第6話「罰はご褒美」

「なぁ妹よ」


「な、なんだね兄よ」


 リビングのソファで何かを食す妹の美紀に俺は後ろから声をかけた。

 なんかいま美紀の肩がビクッと跳ね上がったような気がしたが気のせいか?


「手違いで好きな子の連絡先をゲットしたんだがね、俺はどうしたらいいと思う?」


「それって昨日言ってた友達の彼女のやつ?」


「そそ」


「それってその女の子はお兄ちゃんが連絡先知ってることを知ってるの?」


「うーん、どうなんだろ。手違いに気づいてればあるいは」


「その友達と仲が悪くなってもいいなら私は連絡してもいいと思うよ。別に彼氏持ちの女の子を好きになっちゃいけない、アプローチしちゃいけないって訳じゃないんだしさ。それにお兄ちゃんは考え方が固いんだよ。恋愛ってのは奪ったり奪われたりするもんなのさ。まぁ女の子がそれやるとイジメとか起きたりするかも知んないけどね」


「この泥棒猫! ってやつ?」


「そうそう、意味わかんないよねー。男の子でそういう話聞かないのに」


「男がそれやったらくそダサいな。それこそただの負け犬だわな」


 正直、新のことは今回の一件でよくわからなくなっていた。今まで俺に接してきた態度とは豹変していて、偽りの友達だったのかとさえ思うようになっていたから。

 それに新には悪いが、新か立花さんか、どっちを取るかと言われたら間違いなく俺は後者を選ぶだろう。


「返ってくるか分からないけど連絡してみるわ。ありがとな」


「よいよい。褒美はこのプリンでよろしゅう」


「あっ!? それ俺のプリンだったんかい!」


 スプーンを口に咥えてくひひと笑う美紀。

 ほんと、可愛くて頼りになる妹がいて俺は助かるよ。いいよ、今日は美味いもん食べれたしそのプリンはお前にやる。


 でも次からは頭グリグリの刑だからね?


 *****


 自室で弁当箱に入っていた紙を取り出した。

 それにしてもなんでわざわざメールアドレスに感想を送れなんて書いたんだろうな。

 新はメッセージアプリ使ってたからそんな必要はないように思うけど……まぁいいや。


 それにしてもメールアドレスで連絡するなんて久しぶりだな……えーっとなになに?


 yo-yo-airida-yo@homoko.co.jp


 ラッパーですか? ギャップ萌え。可愛い。


『突然連絡してごめんなさい。佐原葉です。お弁当のお礼が言いたくてメールしました。迷惑だったら無視してください』


 まぁこんな感じが無難だろう。

 無視してって書いたけど本当に無視されたら僕泣いちゃう。

 ちょっとドキドキしながら送信をタップした。


 ふぅ──ピコン。

 え、はやっ! もう返信来たわ。


『迷惑なんかじゃないです。メールありがとうございます。嬉しいです』


 あぁ、ええ子やなぁ。わざわざ丁寧に返信してくれるなんて。それに嬉しいの一言を添えることによって、勝手に連絡してきた相手に対しても気遣う気持ちが伝わってくる。


 普通だったら『どうして私の連絡先知ってるんですか?』とか『あれは手違いなので連絡して来ないで大丈夫です』とか来てもおかしくないのに。


 俺は今日のお弁当のお礼と感想文の作成に入った。ここである問題が発覚する。


 やべぇ……弁当箱返してなかった。

 そのことについての謝罪文も追加して送信した。


『喜んでくれてとっても嬉しいです。でも、お弁当箱を持って帰ったのはダメですね。罰として明日から・・も私のお弁当を食べてくださいね。今日のお弁当箱は私が回収しますので、葉くんのロッカーに入れといてください。あと気軽に食べて欲しいのでお弁当の感想は気が向いたときで大丈夫です』


 罰? ご褒美の間違いでは? 俺が知らない世界線では罰って書いてご褒美って読むんですかね?

 いいだろう。喜んでご褒美を受け入れるとしよう。


 こうして俺は明日も世界一幸せなボッチ飯が確定した。

 明日で最後だ。しっかりと堪能しよう。


 ──あれ、からって何だ、からって。


 *****


 翌日、俺は前回食べた場所で立花さんの弁当を持って向かった。


 ん? 先客がいる。誰だろう。

 ぽっちゃり気味でショートヘアの女の子が弁当を広げている。

 せっかく見つけたお気に入りポジだったんだが、一応声をかけてみよう。


「あの〜」


「あ、昨日の人」


「え? 昨日の人?」


「昨日、ここでお弁当食べてましたよね?」


「うん、そうだけど……」


「ここ、私のお気に入りの場所だったんですけど、昨日はあなたがいたから他で食べたんですよ。あなたはお弁当に夢中で私のことに気がついてなかったみたいですけど……」


「あ、そうだったんだ。ごめんね。一緒しちゃダメ? 俺もここいいなって思ってたんだけど」


「……いいですよ」


「ありがとう。それじゃあお邪魔して」


 俺は女の子の横に座って風呂敷の結びを解いた。


「どうしてこんなところで食べてるの?」


「それ、あなたが言います?」


「はは、確かに」


 さて、喋ってないでお楽しみのお弁当を拝むとしますか。今日はなにが入ってるのかなー。


 ──毒が入っていた。一旦蓋を閉じる。


「どうしたんですか?」


「何でもないよ何でも、ははは」


 どうして俺の弁当にまた猛毒が入ってるんだよ。

 それはそれとして、これって誰かに見られたらまずいよな。

 誤解されたら立花さんが可愛そうだ。


 俺は蓋を開けると同時に箸を突っ込んだ。

 マゼマゼマゼマゼ。


「何してるんですか? ご飯ぐちゃぐちゃにして……お行儀悪いですよ」


「こうすると桜でんぶが均一にご飯と混ざって美味しいんだよ」


「へぇー、変わった食べ方ですね」


「あれだよあれ、カレーは混ぜて食べる派かとかあるでしょ。そんな感じ」


 俺は混ぜない派だけどな。

 何はともあれ俺は猛毒浄化魔法を習得した。


「あ、名前聞いてもいい? 俺は佐原葉です。よろしく」


「……武田千鶴たけだちづるです」


 この日から、俺は武田さんと2人で弁当を食べるという奇妙な関係が続くことになるのである。

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