第5話「一つ目の覚悟」※新

「俺、告白する!」


 佐原が俺に相談を持ちかけてきた。

 俺は告白をやめるように引き止めたが佐原の意思は固い。

 こうなったら俺もいま行くしかないか。

 どうせならコイツに見せつけてやろう。目の前で女が取られるその瞬間を。


 佐原には絶対に時間ちょうどに体育館裏の指定の場所に来るように伝えた。


 そして約束の時刻、目の前には呼び出した立花がいる。立花から見えない位置にはぴったし時間通りに来た佐原が。


 よし、準備は整った。


「好きだ、立花。俺と付き合ってくれ」


「……本気なの? 進藤くん」


「本気だよ。俺は立花が好きだ」


「いいよ。付き合っても」


 ねぇ葉っぱきゅん。いまどんな気持ち? ねぇどんな気持ち? ぐやじ〜って感じですか? ははははは。あー気持ちぃー。


 って、あーあ、走り去ってっちゃったよ。

 そんなことよりも……。


 俺は目の前に立つ女を観察する。

 最上級の女。俺の女。興奮してきた。

 早くやりてぇ。


「──ただし」


 ただし? なんだ?


「私のお願い事を3つ叶えてくれたら、付き合ってもいいよ」


「お願い事? なに?」


「それはまだ秘密。今日私の家に来てくれないかな?」


「え、いいのか?」


「あ、気にしないで。今日親いないから気を使わなくていいから」


 お願い事って……ベッドでのお願い事ってか? 嫌いじゃないぜ、そういうの。


 あとで佐原には慰め兼煽りの電話をしとかないとな。このあと願い事を叶えれば立花は俺の女になるけど、佐原にはもう付き合ってるていで話しても問題はないだろう。


 *****


 立花の家に向かう途中、お願い事とは別に条件を付け加えられた。


 まだ付き合う前だから絶対に私に触らないで、下の名前で呼ばないで、怪しまれるから学校では必要以上に話しかけないで。


 このことは絶対に誰にも言わないで。


 まぁ付き合う前のことだから別にいいかと二つ返事で了承した。

 だってこれからベッドでのお願い事を全部達成すればいいだけなのだから。


 道中のトイレから佐原に電話したあと、立花の家に到着した。


 どこにでもある普通の一軒家。

 玄関を通るとリビングを介さずにいきなり脱衣所へと連れてかれた。

 最初にシャワーを浴びる派か。俺はそのままでも構わないんだけどな。というかそっちの方がそそる。


 そう思いながら服を脱ごうとするとすぐに制止させられた。


「服はそのままでいいから、お風呂の椅子に座って」


「え? あぁ」


 なんだ、着衣プレイか? どんなプレイがご所望なんだよ、淫乱め。


「じゃあ一つ目のお願い事だけど──」


「うん、なになに?」


「私ね? スキンヘッドが好きなの。だから進藤くん、スキンヘッドにして」


「……は? なに言ってんの?」


「だから私、スキンヘッドが好きなの。ハリウッド俳優でカッコいい人いるでしょ? ああいう男の人に憧れるの」


 確かにハリウッド俳優でカッコいいスキンヘッドはいるが……ああいうのは欧米人に多い彫りが深い人がやるからカッコいいのであって、日本人でスキンヘッドが似合う人はなかなかいない。


 それにスキンヘッドに合う顔立ちなのか、考えたこともないから全く判断がつかない。


「いや、無理無理、無理だって。俺には似合わないよ」


「大丈夫だよ。進藤くんカッコいいからどんな髪型でもイケるって」


「いやイケるイケないじゃなくて、マジ髪だけは無理だから」


 俺がどんだけ髪に気を遣ってると思ってんだ。そんだけ綺麗な髪の立花なら分かるだろ。

 拒絶する俺に対して立花は冷たい視線を向けてくる。


「できないの? じゃあ付き合う話はなしね。もう帰っていいよ」


「いやいや、待ってよ」


「帰って」


 鏡越しに立花を見る。

 風呂場の鏡だとイケメンに見えるっていうだろ? 風呂場の鏡越しから美少女を見るととんでもない美少女に見えるんだな。いま知ったわ。

 願い事を叶えれば……この女を抱ける。

 髪はまた生やせばいい。これが終わったらあと二つ、同じような願い事を叶えれば付き合えるんだ。


 俺は腹を決めた。


「わ、分かったよ」


「それじゃあ始めるね」


 立花は俺の首にタオルを巻くとカットクロスを着せてきた。

 有無を言わさない勢いでバリカンを頭に押しやった。


 ジョリジョリジョリジョリジョリ。

 あぁ、俺の……俺の髪の毛が……。


 坊主なんて人生初めてだった。

 そしてそこから俺の頭皮に謎の泡を塗りたくる。


「それ、なに?」


「これ? アメリカの大学から取り寄せた強力な脱毛剤だよ。日本で認可されてないから肌が荒れたらごめんね」


 その泡は俺の1㎜ほどの髪の毛を全て溶かしきり、ツルツルの頭皮が露になった。

 ちょっとヒリヒリする。


「うん、似合ってるよ。すごくカッコいい」


「そ、そうか?」


 自分では似合ってるとは微塵も思わない。

 でも最上級の女に言われるとまんざらでもない。


「それじゃあ二つ目のお願い事だけど──」


 あと二つ、俺は絶対に達成してみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る