Lilly2. アルセーナ育成計画

 プロリリまでの道のりは、距離こそ短いものの過酷なものである。それは、山をひとつ越えなければならないというのが大きいだろう。イルヴェーナとプロリリの間には長大な山脈がそびえ立っており、山そのものの高さは大したものではないが、迂回路がないというところが問題だ。そしてそんな山の中で私は、小型銃を構えて魔物と対峙していた。


「そっちに逃げた! エルフィナさんお願いします!」

「わっ、分かりました! えっと……これをこうして……こうです!」


 エルフィナさんがお手本と言わんばかりに魔物の脳天めがけて弾丸を放つ。小気味よい発砲音がこだますると、さっきまで元気に動き回っていた魔物が動きを止めてその場にうずくまる。今日のご飯探しという面もあるが、これは私がある程度の戦闘技能があることを示すための予行練習でもあるのだ。


「すごーいエルフィナさん!」

「そっ、そうでしょうか……? これくらい銃を使う人なら当たり前にできるのでは……?」

「動き回る魔物の頭を一発で撃ち抜くのは素人では難しいでしょう。間違いなくエルフィナさんの実力かと」


 アーシャ姉がそう補足する。山がちなこの場所では平地と比較してスピードこそ落ちるものの、撃って魔物を倒すということは難しい。私も使ってはいるのだけれど、あらぬ方向へ弾が飛んでいっちゃうから……。やっぱりエルフィナさんの実力というものは相当のものだと思う。


「そのっ、そうですか……?」

「そうそう、その子もエルフィナちゃんに使われて嬉しいって言ってるよ」

「グ、グリャラシカさん……」

「ミオでいいって言ってるんだけどねぇ」


 肩をポンポンしながら困ったような表情を浮かべるミオさんと、顔を赤くしながらあたふたしているエルフィナさん。この二人は使っている武器が似通っていることや、そもそもエルフィナさんの銃がミオさんお手製というのもあってとても仲が良い。その上で、私たちにも良好に接してくれているのだからとても安心感がある。.


 ミオさんも私たちに気を許すようになったのか、アーシャ姉以外は基本的に呼び捨てかちゃん付けするようになっていた。エルフィナさんにはちゃん付けで私は呼び捨てというのが何というかちょっと違和感を覚えるけど。これもミオさん流の距離の縮め方なのかな?


 道中で食べられそうな魔物を退治しつつそのお肉を拝借する。エルフィナさんが的確に頭を撃ち抜いてくれるおかげで、可食部に影響しないのがとてもありがたい。エルフィナさんの使っている銃は『グリャラシカ・シューター』のような魔力球ではなく、金属でできた弾を使っている。そのため、同じサイズの魔力球と比較して殺傷能力が高いが、その分魔物を食べるという意味では扱いが難しいのだ。


 これもエルフとしての生活が身に馴染んでいるからだろうか? エルフはアーシャ姉曰く、ここからずっと南にある森林地帯を根城としている狩猟民族だという。その主な武器は弓矢や風系の魔法だというが、エルフィナさんはその類いのものを何も持っていない。ずっと不思議に思っているのだが、エルフィナさんはその話をどうやら避けたがっているようだ。


「それでエルフィナちゃん、アルセーナの技術は今のとこどう思う?」

「まだ始めたばかりですから……まずは木とかに狙いを定めて撃ち抜く練習をするべきですね」

「ほい来た、ならそれ用に調整するよ」


 日が沈まないうちに山の頂上に近い場所で野営を行うことにした。ある程度の設営が終わると、ミオさんは私の使っていた銃を練習モードに切り替えて渡してくれる。この銃は初心者用としての意味合いもあるのだという。殺傷力こそ低めだが、銃を扱う上での基本を学ぶ点においてはよい教材だ。


「エルフィナさん、よろしくお願いします!」

「はっ、はい……それじゃあ始めましょうか。まずはあの木に向かって撃ってみてください」


 今のこの銃は実弾が発射されない代わりに、極小の魔力のペイント弾が飛ぶようになっている。見た目こそ分からないものの、使っている私や魔力を感知することができる者はどこに飛んでいったかを確認することができるのだ。


 グリップ部分をしっかりと握って木に狙いをつける。装弾機構をスライドさせて息を整え集中。そして引き金を引くと、実弾さながらの音と反動で見た目だけの空砲が発射される。それでも私の手にかかる負荷は相当なもので、撃った直後にバランスを崩してふらっとしてしまう。


「あっ、あぶない!」

「はわわっ」


 エルフィナさんが即座に飛びかかって私の身体を支える。ほんのりとエルフィナさんのいい香りがしたような気がした。当のエルフィナさんはあたふたしながら私にペコペコ謝っているが。


「ごっ、ごめんなさいエルフィナさん」

「い、いえ。まずは構えからしっかりと作っていかないと、ですね」


 こうしてプロリリに向かうまでになんとか冒険者としての実力があるように見せかけるべく、私の射撃練習が幕を開けた。

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