第7話「悪魔の卵焼き」
「なぁ葉、今日も弁当なのか?」
学校に到着すると
陽介とは入学当初に席が近かったこともあり、仲良くしている友人の1人だ。
立花さんから
「あぁ、悪いな陽介」
「いいよ。というかさ、新と何かあったのか? あいつもお前と同じタイミングで弁当食い始めて食堂に来なくなったしさ。喧嘩でもしてんのか?」
「いや、喧嘩はしてないよ。まぁ詳しいことは言えないけど絡み辛くはなったかな」
「なんだかよくわかんねぇけど、困ったことがあったらすぐ言えよな」
「ありがとな、お前の優しさに惚れそうだ」
「キモいからやめてくれ。俺はノーマルだ」
陽介はホンマえぇやっちゃ。
新が豹変してからそれを身にしみて感じる。
いま陽介が偽友とか言われたら人間不信になっちゃうよ、俺。
「ところで新のやつ、最近様子がおかしくないか?」
「ああ、俺も思ってるわ。というかあのハ……頭を見たやつはみんなそう思ってるだろうな」
「まぁそれもそうなんだけどさ、なんかずっと苦しそうにしてんだよな。特に昼休み終わったあとなんか。毒でも盛られてんのかね」
毒か……確かにあの毒は強力だ。
俺も猛毒耐性を獲得しなければ今頃どうなっていたか分からない。
あれか、百戦錬磨の恋愛マスターイケメンくんでも立花さんには胸がドキドキして苦しいとかそんな感じなのかね。
「新は大丈夫だよ。幸せ過ぎて逆に辛いってやつだよきっと」
「俺には不幸を背負ってるようにしか見えんけどな」
あんなに可愛い彼女ができたんだ。
俺が新の立場だったら毎日ウキウキ、夜も眠れない、立花さんのお願いごとだったら何でも叶えちゃうゾッコンモードになってしまってもおかしくない。
はぁ……なんか考えたら余計虚しくなってきた。やめやめ。
*****
「武田さんやっほ」
「……どうも」
今日も俺は別棟の屋上へ続く階段で弁当を食べるために訪れた。
毎回の挨拶のやり取りもだいぶ定着してきた気がする。
蓋を開けるといつもの魔法陣をご飯の上に描く。発動、猛毒浄化魔法。
詠唱速度も上がった気がする。これなら第五位階魔法を行使できる日が来るのも夢ではない。
「佐原くんのご飯っていつも桜でんぶ入ってますよね」
「うん、好きなんだよねー桜でんぶ」
「お母さんがお弁当作ってるんですか?」
「うぁーうん、そうだよ」
「何ですか今の濁った言い方」
危ない危ない。
ターゲットを逸らさなければ。
「武田さんは? お母さんが作ってるの?」
「私は自分で作ってます」
「へぇーすごい、どれどれ……めっちゃ美味そう。さすが出来る女の子は違うね」
武田さんは俺と弁当を交互に見た後、少しまごついた様相で訊いてくる。
「……食べてみます?」
「え、いいの? じゃあその卵焼きをいただいても?」
「どうぞ」
「ではでは」
モグモグモグ……ウマ、ウマウマ。
中に入ってるのはしそかな。卵の絶妙な甘味とのバランスが最高のハーモニーを
すなわち控えめに言って神である。
「今まで食ってきた卵焼きで一番好き。めちゃウマ最高です。ご馳走さまでした」
「……お粗末さまでした」
武田さんも褒められて少し嬉しそうな表情をしたような気がする。普段はスンとしてるからなんか可愛い。
「普段はスンとしてるからなんか可愛い」
「な、なんですか急に!?」
「あ、ごめん。心の声が漏れた。気にしないで」
ついポロッと出ちゃったよ。
俺が変なこと言ったから怒らせちゃったかな。顔が赤いし。
「改めて思いますけど……佐原くんってなんでこんな場所でお弁当食べてるんですか? 佐原くんなら教室でお友達と食べてても不思議じゃない気がするんですけど」
「それ、あなたが言います?」
「ふふ……それ、私が最初に言った言葉ですよね。私はこんな性格だから分かるじゃないですか」
俺こそ分からないんだけどな。
武田さんは普通に話してて楽しいし。
「俺は好きだよ? 武田さんの性格」
「……佐原くんって女の子に対して平気でそういうこと言うんですね」
「別に嘘は言ってないんだけどなぁ」
「もういいです……」
武田さんは何かを誤魔化すようにご飯を頬張り始めた。リスみたい。可愛い。
さてさて、今日も立花さんのお弁当を美味しくいただきました。ごっつぁんです。
感想を送らないとな。
『今日もお弁当ありがとうございました。特に卵焼きはしそと卵の絶妙な甘味とのバランスが最高のハーモニーを醸し出していて、今まで生きてきた中で最高の卵焼きでした。ご馳走さまでした』
送信っと……ん、ん、んんん?
ピコン。
『あの、しその卵焼きなんて入れてないんですけど……どういうことですか?』
俺は天を仰ぐ……オー、ジーザス。
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