第20話「修羅場?」

 ヤバい、どうしよう。

 俺は刀を必死に鞘に入れようとするがなかなか収まってくれない。


 とりあえず寝たフリでなんとか誤魔化しているが、その間に立花さんと武田さんが会話をし始めた。


「私は佐原くんのおうちにお邪魔してトレーニングルームを使わせてもらっています。そのお礼に晩御飯を作っているだけです。立花さんはここで何を?」


「私は葉くんがお疲れみたいだからマッサージしてあげてただけだよ」


「それってお礼でも何でもないですよね? どうして立花さんがそこまでする必要があるんですか?」


「武田さんにそれを言う必要あるかな?」


 な、なんだこのピリついた空気。この状況で本当に寝られるやついたらお目にかかってみたいよ。


「ど……どうしてなんですか? 立花さんだったら他にいくらでも選べるじゃないですか。どうして……」


「じゃあ訊くけど……武田さんがもし私だったら譲ってくれるのかな?」


「そ、そんなの……」


 何やら言い争いになってるんだが。話の内容が全く見えない。どうしてこんなことになってるんだ。

 とにかくこの状況をなんとかしなくては。えーい、こうなったら勢いで行くしかない。


 俺はベッドから勢いよく立ち上がった。


「ぐわぁ〜! 腹減ったー! 飯だ飯!! はい、立花さんもご一緒に! ほらほら、振り向かずに行った行ったぁ!」


 武田さんに刀を見られないように立花さんの背中でガードしつつ、2人を追い出すように強引に部屋を出た。その後は速攻でトイレに駆け込んでなんとか納刀に成功する。

 ふぅ、全く困ったもんだよ。


 リビングに行くと妹の向かい側に立花さんが座ってた。武田さんはいつもならトレーニングに行くのに、何故か俺が座る席の向かい側でコーヒーを飲んでる。


「武田さん、トレーニング行かなくていいの?」


「立花さんが帰ったら行きます」


「私に遠慮しなくてもいいよ? 別にそっちは邪魔する気ないから。ダイエットについては応援してるよ」


「ダイエットじゃない方も応援していただけませんか?」


「それはできない相談かな」


 な、なんだ。火花が見える気がする。一体2人を駆り立ててるものはなんだ。そんな様子を見ていた美紀が会話に割り込む。


「立花さん、千鶴お姉ちゃんは私のお嫁さんだからあんまりいじめないでね」


 妹よ、会話を余計にややこしくしないでもらえるかな。さすがの立花さんも疑問符が浮かんでいるよ。

 とにかく早く晩飯の開戦を知らせねば。


「とりあえずご飯食べよ。はい、いただきまーす」


 今日のメインは豚のしょうが焼きだ。

 シンプルな料理だが焼き加減とタレの絡ませ方で食感も味も全く変わってくる料理だ。さっきまで同族だった俺からすれば少し複雑な気分だが。


 うわぁ、とろっとろ、う、うまぁ……。

 ご飯がめっちゃススム。はぁ……幸せ。


「む……美味しい……負けた」


 立花さんがボソッと呟いた。もしかして俺の知らないところで料理対決でもしてたのかな。

 確かに武田さんの料理はめちゃウマだけど、立花さんが劣ってるとは思わないけどな。それに冷めた弁当とホカホカの晩飯じゃどうしたって差が出てくるだろうし。


 結局俺はご飯を3杯もおかわりしてしまった。本当にブタにならないようにあとで筋トレしとこ。


 食事が終わったところで美紀が立花さんに疑問を投げかけた。


「ねーねー、立花さん。立花さんみたいなべっぴんさんが何で突然うちに来たの? おうち間違えちゃったとか?」


「……美紀ちゃん、ちょっと廊下でお話いいかな?」


「うん、いいよ」


 立花さんは美紀を連れてリビングを出て行った。美紀に話ってなんだろ。気になる。


「佐原くん、私はそろそろトレーニングルームに行きますね」


「あれ、立花さんまだ帰ってないけどいいの?」


「はい、一刻も早くトレーニングしたくなったので」


 なんですか武田さん。急に父さんみたいなこと言い出して。ふんすふんすと鼻息が聞こえてきそうな表情でトレーニングルームへ向かって行った。


 その数十秒後。


「えぇ〜〜〜!?」


 美紀のけたたましい声が廊下から漏れ聞こえてくる。一体何事か。もしかして立花さん、妹にFカップであることを打ち明けたとか。

 あれには確かに俺も内心でそんな叫び声を上げていた気がしなくもない。


 それからしばらくして二人がリビングに戻ってきた。


「これはお兄ちゃんが悪いね。全部お兄ちゃんのせい。あいりお姉ちゃん、これはどうしようもないから諦めた方がいいよ」


「ありがとう、美紀ちゃん。でもいいの。私そろそろ帰るね。ご馳走様でした」


 なんか知らないけど全ての元凶が俺になってるんですが。俺、何かしました?

 玄関で靴を履く立花さんに声をかけた。


「送って行こうか?」


「ううん、まだ明るいから大丈夫だよ。それじゃあ葉くん、またね」


「うん、またね」


 俺は手を振って立花さんを見送り、夢のような時間は終わりを告げた。

 それにしても体が軽くなった気がする。立花さんのマッサージ気持ちいいし、またやってくれないかなぁ。


 さて、風呂にでも入りますか。


 トレーニングルームの前を通り過ぎると気合いの入った声が聞こえてくる。


「絶対に痩せます! ふにゅ!」


 今日はいつにも増してふにゅが多い。

 なんでそんなに必死なのか分からないけど……武田さん、頑張れ。

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