第8話 武器選びと再会と
私たちのパーティができてから、早くも二週間が経とうとしていた。
冒険者ギルドのクエストにも少しは慣れてきたかなぁ、なんて思ったりするけど、まだまだ請け負えるクエストは少ない。
最近はその中でもモンスター退治のクエストをよく受注している。
三人だからクエストを達成しやすい、というのも理由のひとつではあるけど、ひとつ星ランクの私とリアナちゃんの訓練という側面もある。
特に私は戦闘経験がほとんどないからなぁ。
二人の足を引っ張らないように、もっと頑張らないといけない。
「とう!」
掛け声とともに一歩踏み出して短剣を突き出す。
しかしひっかきもぐらは私の攻撃をひらりと避けた。
すぐにお互い距離を取って相手の様子を見る。
ううむ、やっぱりなかなか攻撃が当たらないなぁ。
「ココ下がって、あたしが倒すからよく見てて」
リアナちゃんの隣まで後退すると、今度はシャルちゃんが前へ出た
彼女は相変わらず武器とは思えない、大きなナイフとフォークを構える。
シャルちゃんは武器を構えたまま説明を始めた。
「まず大切なのは挨拶。心の中でもいいからしっかりと」
「挨拶はしっかりと……!」
「では……いただきます!」
挨拶と同時にシャルちゃんとひっかきもぐらが動く。
距離がどんどん縮まり先に、攻撃を仕掛けたのはひっかきもぐらだった。
大きな前足の爪でシャルちゃんを引っ掻く。
彼女はその引っ掻き攻撃を、大きな動きで側面へと跳んで避けた。
そして横からフォークを真っ直ぐに突き出す。
ひっかきもぐらはシャルちゃんの、攻撃を受けてすかさず後退した。
シャルちゃんはその動きを追って次の攻撃を仕掛ける。
「攻撃する時はためらわず、一撃に想いを乗せて!」
「一撃に想いを乗せる……!」
「今日は、ハンバーグが食べたいなぁ!」
今度はすれ違いざまに右手のナイフでの突き。
時が止まったかのようにシャルちゃんと、ひっかきもぐらの動きが止まる。
そして数秒後、ひっかきもぐらはその場にばたりと倒れた。
おぉ、やっぱりシャルちゃんは強いなぁ。
私に足りないのは挨拶と、一撃に乗せる想いなのかな。
「……待て待て、ココに変なことを吹き込むな」
隣で一緒に見ていたリアナちゃんが声をあげた。
見てみると呆れた顔をしている。
一体どういうことだろうか。
こっちへ戻ってきたシャルちゃんも反論する。
「変なこととは失敬なー」
「例えば挨拶。騎士も試合前には礼をするが、いただきますはおかしいだろう」
「食べる時はちゃんと感謝して食べないとダメじゃない」
「食べるな!」
リアナちゃんが言うには、いただきますは必要ないらしい。
確かに戦う相手にいただきますは変だった。
シャルちゃん流の礼儀では、いただきますは大切みたいだ。
「今の戦いで見るべきところはシャルの動きだ。まずは回避、技術は置いておいてとにかく全力で避けることに集中する。よく耳にするような最低限の動きでギリギリで避ける、なんていうのは達人クラスじゃないとできないからな」
「とにかく全力で避ける……」
頭の中で攻撃を避けるイメージをしてみる。
相手が攻撃を繰り出してから避けるよりも、その前に相手から離れたほうが確かに安全っぽい。
「そして攻撃だ。一回目と二回目の攻撃の違い。一回目の攻撃は多分ココの動きを真似たものだろう。二回目の攻撃がシャルが見せたかったものだ」
リアナちゃんがシャルちゃんの動きを真似て突きをした。
騎士のリアナちゃんがすると、すごくかっこよく見える。
いや、今大事なのはそこじゃないな。
その先はシャルちゃんが続けた。
「リアナは気付いてたかー。えっとね、ココの攻撃には重みがないんだ」
「重み?」
「そう、腕だけで攻撃してるような。攻撃する時はね、もっとこうズドンと!」
攻撃する時はズドン! と。
ズドンを意識しながら突きの練習をしてみる。
えいえいっ、こうかな?
