Lilly5. 少女の名はエルフィナ
あの一件以降、ミオのお店に冒険者の人がよく訪れるようになっていた。おそらくあの女の人がうちの店の良い評価を投げかけてくれたのだろう。それで商売が良くなることはいいことだ。ミオさんも新装備の開発に手が回らなくなるほどだ。
修理やメンテナンスを神がかったスピードで終わらせてくれるのもどうやら評価に加わっているようで、ここ以外の銃を見てもらうという機会も増えてきた。ミオさんはその機構をまじまじと眺めながらふんふん唸ったりしていろんな知識を吸収しているようだった。
こうしてイルヴェーナにやってきてから一ヶ月が経過したとき、ついに『グリャラシカ・ストライク』の改良品、『グリャラシカ・シューター』が完成したのだった。
「できたー!」
「私も疲れました」
「ミオさん、アーシャ姉お疲れ様でした! お茶を淹れたのでどうぞ!」
「うん、ありがとーアルセーナさん。……ぷっは~身体に染みるわ~」
ドンと置かれた『グリャラシカ・シューター』は長い筒状の構造になっており、取っ手と発射スイッチが同一化している。後部に魔力生成物質を投入し、チャージモードになると筒内で魔力球を生成。そして発射モードにすると魔力球を思いっきり吹き飛ばすのだ。
その大きな改良点は、砲身そのものを手で抱えることが可能という点。そのため反動をどうやっても抑えられないから頑張れば抑えられるにまで改善させている。そしてそれが命中率の向上にも繋がっているのだ。
さらにこれは短くすることができる。最短で少し大きめのコップぐらいにまで縮み、ボタンひとつで一瞬の展開を可能にした。これにより奇襲性は大きく向上。持ち運びにも便利であるし何より目立たない。
「あとはこの子が『グリャラシカ・ストライク』並みの威力を出せればいいんですけどね」
「そこは撃ってみないことにはじゃないかしら」
「それもそうです。ということで明朝に試し打ちに行きたいのですが……お二人はついてこない方がいいと思います。また行って戻るのは大変だと思いますので」
「リリシアナ側はどうなのですか?」
「そちらは山がちなので試し打ちの場所としてはちょっと向いてないですね。でも安全に通行はできると思いますよ」
どっちもどっちということか。これは困ったな……。
「私としては複数人で行きたいのですが……これは困りましたねぇ」
「それって私たちじゃないとダメってわけじゃないよね?」
「そうですね……まぁ銃の扱いに長けていて、ある程度戦える人がいればってところですが……」
「いるじゃん!」
「……! ああそうですね、あの方がいました。明日ギルドで聞いてみましょう。アルセーナさんもついてきますか?」
「うん、私も会いたいし」
あのエルフの女の人ならその条件に合致するはずだ。今もまだ固定したパーティに参入していないのならば何とかなるだろう。
「アーシャさんには店番をお願いします。アーシャさんにならこのお店を預けられますから」
「分かった」
アーシャ姉は店頭に立つときもあの修道服を着ているせいでお客さんがお店を間違えたんじゃないかというトラブルがよく起きていた。でも今では名物になっているようで、すっかりここの店員さんとして馴染んでいた。
そして翌朝、私とミオさんで冒険者ギルドへと向かう。ギルドの中にはたくさんの人でごった返していて、各々が依頼票とにらめっこしている。懐かしいなぁこの雰囲気。私たちも日銭を稼ぐべくこういうことをしていたことがある。だから一種のノスタルジーを浮かべるのは当然なところだよね。
「あっ、いましたいました!」
「えっ、グリャラシカさん!?」
女の人はビックリしながらあたふたしている。ちょうど奥まったところの席で座っている女の人は遠目から見てもすごく綺麗に映っていて、むさ苦しいギルド内でも異様な光輝を放っている。その光輝のせいで避けられている節もあるのだが。
「貴女を探していたんです。えっと名前が」
「エルフィナ、エルフィナ・スティミュレント」
「そうそうエルフィナさん。ちょうど貴女に依頼をしようと思って」
「いっ、依頼ですか?」
エルフィナさんはおどおどしながら私たちの話を聞いている。ここは少し落ち着かせるために私も話に参戦した方がいいのかもしれない。
「あのね、エルフィナさん。私の代わりにミオさんを守ってほしいんだ」
「つまり護衛の依頼ですか?」
「そうなの。本当は私がやるはずだったんだけど行けなくなっちゃって」
「……分かりました。お二人には助けていただいたご恩がありますから。この身に懸けてでもグリャラシカさんをお守りしますっ!」
こうしてギルドに護衛の依頼を受諾してもらい、それをエルフィナさんが引き受ける。お互いに利益のあるやり方だ。依頼の中に実験結果の考察とかも入っているけどそこに関しては一緒にやっていれば問題ないだろう。
二人がプトレ方面へ向かっていったのを確認して私はミオさんの家へと戻る。すると、ミオさんの家に来客があった。その来客とはアーシャ姉が応対している最中だ。
「ミオはいるか?」
「今日は席を外しています。新しい装備の実験だそうです」
「……まったく、誰に似たんだか。あんな役に立たないものに時間をかけるなど」
来客は小綺麗な中年男性で、どこかミオさんの面影を感じさせる顔の作りをしていた。もしかしてと思って私は一歩踏み出して男性に話しかけた。
「もしかしてミオさんのお父様ですか?」
「いかにも、私がミオの父だが……君たちは?」
「ミオさんに留守番を頼まれています」
「……なるほど分かった。ではまた失礼するよ」
そう言ってミオのお父さんは店を後にした。ミオのお父さんは余裕のある態度をしていたものの、どこか焦りと怒りを感じさせる声をしているようで、こちらも少しげんなりする。これはまた面倒なことが起きそうな気がすると私は心の中で頭を抱えるのだった。
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