Lilly6. 反逆者にして聖職者

「さいっあく!」


 その日の夜、ミオさんが怒りながら帰ってきた。持っていったはずの『グリャラシカ・シューター』をなぜかミオさんは持って帰ってきていない。


「ミオさんどうしたんですか?」

「聞いてよアルセーナさん。実験はね、すごく上手くいったの! エルフィナさんもその威力なら大丈夫だよ~って言ってくれたからやっとまともにできたな~って喜んでたのに! なのにうちのクソ親父がアタシの『グリャラシカ・シューター』を勝手に強奪したんだよ!?」


 ミオさんはお父さんとの仲がどうやらよくないらしい。口ぶりからもお父さんへの不満と怒りがだらだらと漏れている。


「大体、失敗作を没収されるならまだ分かるよ? 成功したものまで勝手に奪うとかふざけてる! 衛兵使ってまで奪うとかふざけないでよ!」

「……そのお父さんとはどこにいるか分かりますか?」

「城の中」

「えっ」

「イルヴェーナの城の中にだよ。あのクソ親父、クソ親父の癖に軍事部のトップなのが腹立つの!」


 これでは取り返しに行こうとしたらここでもまともに暮らすことができなくなってしまう。


「もういい、城にシューターぶちこんで壊してやる」

「ミオさん落ち着いて!」

「私の子を奪ったのよ!? それが誰であれ絶対に許さない」


 ミオさんは完全に錯乱しているが、それをアーシャ姉が制止する。


「まずはしっかりとお話をするべきでしょう。ここは私に任せていただけませんか?」

「……アーシャさんが?」

「こう見えてもわたくしは聖職者ですから。人の悩みを聞くのもまた仕事のひとつです」

「反逆者で聖職者って……なにそれ、メチャクチャじゃん」


 ミオさんが少しだけ笑う。こういう時のアーシャ姉はやっぱり頼りになるな。私ではどうしようも無かったけど、アーシャ姉はどこか心の奥底で俯瞰的に見ているような節がある。だから自分のことでないなら私以上に頼りになる存在だ。


「落ち着きましたか?」

「……まぁね。あの頭カチコチ人間のことだしどうせ私を道具にしたいだけでしょうけど」

「アルセーナ、貴女の力も必要です。ですが変装が必要なので少し時間がかかりますが……ミオさんは大丈夫ですか?」

「いいよ。設計図はここにあるから私がここにいれば設計図を守れるし」


 ミオさんとしては設計図ごと奪われるのを危惧しているようだ。だからここを守護するというのは理にかなっている。


「ふふっ、聖職者としての働きは久しぶりですね」

「ここ最近は銃弄りばっかりだったもんねアーシャ姉」

「おかげで銃の扱いに慣れたような気がする」


 アーシャ姉がより強くなっているような気がする。アーシャ姉が本気を出せばワイバーンどころかドラゴンくらいなら頑張れば倒せるんじゃないかな? それこそあのでっかい剣を使えば城のひとつやふたつ一刀両断できそう。


 かくして私たちの『グリャラシカ・シューター』奪還計画が幕を開けた。私たちはまず変装用の服装を求めて服屋を巡っていく。特に仕立てが上手そうな店を見つけると、アーシャ姉が注文を始めた。


「この子にサイズがぴったりの修道服を作って欲しいの」

「修道服ですか」

「そう。私たちは流浪のシスターだからね。新しく弟子になったこの子にはしっかりとした服を作ってあげたいのよ」

「なるほどそういうことですか。では腕によりをかけて作らなくてはいけませんね」

「あとこれは追加なのだけど……」


 こうして服屋の主人とオーダーの打ち合わせを行い、私の身体のサイズを丁寧に測ってもらう。そこの腕はやはり一流のようで、サイズの計算が終わるとそこから制作に取りかかるという。大体一週間くらい待ってくれということなので残りの日にちで様々な準備を整える。


「ではまずミオさんのカウンセリングから始めましょうか」

「私のカウンセリング?」

「当然です。二人の仲のヒビを修復するのです。本来はお互いの意見をぶつけ合うべきなのですがそれをしてしまうとおそらく今の貴女ではボロボロになってしまう。だから私が仲介となるのです」


 私たちは二人の心を繋げるための架け橋とならなければならない。その為にはミオさんとお父さん、二人がどんな気持ちでいるかをしっかりと理解してその上で明確な解答を与える必要がある。


 私たちはミオさんに向かい合う。もう見慣れているミオさんの顔は、今日はどこか全くの別人のように思えた。


「では、始めましょうか。さあ懺悔なさい。今貴女が悔い改めることで貴女の罪は赦されるでしょう。ここには私たちしかいません。隣の少女のことはミオさんも知っているでしょう?」

「……はい」

「少女……アルセーナがいてもちゃんと罪を告白できますか?」

「うん。ちゃんとアルセーナさんにも聞いて貰わないといけないから」

「それならばよろしい。では告白しなさい。貴女の犯した罪を」


 そしてミオさんは静かに語り始めた。

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