「まだまだだねー」
「もしかすると武器が悪いのかもしれないな。短剣は扱いやすくはあるが、モンスター相手には間合いや威力がいまいちだからな」
短剣しか家になかったからこれを使ってたけど、今ならクエストで得たお金もあるし他の武器が買えそうだ。
「じゃあ、ココに合う武器を探しに行こうか」
「うん!」
私たちは今日の訓練を切り上げて、レルエネッグの街へ戻った。
選んだ武器屋さんは以前に、松明を買った雑貨屋さんの姉妹店の武器屋さんだ。
雑貨屋さんの外観は丸みがあったけど、武器屋さんの屋根は尖っていた。
中に入ると武器がずらりと並んでいる。
ただ剣というだけでも、たくさんの種類がある。
短めの物から背丈より大きい物まで。
この中から自分に合った武器を選ぶ。
わくわくしてきた!
「どれにしようかなぁ?」
試しにリアナちゃんが使ってるような、長い剣を手に取ってみる。
おぉ……これは、かっこいい。
でもちょっと重すぎるかも?
同じく幅が広い剣も重かった。
「シャルちゃんの武器みたいなのは売ってないね」
「あたしのは特注品だからねー」
ナイフとフォークってなかなか、かわいいと思う。
でもないなら別のを選ぶしかないなぁ。
うーん、槍なんてどうだろう。
これなら遠くからも攻撃できて良さそう。
問題は持ち運ぶのがすごく大変かも。
便利でかっこいいんだけどなぁ。
これは悩む。
次は斧。
これもかっこいい。
何と言っても強そう!
種類も片手で持てる物から柄の長い物まで様々だ。
「どうだ、良いのはありそうか?」
「うーん、いろいろあって悩むね!」
「ゆっくり悩むと良いさー、あたしも初めて武器を選んだ時は迷ったから」
それは意外だ。
他にはどんな武器を使おうとしてたんだろう。
「包丁にするかスプーンにするか、おたまやしゃもじにするか。いろいろ悩んだなぁ」
「全部料理関係なんだね」
「食は人生だからね」
割と意外でもなんでもなかった!
実にシャルちゃんらしいチョイスだ。
どれも普通の武器屋さんでは売ってないのが残念だけど。
「リアナちゃんはどうして剣にしたの?」
「私か。そりゃあ、騎士と言えば剣じゃなきゃ。もちろん他の武器でも良いんだが、私にとって騎士の武器は剣なんだ」
「なるほどー」
リアナちゃんの選び方だと、私にとっての冒険者の武器になるのかな。
だとするとやっぱり剣かなぁ。
迷う、どれにしよう。
あれこれきょろきょろ見ていると、リアナちゃんが別の武器を持ってきた。
「鈍器なんてどうだ? このメイスとか。これなら扱いやすくて尚且つ強いぞ」
扱いやすくて強い。
なんて素敵な響きなんだ。
形もなんだかギザギザしていてかっこいい。
見てみるとサイズもいろいろある。
その中で大きめの、両手でも使えるタイプを手に取ってみた。
おぉ……なんだかしっくりくるぞ。
先端部分が他のメイスより大きくて迫力もあるし。
これは良い物だ!
「これにする!」
「随分ごついのを選んだな。それなら振り回してるだけでも、モンスターを倒せそうだ」
「気に入った武器を使うのが一番良い。使いこなせばナイフやフォークでだって十分戦える」
二人も反対ではなさそうだ。
特にシャルちゃんの言葉はすごく説得力があった。
うん、鈍器気に入りました!
早速、選んだメイスを持ってカウンターへ行く。
するとそこには見覚えのある少女が店番をしていた。
「あれ、あの時の子だ!」
「ん? ……あ」
松明を買いに行った時に、ぶつかった小柄な女の子だった。
こんなところで会うなんて、何か縁があるのかな?
リアナちゃんとシャルちゃんは、私を見て不思議そうな顔をしている。
女の子も私のことを、覚えているような反応だけどどうだろう。
思わぬ再開に私は女の子に声をかけようと思った。
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