第26話「夏でも飲みたい」
「葉くん、背中の紐外して?」
うつ伏せになり、綺麗な長い髪を右に流した立花さんが俺にお願いしてくる。
普段は見えないうなじと夢のようなセリフが俺の理性を吹き飛ばしにかかってきた。
た、耐えるんだ俺。
腰の紐は見ないと決めた途端、まさか背中の紐を外すなんて誰が想像できただろうか。俺は蝶結びになった紐の端をドキドキしながら引っ張った。
シュルシュルシュル。
外れないように2回くぐらせてるみたいだ。これあとで俺が結ぶんだよね。ちゃんと元通りに結べるようにしなくては。
この公衆の面前で立花さんのビキニが外れたら一大事だからな。このFは誰にも見せてはならない。
ちなみに新は見たのかな。もしかしたらモミモミとかそれ以上してるかも。くそ、羨ましい。
首の紐も塗るとき邪魔だから外してと言われた。先程まで固く結託していた紐は力なくレジャーシートに倒れ込む。
もうビキニは着ているのではなく、Fに押し潰されている状態だ。いま立花さんが立ち上がればその大きな実りの全容が解き明かされることだろう。
立花さんから受け取った日焼け止めの蓋を開け、左手のひらに垂らしこむ。ボトルが少し冷たかったから保冷剤かなんかの近くに入れてたのかな。少しヒンヤリする。
この白い液体を今からこの吸い付くような肌にヌリヌリするんですよね。
「そ、それじゃあ……いきます」
ピトッ。
「あんっ」
「ちょ、変な声出さないでもらえますかね? 飛びそうなんで」
理性が。ついでに鼻血も。その綺麗な肌が俺の血で真っ赤に染まっても責任取りませんからね?
「だって思ったより冷たかったんだもん。葉くん、あったかくなるまでさすってね」
ヌリヌリにサスサスが追加オーダーされた。
というか、なんですかこれ。吸い付くような肌っていうか吸い付くんですけど。モチモチした肌と絶妙に沈み込む弾力感。これがふわもち肌ってやつですか。
お、女の子の体ってこんなに柔らかいの……。
ヌリヌリ。
「んっ、んっ」
サスサス
「んっ、んっ」
ヌリヌリサスサス。
「んっ、んっ、んっ」
こりゃダメだ、もうすぐ飛ぶ……。
*****
ギリギリ何とか立花さんを真っ赤に染め上げずに済んだ。
途中から記憶がない。あれ、俺ちゃんとビキニの紐元通りに戻したっけ。確認した方がいいかな。でもビキニの紐を確認させろって言ったら完全に変態だよね。
背中の紐は見た感じでは元通りになっている。首の紐は長い髪に隠れて見えない。まぁ、大丈夫だろう。
そんな俺の葛藤の一部始終を目撃していた文也が絡んでくる。
「ずりぃなおい。途中で俺と替わってくれてもよかったんじゃねーの」
「お前は何も分かってないな。文也だったら今ごろ立花さんを真っ赤に染め上げて暴行罪で逮捕されているところだよ」
「事情を知らないと俺がヤバいやつみたいになってるからね、それ」
「ところで新はまだ帰ってこないのか?」
「どうせどっかでナンパでもしてんだろ」
当然文也は知らないだろうけど、近くにこんな美少女の彼女がいたらナンパする気なんて起きないだろう。
さすがの新も納刀にかなり苦戦してるようだ。逆に俺が早いとかじゃないからね。断じて。決して。
「進藤とかどうでもいいから早く行こー?」
さすが大澤さん。新にも容赦なし。まぁ場所も確保してるし、光った頭ですぐに見つけられるだろうからという理由で俺たちは流れるプールに向かった。
園内をぐるっと周る流れるプールは子供から老人まで楽しめるアトラクションの一つ。
見知らぬ子供たちはキャピキャピと大いにはしゃいでいて、そこに俺たちも加わった。
女子たちはみんな浮き輪を持ってきている。
ぷかぷかと浮かぶ美少女3人。なんとも可愛い光景である。それにしても立花さんの浮き輪だけなんかデカイ。
「ささっち、押して?」
「任せろ」
加速感をお望みなのか藤沢さんは陽介に浮き輪を押すように要求。なるほど、ここでサッカー部の脚力が活かされるのか。
「あ、私も。柳よろしくー」
「俺をパシリのように使うな」
文句を垂れながらも、文也は大澤さんのリクエストに応えて浮き輪を押し始めた。
まぁ大澤さんみたいな可愛い子にお願いされたら断れない気持ちは大いに分かる。
4人は流れるプールの流れに乗らず、スイスイと先に進んでいった。
「葉くん、一緒に浮き輪に入ろ?」
「あの、俺に対しての要求だけおかしくないですかね」
「だって一緒にぷかぷかした方が楽しいよ?」
もちろん俺にとってはいいことだけど。
そもそもその浮き輪って新と一緒に入るために用意してたんじゃないのかな。
おーいハゲ、戻ってこーい。じゃないと俺が一緒に入っちゃうよ?
仕方ないから3秒だけ待ってやる。3、2、はい戻ってこなーい。
「それじゃあ、お邪魔します」
大きい浮き輪と言っても、大人とさほど変わらない体格の男女が入ればそれなりに狭くなる。
俺の胸板と立花さんの吸い付く背中が密着する。鎖骨から下った水滴は肌と肌の隙間に入り込み、むず痒さと温もりでなんとも言えない感覚だ。
そしてプール特有の塩素臭と共に、以前嗅いだことのある
近い。ものすごく。
「ふふっ、葉くん……あったか〜い」
夏の時期に自販機に入ってたら殺意を覚える。
けど俺は迷いなくそのボタンを押すだろう。
あったか〜い。
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