近づくと危ない!」


 私はデカブトムシに向かって突撃して、メイスの一撃を食らわせた。

 ゴツンと鈍い衝撃。

 これは効いたんじゃないかな!

 しかしデカブトムシの動きは止まらず、頭を下げて角で私の体を持ち上げ、そのまま勢いよく後方へ私を投げ飛ばした。


「わー!」

「ココ!」


 ぶわっと私の体は宙に浮き、地面に落ちるとごろごろ転がった。

 すげー、これがカブトムシのパワー!

 落ちた時が痛いけどちょっと楽しかった。

 急いで立ち上がり無事だとリアナちゃんに合図を送る。


 彼女は安堵の表情を浮かべた後、デカブトムシを見据える。

 よく見るとリアナちゃんの脚が震えていた。

 どうやら虫も苦手らしい。

 じゃあ早く戦線に復帰しなきゃ!


 私が駆け出すのとリアナちゃんが、攻撃を仕掛けたのは同時だった。

 何度もデカブトムシを切りつけているけど、動きを止めるまでに至らない。

 きっと甲殻が丸くて固いから滑ってるんだ。

 剣で切るより鈍器で叩いた方が効果ありそう。

 というわけでもう一度突撃ー!


 背後から近づきメイスを思いっきり振り回す。

 さっきと同じく鈍い衝撃が、手のひらから体に伝わってくる。

 今度は慎重に攻撃されないように叩いてみた。

 

 挟み撃ちで攻撃されて、デカブトムシは混乱しているようだった。

 角をぶんぶん振って私たちを追い払おうとする。

 でも狙いが曖昧でその攻撃に当たることはなかった。


 最後はリアナちゃんの突きで勝負は決まった。

 大きな体がぐらっと揺らいでデカブトムシは地面に倒れた。


「勝ったー!」

「ああ、やったな!」


 私たちが喜んでいると、シャルちゃんが戻ってきた。


「ちゃんと勝てたみたいだね、おつかれー」

「シャルちゃんもおつかれさま!」


 二人でだったけど、初めて戦う強いモンスターに勝てるとすごく嬉しいなぁ。

 それにこのアキューちゃん謹製メイス!

 短剣よりもすごく戦いやすかった!

 街に帰ったら武器屋さんに行って使い心地を報告しなきゃ!


 おっと、クエスト報告用に、デカブトムシの一部を持って帰らなきゃ。

 短いほうと長いほうの角を、それぞれ切り取って鞄に入れておく。


 その後、私たちは一度道のあった場所に戻った。

 そこでこれからの予定を話し合おうとした時だった。

 森の奥から人が大声を上げながら走ってきたのだ。


「た、助けてくれー!」

「誰か、誰かいないの!」


 声の主の姿を確認すると、元リアナちゃんのパーティメンバーの子たちだった。


「あ、いじわる少年少女!」

「リアナ! それにお前はあの時の!」

「レイ、今は悠長に話をしているほどヒマじゃない!」


 ん? 何かあったんだろうか。

 あれ、そういえばもう一人の、魔法使いの女の子がいないな。

 リアナちゃんは様子のおかしい彼らの話を聞く。


「何かあったのか、セニアはどうしたんだ?」

「森の奥で、モンスターに、巨大な蜘蛛のモンスターに捕まっちまったんだ!」

「あたしらだけじゃどうにもできなくて……それで」


 それで彼らは命からがら逃げてきたらしい。


「このままじゃ、セニアが蜘蛛に食われちまう……」

「あたしらどうしたらいいの」


 二人は今にも泣きだしそうだった。

 正直、この子たちはリアナちゃんを傷つけたからあんまり好きじゃない。

 それでも、泣き出しそうな困ってる人を見て、放っておくことはできない。


 リアナちゃんの様子を見る。

 脚が震えていた。顔色も悪い。

 きっと巨大な蜘蛛のモンスターが怖いんだと思う。


「リアナちゃん、大丈夫?」

「……ああ、ダメだな。想像するだけで体が震える。逃げ出したくなる」


 ぎゅっと拳を握りしめて彼女は続ける。


「しかし、かつての仲間の命が危険にさらされている。今逃げるのは騎士として恥ずべき行為だ。……私は、セニアを助けに行く。ココとシャルは……」

「一緒に行くよ。冒険者は助け合いが大切だからね!」

「来るなと言われてもついて行くよ。だってこんな話聞いちゃったら、ごはんおいしくなくなっちゃうじゃない」


 私たちは顔を見合わせて頷きあった。

 そうと決まれば急がないと!

 リアナちゃんが二人にも協力を仰いだ。


「レイ、アンリ、聞いての通りセニアを助けにいく。場所を案内してくれないか」

「わ、わかった、こっちだ!」


 レイ君たちの案内で私たちは走り出した。

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