Lilly10. 見習い鍛冶師ミオ

「ああっ、ごめんなさいごめんなさい! また私の悪いクセが出てしまいました~……」


 ミオと名乗る少女があたふたしながら頭をペコペコ下げている。さっきから頭を下げてばかりで一向に話が進まない。


「頭を上げてちょうだい。それで、なんでこんなことになってしまったの?」

「この『グリャラシカ・ストライク』は対大型生物に特化した武装なんです。なのでテストしようにもこういった開けた場所でやるしかなく……それでテストもうまくいかないし魔物に追いかけられるしでもう最悪だったんですよ!?」

「……どんな感じで撃つんだろこれ」


 しかしよくできた武装だよねこれ。持とうとすると意外にもひょいと持ち上げられるあたり、かなりの軽装化をしているらしい。造形にも意匠が施されており、持っていてカッコいい武装といった感じだ。その大砲に興味を持っているのを感付かれたのか、ミオさんが食い気味で話しかけてきた。

 

「気になりますか? えっと名前は……」

「アルセーナっていいます!」

「ではアルセーナさん。これは実際に見てもらった方が早いと思います!」


 そう言って『グリャラシカ・ストライク』を背負って遠くへと離れるミオさん。結構遠くまで離れていったことからかなり大がかりな武装なのだろう。


「まずこのハンドルをぐるぐるっと回します」


 ちょうど腰のあたりにハンドルが位置しており、それをぐるぐると回す。するとさっきまで上を向いていた砲門がどんどんと下へ下へ傾いていき、敵を狙うモードへと切り替わっていくのが分かる。


「この状態で左手にあるボタンを押せば自動的に発射されます! でも問題は発射する時なんです!」


 ミオが左手に握られたボタンを押す。すると砲門が青く光り始め、発射までのカウントダウンが読み上げられ始めた。5,4,3,2,1,


「発射ぁ!」


 という叫び声と共にミオが思いっきり後ろに吹っ飛ばされた。そのせいで『グリャラシカ・ストライク』から放たれた光の砲弾は明後日の方角へと飛んでいく。なるほど、大体の事情が理解できた。おそらくあのミスショットが不幸にもボアーの近くに当たってしまったことでボアーが激昂。そして今に至るといったところか。


「あっ、その方向はマズいです! 今すぐ逃げてください!」


 ミオのところへ行こうとすると、ミオの制止の声が響き渡る。私は思わず足を止めると、ちょうど目の前にさっきの砲弾が落っこちようとしていた。


「……間に合え!」


 アーシャ姉が光の防壁を張って対処するが、さっきの砲弾が地面に落っこちた瞬間に私たちも同じように吹っ飛ばされてしまう。アーシャ姉の光の防壁すら貫通する威力というのはあまりにも強すぎる。対大型生物用の兵器だという言葉に違いなしだ。


「アルセーナさぁぁぁん!」

「……あれ? なんともない?」

「はぁ……はぁ……二重防壁はさすがに疲れる」


 アーシャ姉が防壁の二枚張りでなんとかこらえていた。光の防壁は、一枚目は見るも無残に砕け散っており、緊急展開された二枚目もなんとか持ちこたえているという衝撃。一方のミオさんは『グリャラシカ・ストライク』がクッションになっているおかげで転倒による衝撃はないようだ。


「ごめんなさいごめんなさい! 命の恩人だというのに酷いことを」

「見たいって言ったのは私だからそんなに謝らないで。それにしても威力はすごいね」

「そうなんです。でも他がどうしようもないので周りからもバカにされる始末ですよ。私ってダメダメですね」

「そんなことないよ!」


 どんな時でも前を向く。下を向いて寂しそうにしている人がいるなら私が励まして一緒に前を向くんだ。だから私の決意は既に固まっている。


「あんなカッコいい武器を作って、実際に撃てるようになってる。それだけで私はすごいと思うな」

「あはは、慰めてるんですかそれ」

「私はみんなみたいに何かすごいものを持ってるわけじゃない。アーシャ姉みたいにカッコよく戦うことも、ミオさんみたいにすごい武器を作ることもできないんです。だから私はミオさんがダメダメだなんて思わない。私が持っていないものを持っている人みんなすっごいんですから!」


 ミオさんは涙を流していた。何か悪いことを言ってしまったのかと内心あたふたしていると、ミオさんは涙を拭って私の目をまっすぐと見てくれた。


「ちょっと元気が出てきました。ありがとうございます、アルセーナさん」

「……うん。ミオさんいい笑顔」

「っ……そうですか? そういうことは初めて言われました……」


 ごほんとアーシャ姉が咳払いをする。私たちの意識がアーシャ姉の方へと向いたのを確認すると、アーシャ姉がミオさんに近付く。


「私たちはイルヴェーナに行かなくてはならないの」

「……あぁなるほど、亡命ってやつです?」

「なぜそう思うのかしら?」

「最近プトレ皇国からの亡命者が多いってことでちょっとした話題なんですよ。何かあったんですかね?」

「ええ。私たちも亡命が目的よ」

「わーお」


 アーシャ姉の厳しい追及の中でも余裕を見せるミオさん。もしもミオさんの協力を取り付けることができればリリナシアへ行くのもかなり楽になるだろう。


「貴女には亡命に協力してほしい」

「……まぁ私にできることであれば協力しましょう。いろいろと助けられたご縁もありますから」

「感謝するわ。その対価と言ってはなんだけど、貴女のそのトンチキ大砲、私たちにも一枚噛ませてくれないかしら?」


 私もミオさんもお互い驚いた表情でアーシャ姉を見つめる。アーシャ姉は一体何を考えているの?

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