第25話「品種改良」

 夏に行われる欠かせない娯楽、プール。

 照りつける太陽のもと、俺たちは女子の着替えが終わるのを待っていた。


 これから女子たちの水着をありがたく拝める幸運なメンバーは俺、陽介、この間ハンバーガーを一緒に食べたサッカー部の文也、そしてハゲの4人だ。


 それにしても陽介と文也はスポーツで鍛え上げた引き締まったいい体をしている。

 あんま部活の内容について話したことないから分かんないけど、筋トレは自重が中心なのかな。


「なんだ葉、人の体をジロジロみて」


「やめろよ葉、自家発電のネタはこれから来る女子たちにしておけ」


「俺を変態のように言うでない。男優は俺1人いれば十分だ。女優は何人いても可」


「葉はハーレムものをご希望っと。それはさておき新、おまえしばらく見ない間に少し太ったか?」


 文也が新に体型のことを尋ねた。バカにするわけでもなく単純な疑問。

 新の元の半裸がどんな感じかは知らないけど、この中で腹筋が割れてないのは新だけだ。まぁ文也が言うように俺もそのことには前から気がついている。


「最近飯が美味くてな。俺もこの夏にダイエットでもして更にイケメンに磨きをかけちゃおっかな〜」


「ははは、冗談はその頭だけにしとけよ」


「おいコラてめぇ」


 新が文也にヘッドロックをかましてじゃれ合ってると、俺たちに近づく水着美少女たち3人の姿が。


 遠巻きにでも分かるレベルの高さ。もちろんそのうち1人は群を抜いている。これは俺の補正とか関係ないと思う。まじ天使。


「お待たせー」


 ギャルっぽい藤沢さんはレースがあしらわれた黄色のハイネックビキニ。褐色の肌と合わさってとてもよく似合っている。うん、可愛い。


「進藤はさっきから何をやってるのかな」


 猫顔系でかわいい大澤さんはフリルの付いた水色のオフショルダービキニ。露出した肩から胸元までのラインがとってもセクシー。


「ど……どうかな、似合ってる、かな?」


 そしてお待ちかねの立花さん。

 ん〜、黒ビキニ。シンプルなホルターネックの黒ビキニである。立花さんの美しいボディラインとFを引き立たせるようにまとわりつく魅惑の黒。

 あぁ、ふつくしい。腰に結びつくその紐はいろいろと妄想してしまうからあまり見ないでおこう。


「うん、すごく似合っ──」


「すげぇ似合ってるぞ立花! 最高だ!」


 俺に被せて感想を述べる新。

 気持ちはわからないでもないが、興奮し過ぎじゃないか。ほら、さすがに彼女の立花さんもちょっと引いてるぞ。


 テントとレジャーシートを広げてベースとなる場所を確保した。

 プールでは特に紫外線対策は必須。妹から日焼け止めを貰ってきたから忘れずに塗っとこ。

 

 一度だけ何も塗らずにプールで遊んだ時には、死ぬほど赤くなって1週間くらい地獄のシャワー生活を送った経験があるからな。もうあんな思いはまっぴらごめんだ。


 あれ、日焼け止めどこにやったっけ。

 俺がカバンをゴソゴソと漁っていると、新と立花さんの会話が聞こえてくる。


「進藤くん、日焼け止め塗ってあげるね」


「へへ、マジか。それじゃあお願いしようかな」


 立花さんはボトルから日焼け止めを取り出し、新の胸に塗りたくり始めた。


 ネチョ、ネチョ、ネチョ、ネチョネチョネチョ。


 く……くそ、新のやつ……。彼氏だから仕方ないけど、あんなにネッチョリと隈なくと塗られやがって。

 前半身が塗り終わると新はうつ伏せになった。背中側にも同様に日焼け止めを塗り始める。


 ネチョ、ネチョ、ネチョ、ネチョネチョネチョ。


 あぁ、立花さんの極上マッサージを思い出す。あんなにヌルヌルして……羨ましい……。


 俺はその光景を目に1人虚しく探し当てた日焼け止めを塗り始めた。


「ねぇ佐原っち。背中塗ったげようか?」


 そんな新と立花さんのイチャイチャを前に、意気消沈した俺を気遣ってなのか藤沢さんが話しかけてきた。

 こういうところが密かに男子人気が高い理由なのかな。納得。


「いいの? じゃあお願いしようかな」


 ヌリヌリヌリヌリヌリ。


 優しい手つきで俺の背中に日焼け止めを塗ってくれる藤沢さん。なんかいろんな意味であったかいです。


「佐原っちって帰宅部なのにすごい体してるよねー。すごくカッコいい」


「ほんと? ありがとう。父さんの影響で筋トレが習慣化してる影響かな。ちなみに喧嘩はめっちゃ弱いと思うんでそこんとこよろしく」


「ははは、佐原っちおもろー。でも喧嘩自慢する人よりそっちの方が潔くてウチは好きだよ」


 俺と藤沢さんが談笑に花を咲かせていると、日焼け止めを塗り終わった新はものすごい勢いで立ち上がり、どこかへ消えて行った。

 あぁ、分かる。分かるぞ新。お前もあまりの気持ち良さにしてしまったのだな。抜刀を。


 そのあと新と同じくらいの勢いで立花さんが俺たちのところにやってきた。


「桃花ちゃん! なんで葉くんに日焼け止め塗ってるの!?」


「えー? だって、あいは進藤に塗ってあげてたし、佐原っち1人で背中塗るの大変そうかなーって思ったんだもん」


「もー! 私が塗る予定だったのに!」


「ごめんって、あんま怒んないでよ。そしたら佐原っちから日焼け止め塗ってもらえば?」


 いや、藤沢さん何を仰ってるんですかね? さすがにそれはまずいのでは。


「そうする。じゃあ葉くん、お願いね。はいこれ、あ、間違えた。はいこれ」


 本当に、本当にいいんですかね。

 というか立花さん、いま間違えて差し出したのって……。


 サンオイルですよね?

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