Lilly4. 導くもの、導かれるもの
「私の村は小さい頃に燃やされてしまいました。強国の侵略の憂き目に遭ってしまったのです」
「……一緒だ」
「そうですね。グリャラシカさんからそれを聞いたときは
エルフィナさんの生まれ育った村は小さい頃に灰と化してしまった。それは私が巡ってきたものと全く同じもの。それでもエルフィナさんは反逆者であるという後ろ指をさされることもなく、街を転々としながら日銭を稼ぎつつ生きてきたという。
「私は正直言ってダメダメでした。他のエルフと比べても際だった魔法の才能があるわけでもなく、弓を使うのも苦手で。役立たずと言われて置いて行かれることも多々あったんです」
「……エルフィナさんが?」
「はい。今でも正直それらを使えと言われるとヒヤッとしてしまいます。そんな私に新しい生きる道を教えてくださったのがお師匠様なんですよ」
そのお師匠様はエルフィナさんが美人だと評するほどの美貌を持つ女性だという。エルフィナさんはお師匠様の話をしているとき、どこか声が遠くに響いているような感覚がしていた。まるで今は亡きお師匠様に語りかけているような優しいものだった。
「お師匠様は見慣れない武器を持っていました。それがこの銃です。お師匠様はこれと弾丸作成キットをくださって私を一流の銃使いに鍛え上げてくれたんですよ」
「大変だった?」
「はい、それはとても。練習中はずっと叱責されっぱなしで、練習中に褒めてもらえた事なんてほとんどありませんでした」
「それでも嫌いにならなかったんだ」
「お師匠様は不器用なところがありましたから」
ふふっと笑ってみせるエルフィナさん。その言葉の節々からは余裕すら感じさせられた。
「お師匠様はこうして夜寝るときは私のことを抱きしめてくれたんですよ。その時にしか本心を口にできませんでしたから」
「甘えんぼうなんだね」
「そうかもしれません」
ああ、エルフィナさんはきっと私にお師匠様が伝えてくれたことを伝えようとしてくれているのだ。言葉だけでなく、その行動で、背中で私に伝えようとしてくれている。
「……私、お師匠様みたいになれてますか?」
「エルフィナさんのお師匠様のことは知らないけど……今のエルフィナさんはちゃんと私のお師匠様です」
「優しいですね、アルセーナちゃん」
エルフィナさんの頭の撫で方はとても優しいもので、まるでお母さんの胸に抱かれているかのようだ。私のお母さんは生まれてこの方見たことがないし、どんな人なのかも分からない。それでも私は、エルフィナさんに抱かれている事に不快感など覚えず、むしろ安心感に包まれていた。
「……本当はアルセーナちゃんを冒険者にしたくないんです」
「エルフィナさん?」
頭を撫でる手は止めず、エルフィナさんがふとそんなことを呟いた。確かアーシャ姉の提案に異論を示したのもエルフィナさんだったような……?
「冒険者になれば常に危険がつきまといます。私だってアルセーナちゃんやグリャラシカさんに助けられなかったらどうなっていたか」
「……つまりエルフィナさんは私を危険に晒したくないってこと?」
「はい。アルセーナちゃんはリリシアナで平穏に暮らしてほしいんです。あそこならアルセーナちゃんのような境遇の人でも一定の生活は保障されますから」
「……そうかもしれません。でも、私は」
私がユーヒ村を出たときに掲げた決意。それはイルヴェーナを越え、リリシアナの地を踏みしめている今であってもそれは全く変わらない。
「私はプトレに戻りたい、ユーヒ村に戻りたい! ……そこで皆さんと楽しく暮らしたいんです。ユーヒ村は何もかも燃えちゃいましたけど、それでも私はユーヒ村に戻るって。私を育ててくれた、救ってくれた村の人たちの想いがある限りは前を向き続けないといけないんです!」
「……やっぱりアルセーナちゃんは強いですね」
エルフィナさんは私をそう評すると抱きしめていた力を緩めて、私の身体を半回転させる。エルフィナさんの顔が間近に見えてちょっとドキドキしてしまう。エルフィナさんの表情は悲しさと嬉しさが入り交じった複雑なもので、瞳からはうっすらと涙がこぼれていた。
「私の村が燃えたときはそんなこと考えられませんでした。今を生きることが精一杯で、これからの未来なんて何も見えない、そんな暗闇の中を私は進むしかなかった」
「……エルフィナさん」
「それでもお師匠様に出会って、一人で戦えるようにもなって。それでも私は村に戻るという選択肢を選ばなかった……いや違いますね。
あの時。ミオさんのお店にやって来たときのエルフィナさんの顔は酷く怯えていて、今のエルフィナさんのような自信がありつつも優しさを見せるような、そういう感じではなかったと思う。
「アルセーナちゃんが進む道は決して楽なものではないでしょう。それでも進む覚悟がある。そんなアルセーナちゃんを尊敬します」
「尊敬だなんてそんな」
「……だから私はそんなアルセーナちゃんを好きになったのかもしれませんね」
「……エルフィナさん?」
「ふふっ、そろそろ寝ましょうか。今日だけは私をお母さんと思っていいですよ」
エルフィナさんが無理やり話を遮って私を寝かしつけようとしてくる。年齢的に言えばお母さん通り越しておばあちゃんなのではと一抹の疑問が浮かぶが、それでもエルフィナさんの胸の中で眠るのはどこか懐かしい感覚がして。その日はいつ眠りに落ちたのかを理解する間もなくぐっすりと眠ることができたのだった。
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