Lilly3. 不審な訪問者

 ミオさんとアーシャ姉が開発をしている間の私はとても暇だ。掃除や洗濯をして、食事の準備をしてと大体のことをテキパキとやってしまうと、昼下がりにはもうやることがなくなってしまう。そういう時は大体アーシャ姉やミオさんの様子を見ているのだが、二人ともよく分からない文字をいっぱい書き並べて、よく分からない言葉で会話をしている。


「すみませーん」

「お客さんかな? アルセーナさん行ってきてくれない?」

「わかりました!」


 そういえばここはミオさんの鍛冶屋だった。だからそういう依頼も来るには来るのかな。というか来ないでこうやって開発に没頭している方がおかしいんじゃないの? そんなことを思いながら店頭に立つと、そこには男女4人の団体様がやってきていた。男3女1の構成で、装備などを確認すると冒険者の類いだと直感的に理解する。私も勇者さまと一緒にいた頃は冒険者扱いされてたんだよね……懐かしいなぁ。


「はい……なんでしょうか?」

「あんたがミオ・グリャラシカだな?」

「えっ、違いますが……」


 男がいきなり強い口調で私に迫ろうとするので少し恐怖を感じた。これはちょっと嫌な予感がするぞ。


「だったら早くミオって女を出しな!」

「ミオさんは留守にしてます」

「……ちっ、またこれか」

「こいつが匿ってるんじゃねぇか?」

「居留守してんじゃねぇぞカスが!」

「……」


 男衆がミオさんに対して明白な怒りをぶつけているのに対して、女の人はなぜか怖がっているように思えていた。まるで男の人に脅されているような、そんな雰囲気さえする。


 ……というかこの女の人ひょっとしてエルフじゃないか? 耳の部分が特徴的だという話は小耳に挟んでいたが、確かに特徴的で私でもすぐに理解できた。……これちょっときな臭いな。少しカマをかけてみて様子を探ってみるのもありかもしれない。


「お姉さん、一体何があったのか教えていただけますか?」

「あぁ? なんでこいつに聞くんだよ」

「少し黙っていてもらえますか」


 ちょっとだけ語気を強めて男を制する。男も私の感情に揺らされたのかこれ以上の追及を避けた。おそらくだが問題の装備を使っているのはこの女の人で間違いないと思う。


 男らが帯剣していて今にもそれを抜いて襲いかかってきそうなのに対して、この女の人は明らかに無防備だ。魔術師の類いなら杖のひとつやふたつ持っていてもおかしくないのだが、そうでないならばおそらくはもっと別の武器だろう。


「……使ってたら、急に使えなくなって、それでいろいろ大変なことになっちゃって」

「つまり不良品を掴まされたと」

「不良品……というわけではないんですけどその……」

「ちなみにどのような装備を?」

「これです」


 女の人の震える手から持ち出されたのは小型の大砲……いや銃だ。勇者さまがこれを銃だと言っていたからこれは銃だと思う。見た目は特に傷があるように思えないのだが……これが本当に不良品なのだろうか? 私の一存でどうこうするわけにもいかない。


「ひとまずお預かりしてもいいですか? ミオさんが帰ってきたら調べますので」

「お前じゃできねぇのかよ、使えねぇな」

「申し訳ありません」


 客から暴言を吐かれながらも私はただ頭を下げるしかない。目の前で暴れられたらここがメチャクチャになってしまう。穏便にとっと帰ってもらうことを目指すほかない。

 

「けっ、クソみたいなもの作りやがってよ」

「これだからこいつのとこには頼みたくなかったんだ」


 そうへいべいに文句を言いながら四人組がどこかに行ってしまった。後ろを向くと、物陰からミオさんがその様子をビクビクしながら眺めていた。


「見てたの?」

「そりゃあんな声で恫喝されたらね。大丈夫だった……?」

「ワイバーンほどじゃないので」

「比較対象おかしくない?」


 あの敵意はまだ敵意とは言い難い。本当に怒っているならその剣が抜かれて私はもうこの世に存在していないから。


「それでこれ本当に不良品なんですか?」

「まさか! 『グリャラシカ・ストライク』は試作品だから失敗はいいけどこれはれっきとした商品だ。念入りなテストを含めてちゃんと大丈夫だって確証を得てから渡してる」


 ミオさんが工具を持ってきて不良品と呼ばれていた銃をバラバラに分解していく。すると、すぐに不良部分を見つけたようだ。だがそれを見ながらミオさんは焦ったような顔を浮かべていた。


「……これ、人為的に壊されてる」

「つまりわざとってこと?」

「うん。ここのパーツは本体を支える骨で、かなり頑丈に作られているんだ。で、ここの骨が折れて発射機構の邪魔をしてる。だから壊れたように錯覚したんだろうね」

「……かなり頑丈に作られているのに折れることってあるんですか?」

「強い衝撃を与えればヒビが入ることもあると思う。それでも、ようには折れないよう設計されてるんだ」


 そしてミオさんは恐ろしい仮定を投げかけた。


「ねぇアルセーナ、その女の人ってこの銃以外に武器みたいなの持ってた?」

「持ってなかったですね」

「……あまり想像したくないが、あり得なくもないな……クソッ。……アフターサービスだ。アルセーナもついてきて」

「えっ、ミオさんどこに」

「こういう時のために所有者認証ってのがあるんだよ! この子にはその女の人の魔力がたんまりこもっている! だからその魔力を追跡すれば……!」


 ミオさんの指先がほんのり青く光る。そしてミオさんの目も同じような色に光り、何かを見ている。そしてその銃と同じモデルの銃を太ももに巻かれたベルトにくくりつけた。


「この子を利用した罪、しっかり償ってもらわないと!」

「えっ、私行っても役に立たないんじゃ」

「いいから来る!」


 なんかすごいことに巻き込まれてしまったような気がする。でもなんでミオさんは私を連れて行くんだろう? そんな疑問を浮かべながら私はミオさんに引っ張られながら街を駆けるのだった。

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