第13話「知りたい君の謎」
どうしてこうなった。
俺は自分の置かれた状況を改めて整理する。
だがその現場を目撃した立花さんから『武田さんばっかりずるい、手を繋げ、デートしろ』という謎の怪文書を送りつけられ現在に至る。
ダメだ、意味不明だよ。
意味不明過ぎて約束の1時間前、俺は公園のベンチで
立花さんって彼氏持ちだよね? これって浮気にはならないんですかね? あれですかね、友達はセーフって協定でも新と結んでるとか。
「バウッ!」
俺がそんな思考に浸っていると1匹の大型犬が俺に飛びかかってきた。
さてはデートとやらは罠だな。俺を噛み殺しにきた犬が何よりの証拠。このゴールデンレトリバーが、やんのかコラ?
ぶっコロして……可愛いなおい。
「どわっ!?」
あまりのデカさに押し倒された。
俺は今日、ここで初めての夜を迎えるのか。せめてDTは人間で卒業したかったな。
ファーストキスは無理やり奪われてしまったよ。ベロチューですよベロチュー。
なんかキュンキュン言ってるんですが……ちょ、オシッコ、オシッコはやめて。
「葉くん、早いですね」
その犬に繋がるリードを握っていたのは今日の約束相手の立花さん。
犬の飼い主はあなたでしたか。とりあえずこの子、なんとかしてもらえます?
それかあなたとチェンジでも可。
「た、立花さん、重いから引っ張って!」
「ほらおいで。こら、ダメだって。言うこと聞きなさい」
全然制御出来てないじゃないですかやだー。
立花さんは30秒くらい格闘してようやく引き剥がしに成功した。
俺の口周りは唾液塗れですよ。あと俺がお漏らししたみたいになってるんですが。
「普段は大人しいんだよ? この子」
「全く説得力がないんですが」
「私と同じで葉くんに会えて嬉しかったんだよ」
犬の気持ちは俺には分からない。ついでにあなたの気持ちも分かりません。
「その子、女の子だよね?」
「そうだよ、よく分かったね。ココアって言うの」
いえ、希望的観測です。初めての唇を奪われて放尿プレイした子が野郎なんて受け入れ難し。
言っておくけど俺に獣姦の性癖とかないんでそこんとこ誤解しないように。
「それじゃあ葉くん、お散歩デートしよ?」
立花さんは空いている左手を俺に差し出してきた。本当に手を繋ぐのか。いいのかこれ。
犬に気を取られて気づかなかったが私服姿の立花さん、マジで可愛いんですが。
まぁ制服姿も捨てがたいんだけどね。
俺が右手を差し出すとその手を取るや否や指を絡め取る。あの、これ、恋人繋ぎってやつじゃないんですかね。いろんな意味で手汗出てきちゃうよ。
そのまま犬一匹を引き連れて公園内を散歩する。7月の半ばにもなるとだいぶ気温も上がってくる頃合いだが、今日は比較的過ごしやすい。はずなんだが、さっきから体が異様に熱い。胸の動悸が止まらない。
でもそんな心理状態などかまいやしない。俺は今日、核心を突く質問をしようと心に決めてきたのだ。
ムードもへったくれもあるもんか。いきなり訊いてやる。
「突然だけど……立花さんは好きな人いるの?」
「……いるよ?」
「へぇ……どんな人?」
「カッコいい人」
「どれくらい?」
「世界一」
さすがはイケメンくんだな。世界一とは立花さんもゾッコンの様子。
「お弁当とかたくさん作ってあげたい?」
「うん、美味しいって言ってもらえると嬉しいよね」
やはり弁当のデカさが愛情の大きさだな。俺の推測は間違ってなかった。
「その人がどんな見た目になっても愛し尽くしたい?」
「そうだね、一度好きになったら見た目なんて関係ないかな」
つまり新のハゲ頭は立花さん公認ってことか。愛されてるな。羨ましい。
ダメだ、本当は付き合ってないんじゃないかと思ったけど質問すればするほど虚しくなってくる。何聞いてんだろ俺……。
「葉くんは……好きな人いるよね?」
なんですか、いるのが確定してるかのような質問の仕方は。いるけども、いますけども。目の前に。
「いるよ」
「どんな人?」
「めっちゃ可愛い。見てるだけで癒される。話してるとウキウキしちゃうよ。でも謎すぎて知らないことが多すぎるかな」
いまの状況が最大の謎なんだがね。
立花さんは上目遣いで俺を見る。か、可愛い。やっぱり俺ちょろ男だわ。
「それじゃあ……もっと知りたくない?」
「そうだね。できることなら」
「……
「へ?」
立花さんは少し恥ずかしそうにして押し黙った。
何それ、どういう意味だ。
いま言えることは立花さんはFカップが確定したということ。ビバ歓喜。
頭の中で会話の流れを振り返ってみる。
あれ? これ……俺が立花さん好きなの、バレてね?
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