第4話「最上級の女」※新

 恋愛において容姿は最大の武器である。

 俺は物心ついたときには世間の法則を理解していた。


 それは生まれ持った素質、そして才能が俺には備わっていた。顔がいいだけで女は俺に群がってくる。だから中学からは女を抱きまくった。


 いい女を抱いてるときは優越感に満たされる。それは俺の才能が他の男を上回った証、抱いてる女を支配してるという喜びから来るものだ。


 女は大体5人くらいキープしてる。

 新しくいい女がいれば俺のコレクションに加えて一番いらないのは捨てていく。


 俺の体は一つしかないからな。

 あんまり多過ぎても管理するのがめんどくさい。


 いい女を抱けば抱くほど、今までの女がブスに見えてくる。


 ていうかさぁ。


 ブス、嫌いなんだよね。人権なんてないよブスに。ブスはマジで外を出歩かないで欲しいわ。

 特にデブでブスとかマジ最悪だよね。そんなやつは生きてる価値ないから死ねばいいのに。


 まぁこれでも大人しくなった方だよ。

 少し前と比べたら。

 俺ももう高校生だからな。そこら辺はもう少しうまくやってかなきゃな。


「進藤新です。趣味はカフェ巡り。男女問わず気軽に声掛けてくれ。よろしく」


 自己紹介を終えて席に着く。

 俺の後ろでは同じような挨拶が続いてるが、女の視線は俺に釘付けだ。

 さて、このクラスではどの女を抱こうかな。


 集まった視線の先の女どもに目線を送る。

 お、あいつはなかなかいいな。上物だ。

 あれは……及第点かな。まぁ抱いてやってもいい。

 あー、あれはダメだな……ち、ブスはこっち見んなよ。


 一通り物色は終わった──かに見えたそのとき、透き通るような綺麗な声が教室に響き渡った。


「立花あいりです。趣味は料理です。宜しくお願いします」


 ──最上級だ。こんな女見たことねぇ。

 おかしいな、俺が女の視線を見逃すはずがないんだが。

 それにしてもいい女だ。


 ぱっちり二重瞼に覆われる澄んだ瞳。高い鼻だちは細くスッとしていて、ぷっくりとした唇は何度でも吸い付きたくなる。

 それらのパーツは黄金比を体現した配列で、滑らかな顔の骨格がより一層見たものを惹きつける。


 そしてどの角度から見ても分かるであろう綺麗なロングヘアー。なんのシャンプー使ってんだ? 


 それにあの肌は毎日時間をかけて手入れをしているのが見て取れるほど美しい。


 細くしなやかな指、爪は混じり気のない光沢感があり清楚なイメージをより引き立たせている。

 胸はEかFくらいか? かなりデカいな。


 制服越しからでも伝わるウエストからヒップラインまでのあでやかな曲線は男の本能を掻き立てる。


 抱きてぇ……今すぐにでも。

 俺が視線を送っていると目が合った。

 ようやく俺の存在に気づいたようだな。

 そう思ったのも束の間、視線はすぐに前の方へ外れた。


 なんだ? 他のやつが自己紹介をしてる間にも俺の前方をずっと見てる。


 俺ほどのイケメンはこのクラスにはいないってのに。

 ああ、そういうことか。あの上物の女か。いい女はいい女とつるむからな。


 まぁ、慌てずに外堀から攻めて行くか。


 *****


 入学から1ヶ月が経った。

 さすがは最上級だけあって難航不落だな。

 遊びに誘っても友達の女を連れてくるからなかなか2人になる機会がない。


 まぁでも俺の本領発揮はこれからだ。


 そう思ってたときに妙な噂が流れてきた。


『立花あいりは佐原葉が好きらしい』


 誰だ? 佐原って。どんなイケメンだ? この俺を差し置いて……。

 ダチじゃないオスの名前なんていちいち覚えてないし。

 探し出そうとしたとき、そいつはすぐ目の前にいた。俺の二つ前の席に。


 素質のカケラもない、普通の男じゃねぇか。

 喋ってるところを見たことがないし、あの噂はデタラメだろうな。

 そう結論付けようとしたとき、入学当初の違和感に気づく。


 あの視線は……佐原を見てたってことなのか? そんなバカなわけがない。この俺を差し置いて喋ったこともない素質がない男フツメンを好きになるなんてあり得ない。そんなことは万に一つも。


 噂が本当かは分からないが、早めに芽を摘んだ方がいいだろう。


 俺は佐原にダチを装って接触した。

 話を聞くと佐原は立花に一目惚れしたという。あの噂はもしかして逆だったんじゃないかという懸念もあったが、俺は抜かりなく行動に移した。


 佐原と立花が接点を持たないようにする一方、俺の女ネットワークを使って佐原の悪い噂を立花の耳に入るように流し込んだ。


 中学のときにリコーダーを舐め回してたとか、女の着替えを覗いたとか、プールのときに下着を盗んだとか、特に女が生理的に嫌悪感を抱くものを中心として。


 それを聞いた立花は憤りを隠せない様相だったという。佐原の株は大暴落したことだろう。

 それとは反対に俺のいい噂、俺がいかにイイ男かということを喧伝けんでんしてもらった。


 女は共感力が強いっていうしな。立花にも俺の良さが伝わったことだろう。


 俺は着実に立花へのアプローチを進めていた。

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