第33話「ヅラを取る。そして店長をあてがう」※あいり

「立花……ほ、本当にいいのか?」


「うん、いいよ……」


 進藤くんは興奮しながら私に許可を取ると……乳首をもてあそび始めた。鼻息が少し荒くなっている。


「じゃあ……いただくぞ」


 進藤くんはプルプルと感触を確かめたあと──おっぱいにしゃぶりついた。うぅ、気持ち悪いよぉ……。

 本当は葉くんにあげるつもりだったのに。おっぱいが大好きな葉くんにあげるつもりだったのに。


 でも……進藤くんの欲望を満たすにはこれしかなかった。私も犠牲を払わなければならないほど追い詰められている。


「最高だぜ、立花……」


 そんな進藤くんの頭頂部を私は白い目で見ていた。そして──通帳を開いた。


 エサ代が足りなくなっている。そろそろ私のお小遣いの範囲では収まらなくなってきた。

 今は苦肉の策で冷蔵庫にあったおっぱいプリンを差し出している。せっかくお父さんがお土産で買ってきたのに……。


 普段はデザートなんて出さないから進藤くんは満足気な様子。大変遺憾です。気持ち悪い食べ方は大変不快です。

 何はともあれなんとか目標の摂取カロリーを稼げたけど……そろそろ貯金が底を尽きそう。


 これは早急に金欠対策をしなければならない。私はスマホを取り出してタウソワークのアプリをダウンロード。すぐに働けそうなアルバイトの検索に取り掛かった。


 う〜ん……今から働いてもお給料が入ってくるのは1ヶ月後になっちゃうし、なるべく日払いか週払い制度も対応してくれるところがいいな。あとは短期バイトでもよくて……願わくば葉くんのおうちから近いとこ。


 だって、武田さんばっかりズルいんだもん。毎日のように葉くんの家に入り浸って。私だって佐原ジムに通いたいよ。まったくもう。


 ぶつぶつと心の中で不満を言いながら希望の条件を入力していると、該当するバイト先が一件見つかった。

 ファミリーレストランなごみ。バイトの詳細を見てみよう。


『キッチンまたはホールのアルバイトを募集中です。力仕事はないので女性でも大丈夫です。当店では多くの女性が活躍中です。女性の店長の元、手取り足取り優しく指導するので女性でも安心です。シフトも柔軟に対応しますので、“突然友達から遊びに誘われちゃった……どうしよう”そんな若い女性にもぴったしです。ぜひぜひ、当店への募集を心からお待ちしております』


 なんだか凄く匂う文章だった。まるで女の人だけを誘い出すような募集の仕方。

 一番引っかかるのは副店長が女性という一文。これは捉え方を変えるならば店長は男性ということだ。


 ちょっとやめとこうかな。そう思ったけどここ、葉くんのおうちから凄く近い。これは希望条件の中でも最優先事項だ。


 とりあえず面接だけ受けに行こうかな。変な店長だったら申し訳ないけどお断りしよう……。


 *****


「き、きみ、かわ……いいね。すぐに採用するから明日からでも出勤してみない? いま夏休みだよね? 予定ないようだったら考えてみてよ。手続きはうまいことやっとくから」


「は、はぁ……」


 挨拶を交わしてからすぐにそんなことを言われた。かつらと名乗ったこの店長。目が血走ってて怖い。あと明らかに視線は私の胸元へと注がれている。どうやら私の嫌な予感は的中してしまったらしい。


 さすがに本人を目の前に人柄が気持ち悪いからやめますとは言い辛い。ここはとりあえず何かと理由を付けて、帰ったあとに断るとしよう。

 そう思ったとき、私の考えを改めさせる出来事が起こる。


「いや〜、それにしてもよかったよ。女の子が来てくれて。男のアルバイトって扱い辛いんだよね。怒ると逆ギレしたりするしさ。30分くらい前にバイトの募集に来たやつがいたんだけどさぁ、男だったんだよね。ほんと紛らわしい名前しやがって。男と分かってればWeb募集の段階で蹴ってるっての。てか募集要項見て分かれよな」


「……そうなんですね。ちなみにどんな名前だったんですか?」


 店長は手元の書類をペラペラめくるとその名前を口にした。


「えーっとね、葉っての」


「葉くん!? 佐原ですか? 佐原ですよね?」


「そ、そうだけど……もしかして知り合い?」


 葉くん、ここのバイトの面接に来てたの!? しかも30分前に……。

 これはまたとないチャンス。夏休み中も葉くんに会える。でも店長の口ぶりからすると、このままだと葉くんはここで働けない。

 少し冷静になると私は話を切り出した。


「ただのクラスメイトです。ただ……その、私、アルバイトとかしたことなくて……人見知りなところもあるので、1人だと不安なんです。ただのクラスメイトですけど、学校の共通の話題とかもありますし、なんかあったときにシフトの交換とかもお願いしやすいので……彼がいてくれると助かるんですが。ただのクラスメイトですけど……」


「悪いけど男は雇うつもりないかな。扱い辛いし。大丈夫だよ心配しなくても。俺が付きっきりで優しく教えてあげるからさ」


 優しく教えてくれるのは女性の副店長じゃなかったのかな。あ〜あ、ダメか。じゃあやめよ。

 帰ってから断るつもりだったけど、喜びの落差から率直な物言いに変わっていく。


「そうですか……やっぱり不安なんでやめますね。ありがとうございました」


「え!? ちょ、ちょっと待って!」


 立ち上がろうとした私を店長は手を伸ばして引き止めた。幸いにも体には触れてない。危なかった……もしも触れられてたら反射的に手首を捻くり返してたかもしれない。

 

 店長は少し間を置いたあとに考えを改めた。


「分かった、分かったから。このクラスメイト雇うから。だからここで働いてよ、ね? いいでしょ?」


「ほ、ホントですか!? ありがとうございます! いっぱい(葉くんと)働きます!」


*****


 面接が終わって店を後にした。葉くんとアルバイトかぁ……楽しみだなぁ。

 制服のポケットからスマホを取り出すと赤色の四角マークをタップ。そこからブラウザを起動した。


 今は簡単に調べ物ができるから本当に助かる。


『ファミリーレストランなごみ 本社』


 大手のファミレスだけあって、ホームページからはもの凄くコンプライアンスを遵守する内容が伝わってくる。これならまともな対応をしてくれそうかな。とりあえず、カツラは取った方がいい・・・・・・・・・・・・ですよ?


 新しい店長は女の人だったらいいな。

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