第21話「ハゲ公認」
チャプンッ。
「ふぅ……」
設定温度は42度。ちょうどいい湯加減。
やっと落ち着ける。
昨日は立花さんが来るのか否かの問題でモヤモヤした状態で布団に入り、寝たのか寝てないのか分からない夜を過ごし、今日は自室でずっとドキドキして過ごしてたからな。
今夜はぐっすり眠れそう。
あれ、というか立花さんがうちに来ることばっかり気を取られてたけど、一応新の彼女なんだよな。立花さんの彼氏持ちを感じさせない自然過ぎる接し方も相まって、すっかりそのことが抜け落ちてた。
これってヤバいのかな。やっぱまずいよな。
家に上げてマッサージしてもらっちゃったよ。
これがいわゆる間男ってやつですか? ついに俺も間男デビューか……いや、確かに事故で抜刀はしてしまったが、まだエッチな体操とかは全くしてない。まだ未遂ってことでなんとか勘弁してもらえませんかね?
事後報告になってしまうが、新には言っといた方がいいだろうな。
えーっと、ハゲハゲっと。
『もしもじ……』
「よう新、なんか話すの久しぶりだな」
『うぷっ、お前に構ってる暇ないからさっさと要件だけ言え』
「つれないやつだなぁ。おまえ、立花さんと付き合ってるだろ?」
『あ? なんの……あぁそうだな。そういうことだったな。付き合ってるがそれがなんだ?』
「すまん新、実はさ……立花さんが俺の家に来てマッサージしてもらったんだけど、ちょっとだけFカップが当たっちゃったんだよ。許してくれるか?」
つい抜刀してしまったことはまぁ言わなくてもいいだろう。自力で納刀したんだし。
『はぁ? なにわけわかんねーこと言ってんだよ』
「いや、俺はありのままを言っただけなんだが」
『……あー、そういうことかよ。ははは、お前可哀想なやつだな。デブ専になったと思ったら今度は妄想かよ。はいはい、許してやるよ』
「妄想じゃないんだが、許してくれるの?」
『だから許してやるって。しつけーな、もう切るぞ?』
「あ、ちょっと待って。あとこの間、立花さんと手を繋いでお散歩デートしました」
『はいはい、よかったでちゅねー。許ちまちゅ。はい、もういいか?』
俺の意思はともかく今日みたいなことがもしかしたら今後あるかもしれない。決定的な確約が欲しいところ。
妹は言っていた、恋愛は奪い合いだと。
「最後、最後にこれだけ。仮に……仮に俺が立花さんと親密な関係になっても、いいか?」
『はぁ……お前なぁ、ハゲになる覚悟はあるか?』
「ハゲ? いや、絶対嫌だけど」
『はは、だろうな。じゃあお前には立花と親密になるなんて無理無理。どうぞやりたいことをお好きなようにしてくださいな。んじゃ』
間を置かずぶちっと通話が切れた。相変わらずムカつく切り方しやがる。
ハゲと親密がどう関わりがあるのか分からないが、新の言いたいことは要約するとこうだろう。
『このイケメンの俺様からお前ごときが奪えるはずがない。寝言は寝て言え』
だから新にはすんなり許してもらえた。それと同時に立花さんと親密な関係になってもいいという了承まで。
あくまでも立花さんは友達として接して来てくれてるだけだが、これで新の彼女だということに今後負い目を感じなくて済む。
まぁ俺に至っては今日やそこらで、ずっと話しかけられなかった恋愛チキン体質が急に向上するもんでもないがな……。
*****
風呂から上がると父さんが帰ってきてた。リビングで何やらやってる。
「父さん、おかえり」
「ただいま」
「なにしてんの?」
「おい、こっち来んな。千鶴様の体組成計の結果を確認してんだから」
めっちゃ睨まれたんだが。
確かに乙女の数値を覗くのは良くないが、息子に向ける目じゃなかったぞ今の。
「なんか問題でもあったの?」
「あぁ、思ったよりも体重の減りが早いのがな」
「いいことじゃないの?」
「そうすると早めに来るんだよ、停滞期が」
「へぇ、そういうもんなんだ」
俺はダイエットなんてしたことないから全く知識がない。その辺父さんは体づくりのために減量も定期的にやってるから、数値から読み取れるものがあるようだ。
「夏休みに入ったらすぐに千鶴様を連れてバーベキューするぞ」
「え、ダイエット中にそんなことしていいの? いや、ま、まさか、俺たち家族が肉を頬張ってるところを指を咥えて見させて、痩せさせる作戦とか……父さん、それはあまりにも非道過ぎないか」
「んなわけあるか。チートデイだよチートデイ」
「チートデイ? なにそれ」
「摂取カロリーを制限した食事を続けると体がセーフモードに入って体重が落ちにくくなる。それに対して1日だけオーバーカロリー気味に食事をすることで脳を騙し、再び体重が落ちる体質に戻してやることだ。あとは長くダイエットを続けていればストレスもたまってくるだろうからな。それの解消の意味もある」
確かに武田さんはここ最近気合い入ってるしな。一時的なご褒美タイムでもあるわけだ。
ソファで俺たちの会話を聞いていた妹が、顎を背もたれに乗せた体勢で話しかけてくる。
「ねーねー、バーベキューやるならあいりお姉ちゃん連れてきて?」
もしかして美紀はあの短時間で立花さんに
妹よ、いったい何が目的ですか。
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