Lilly5. 初めての実戦
山の頂上近辺に辿り着く。そこから眼下に広がる光景は圧巻のもので、プロリリの街だけでなく、その奥の真っ白な城壁に阻まれた城塞都市も臨むことができた。
「あれがリリシアナの首都リリエ……イルヴェーナみたいにおっきいね」
「はい、かつてのリリエは城下にリリシアナの経済すべてが入っていると言っても過言ではない賑わいだったはず……です」
「エルフィナさん、リリエに行くのは何年ぶりになりますか?」
「もう何十年と行ってないですからそこはなんとも……すみません、お役に立てず」
心なしかアーシャ姉のエルフィナさんに対するあたりが強いような気がする。エルフィナさんもエルフィナさんでちょっとアーシャ姉にビビっている節が見られている。こういうのはちょっと良くないと思うな……。やっぱり一緒に旅をしてきた仲間なんだからやっぱり仲良くしていたいよ。
「アーシャ姉、エルフィナさん震えてる」
「あ……ごめんなさいエルフィナさん。少し厳しい口調になってしまったわ」
「だっ、大丈夫です……頑張って慣れますから……」
うーん……これはちょっと良くない気がしてくる。そんな時にミオさんが割って入るように二人の間を取り持つ。
「アーシャさん、エルフィナちゃんのことが気に食わないからってそういうのはダメだよ」
「別に気に食わないわけでは」
「そうかなぁ? エルフィナちゃんに厳しくなったのって確か二人が添い寝してからだったよね?」
アーシャ姉は図星といった表情でそっぽを向いた。ミオさんはからかうようにさらに言葉を続けていく。
「なるほどねー、つまりアルセーナが取られるのが嫌なんだ」
「ミオさん」
「あのさー、そんな簡単にアルセーナがアーシャさんにそっぽを向けると思ってるの? ねぇ?」
突然こちらに話を振られても困る。アーシャ姉もちょっとムキになってるような気がするし。私の発言次第ではこのパーティに修復不能な傷が生み出される可能性だってあるんだ。だから言葉を慎重に選んで……!
「アーシャ姉は特別だから。だからアーシャ姉が不安になることは起きない……よ?」
「……当然です」
ちょっとだけアーシャ姉の機嫌が戻った気がする。エルフィナさんへの優越感みたいなものだろうか? エルフィナさんも恐る恐るといった形ではあるものの、アーシャ姉への距離感はまともなものに近付きつつあるだろう。
山を下りながら私はエルフィナさんに射撃技術の確認を受けていた。この辺りはポジショニングさえ上手くやれば魔物の上をとって攻撃することができる。見下ろす形のほうが射撃することにおいては楽にできるという。実際、普通に撃つよりかは多少は当たりやすいという感じだった。
「大事なのは魔物が通るルートを予測してそこに弾丸を置くイメージです。魔物の一歩先を狙うのが重要だと、思います……」
「分かった。やってみるね」
私たちの道のりを阻むように小型の魔物の群れが現れた。敵意をこちらに示しており、今にも噛みつかんとこちらに牙を向けている。おそらく家畜かペットが野生化したものであると推測されるが、それでも常人が手を出すには少々難しい。
「アルセーナ、エルフィナさん、雑魚の掃討は任せます。私はそちらに突っ込んでくる魔物を斬りますのでミオさんはもしもの時のためにシューターの発動準備を」
「分かったよ! エルフィナちゃん! アルセーナ、一発ぶちかましちゃいな!」
「はっ、はい! アルセーナちゃん、落ち着いていきましょうね……!」
「うん!」
魔物の群れは突然現れたアーシャ姉にも恐れることなく突撃していくが、アーシャ姉が振るった剣を見るや、動きが一瞬止まる。
「今!」
その止まった瞬間を見逃すことなく引き金を引く。放たれた銃弾はまっすぐに魔物の身体を貫き、一頭の魔物が地面にどさりと崩れ落ちた。魔物たちはアーシャ姉から狙いを外してこちらに向かって突っ込んできた。
「やらせません……!」
エルフィナさんは突貫してくる魔物に臆することなく、一発一発の弾丸を魔物の脳天にぶち当ててその動きを止めていく。こちらにまっすぐに突っ込んでくる魔物は私でも対処が容易い。私もエルフィナさんが撃ち漏らしそうになった魔物を確実に撃ち抜いていった。
こうして魔物の群れを撃退した私たちは、そのあまりにも大きな戦果に驚いていた。
「アルセーナちゃんすごいですね、こんなにすぐ上手くなるなんて」
「えへへ、エルフィナさんが教えてくれたからだよ」
「それなら嬉しい……です。アルセーナちゃんといるといつもよりも弾が当たりやすいような気がします」
自分がお師匠様のようなポジションに収まったのがエルフィナさんにとっても相性が良かったのかもしれない。心なしかエルフィナさんの顔も少し落ち着いているような気がした。ある意味エルフィナさんも一皮むけたのかな?
その日の夜は倒した魔物達をひとつ残らず鍋にして食べ尽くした。可食部が少なかったけれど、それでも上質なお肉だったと思う。その時の私たちはまるで本物の家族みたいで。心がちょっとポカポカしたのはきっと鍋が美味しかったからだけじゃないよね?
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