第24話「それじゃあ」
母さんは酔うとマジでめんどくさい。というかアルコールに弱過ぎる。
まぁそのおかげで俺と妹が産まれたと言っても過言じゃないんだけど。
どういう事かというと母さんが学生時代、
ベロベロに酔い潰れて男にお持ち帰りされそうになったところ、父さんが助けて酔いが醒めるまで介抱したのが馴れ初めらしい。
それ以来、母さんは父さんの前以外では絶対にお酒を飲まない。
「どうらんだよー、ほい」
こいつぁーダメだ。ものの数分で出来上がってら。
こうなったらあれをやるしかない。でも本当にこの場でやっていいのか。俺は妹に目配せした。妹はコクリとゴーサインを出す。
仕方ないか……せめて立花さんと武田さんには見せないようにしよ。
俺は少し深刻な声で二人にお願いした。
「二人とも、少しだけ目を閉じてくれないか?」
「「え!?」」
二人は困惑しつつも、持っていた箸と紙皿をテーブルの上に置いて目をつぶった。
よし、今のうちだ。
「父さん……あとよろしく」
「了解した」
父さんは母さんに近づくと俺から引き剥がし、ヒョイっとお姫様抱っこした。
「ら、らにすんだ〜」
「愛してるよ、かなえ」
ぶっちゅ〜。
家では何度も見た光景。俺と妹はもう見慣れた。
何があったかは効果音で想像して欲しい。シラフなのに子供の前で平然とそれをやれる父さんの精神は、いったいどうなってるんだと疑った時期もあったが。
「ふひゅひゅ……そうちゃん、しゅき〜」
メスの顔である。
ウザ絡みモードから父さん限定甘々モードへと移行。近くにベッドがあったら10ヶ月後に可愛い妹か弟が出来ていてもおかしくない。
こうしてなんとか厄災を振り払った。
「二人とも、もういいよ」
立花さんと武田さんは何故か唇を尖らせて目をつぶっていた。
あ、いや、あの、何してるんですか?
*****
「お母さん、可愛いです」
「うん、ラブラブで羨ましい」
二人の興味はすっかり母さんと父さんへ向けられた模様。
「葉くんは結婚したらラブラブしたい派?」
「うーん、よく分かんないかな。結婚以前にまだ付き合ったこともないし」
「そっか……葉くんまだなんだ」
「じゃあ……キスもまだですか?」
「いや、この間したよ。しかも無理やり奪われた」
それはもう情熱的なディープキスでしたわ。相手は犬だけど。
立花さんはポカーンと口を開けている。そんな立花さんに対して武田さんは睨みのような表情を浮かべた。
「そ、それはどこの誰なの!?」
「ココアさんです」
「ここあ……はぁ、葉くん、そういうのはノーカンなの」
「そうなの? じゃあキスしたことないや」
「ココアってなんですか?」
武田さんは知らないか。
二人は今のところ接点なさそうだし。
「うちで飼ってる犬のことだよ」
「……外で佐原くんと会ったんですか?」
「うん、お散歩デートしたの」
武田さんが絶句してる。俺からしてもあれは意味が分からなかったし仕方ない。
武田さんは知らないだろうけどそこの美人さん、イケメンの彼氏がいるんですよ。あ、ハゲだけど。秘密にしておきたい事情があるみたいだから言えないんだけどね。
「……佐原くん、私が痩せたら服を買うのに付き合ってくれませんか?」
「あ、そっか。痩せたら今までの服ぶかぶかになっちゃうもんね。いいよ」
「武田さん、服選びなら葉くんじゃなくて私が付き合ってあげるよ」
「いえ、異性の意見を伺いたいので立花さんは大丈夫ですよ。来なくて」
武田さんの来なくてを強調した言い方。
会話を聞いてて思ったんだがこの二人……仲が悪いのか?
「それじゃあ葉くん、今度お祭りに行こう?」
「そ、それじゃあ佐原くん、私は水族館で」
あの、それじゃあって何ですか?
そこに美紀がねーねーと割り込んでくる。よし妹よ、なんか言ったれ。
「それじゃあお兄ちゃん、私は遊園地で」
だからそれじゃあってなに。美紀、お前もか。
それならこっちだってそれに則るとしよう。
「それじゃあみんなで行こうか」
「却下で」
「却下します」
俺のそれじゃあは速攻で却下された。
仲が悪いと思ったら妙に息が合ってるところがあるんだよな。不思議。
「私はみんなで遊園地行きたいなぁ〜」
「そっちは採用で」
「採用します」
そして美紀には甘いのだ。
こうしてなんだかんだ言いながらも肉を食い野菜を食い魚介を食い、締めの美味すぎる焼きそばを平らげて楽しいバーベキューは終わりを告げた。
焼きそば作りで二人の料理対決が勃発したのは割愛させていただこう。
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