第18話「絶品はついてる」
皆さんこんにちは。
佐原葉改め、産まれたての子鹿です。
一昨日やったスクワットの影響が二日遅れでやってきました。訂正するなら昨日産まれるはずだった子鹿ですわ。特にケツが痛い。
学校から何とか帰って来て、今は自室のベッドで休養も兼ねてテレビの音をBGMにスマホゲーをポチポチしてる。
今やってるのは花瓶男。その名の通り花瓶にハマった男が杖を使って崖を駆け上がり、ゴールを目指すというシュールなゲームだ。
これがまた難しい。
ふぅ、かなり上の方まで来たぞ。ここまでだいぶ時間がかかったが、ここから俺の本当の実力を見せてやる。
『うふん、ヘビに乗っちゃダメよ』
なんだこのオネエみたいな看板。付近にはヘビのウロコで作られた急な坂道がある。
ははーん、さてはそこに乗ると滑り落ちて序盤に戻されるとか言うやつだな。そんな見え見えな罠に引っかかる訳がないだろ。
無視無視。
そりゃ、とりゃ、そらぁ。
あっ、ちょ、そっちダメだから、ちょっ。
「あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
花瓶男は坂道をもの凄い勢いで下っていく。どうやっても抗えないその事態に呆然自失。画面に映し出されるのはスタート地点の風景。
ぢ……ぢぐじょー!! 俺の1時間を返せ。なんだこのクソゲー。二度とやるか。
ガツっとホームボタンをタップした。
テレビでは夕方の料理コーナーがやってる。
食うことに興味はあるけど、作る方はてんでダメだからこういう番組は普段見ない。
今はイライラを晴らすために番組に集中した。
『今日は料理研究家の
『どうぞよろしくお願いします』
『今日はどんなお料理を作っていただけるのでしょうか』
『はい。今日は誰でも簡単に出来る、辛くないけど絶品
へぇー、絶品麻婆茄子か。
美味そう。料理名に絶品って付けちゃうくらいだから絶品なんだろうな。食べてみたい。
『あっ、いいですね〜。辛くないとお子さんも食べやすいですからね〜』
『そうなんですよ。私の娘は辛いの苦手なんですが、この麻婆茄子はとっても好きなんですよ』
『娘さんはいまおいくつですか?』
『15歳の高校1年生です。でも困ったことに急にダイエットするなんて言い出したんですよ』
『そうなんですか? 15歳なんて成長期だからそんな必要ないですよね』
『ほんとですよ。まぁ恋する年頃でもありますからね、もしかしたら身近に好きなひ──』
ブチッ──。
突然テレビがブラックアウトした。
リモコンの電源ボタンを押しながら腕をプルプルさせているのは、一階で料理中のはずだった武田さんだ。
「すみません……ノックしたんですけど反応がなかったので部屋に入ってしまいました。ご飯ができましたので呼びに来たのですが」
「あ、ごめんね。今日の晩御飯は何?」
「麻婆茄子です」
「お、やった。絶品は付いてる?」
「……言ってる意味が分かりません」
武田さんはそう言ってたけど絶品はちゃんと付いてた。辛くないけどウマウマ。
特に美紀はその美味さに感激してた。まぁ毎度のことだけどね。
夜食が終わるとすぐに風呂へ。疲れた体を癒すリラックスタイム。
最近のスマホは防水が当たり前だから非常に便利だ。浴槽に浸かりながら動画見たり漫画読んだりしてるとついつい長風呂してしまう。
あっ、こいつめ。花瓶男は削除した。
今日はようつべでも観ますか。どんな動画が急上昇してるんですかね。
ふむふむ『うるさいですね』って歌が人気なようだ。
──ピコン。
タップして再生しようとしたところ、メールの新着が一件。
以前の俺だったらメールが届くのなんてHamazonくらいなもんだ。最近は何も注文してないから消去法であの人しかいない。
『葉くん、今日は体調悪かったんですか? お体大丈夫ですか?』
立花さんに産まれたて子鹿スタイルを見られてたのか。まぁ席に着く時なんかあからさまにプルプルしてたしな。
わざわざ体を気遣ってくれるとか、あなたが優しいさんですか。
『大丈夫ですよ。ただの筋肉痛です』
『もしかして……武田さんとエッチな体操とかしたからじゃないですよね?』
この絡み何回目ですか。俺が田中だったらこう言ってるよ。ヤ〜マ〜ネ〜、さーんかーいめ!!
というかエッチな体操ってなに。しまへんって。
『本当ですか? でも葉くんはお疲れのようなので、私が癒しに行ってあげます。ということで明日、マッサージに伺いますね』
なんですかそれ。ボーイさんでも引き連れてくるんですかね。
その出張マッサージ代、おいくらですか?
*****
翌日、産まれたての子鹿は息を潜めたがまだ筋肉痛が残ってる。いてて。
それにしても本当に立花さん今日うちに来るんですかね。ははは、まさかね、冗談だろ。
帰りにロッカーから荷物を取りに行くと新の姿が。
ロッカーからデカい風呂敷に包まれた物体を取り出して重そうに持ち帰っていた……。
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