第2話「13人目の告白」

 改めて昼休みに新に相談した結果、放課後になったら立花さんに告白することに。

 なんとセッティングを新がやってくれるという。さすがはモテ男。


 新に言われた指定時間、俺は体育館裏へ向かった。体育館裏か……ありきたり過ぎる気もするが気にしない。


 それにしても新のやつ、なんで時間ぴったしに来いなんて言ったんだ? 俺は早めに着いときたかったんだが……うわ、なんかこれからのこと考えると緊張してきたな。


 というかもう立花さん来てるじゃん。待たせたかと思うと気が引けた。


 俺が近づこうとしたとき、立花さんの向かい側に誰かいることに気がついた。

 あれは……新か、わざわざ俺のために来てくれたのか? あいつも律儀なやつだな。

 そう思って声をかけようとしたときだった。


「好きだ、立花。俺と付き合ってくれ」


 ……は? 何言ってんだあいつ? もしかして俺のセリフまで代弁してくれてんのか?

 いやいや、さすがにおかしいだろ。


「……本気なの? 進藤くん」


「本気だよ。俺は立花が好きだ」


 はぁ〜!? あいつ立花さんが好きだったのかよ!? なんで俺に一言も……というか俺をここに呼んだ意味は何だ? 何が『じゃあ13人目はお前だな』だよ。これじゃ14人目じゃねぇか……。


 そう思ったのも束の間、俺が14人目になることはなかった。何故なら……。


「いいよ。付き合っても」


 ──終わった。

 そうか……そうだったのか、立花さんは新のことを……。

 胸が張り裂けそう。

 なんだよこれ……マジ辛過ぎるんだが……こんなもん見せつけてあいつ何考えてんだよ。


 もしかして今日教室に置き去りにしたこと恨んでるのか? いや、さすがに理由付けとしては苦しいか。

 じゃあ本当に新は立花さんのこと……。


 新はイケメンだ。

 俺が立花さんに一目惚れしたように、もしかしたら立花さんも新に対して同じような感情を抱いても仕方ない。

 というよりも2人で会話してるのも何度か見た。俺なんかとは違うか……。


 好きな人が自分じゃない誰かと目の前で両想いになる瞬間を見せつけられる。地獄だな……これ以上ないんじゃないかという苦痛が襲ってくる。


 もう無理だ、もう耐えらない……。

 俺はその場を逃げるように立ち去った。


 *****


「はぁ〜……」


 家に帰ってリビングのソファに倒れ込んだ。

 スプリングは俺の気分とは正反対に跳ね上がる。

 そんな俺のいつもとは違う様相に妹の美紀みきが話しかけてきた。妹とは結構仲がいい。聞かれれば大抵のことは何でも話す間柄だ。


「お兄ちゃんなんかあったのー?」


「うん……振られた」


「え、お兄ちゃんまた好きな人できたの!?」


「うん、でも終わった。というか告白してないから始まってすらいない」


「なにそれ、どういうこと?」


「俺の友達が俺の好きだった子と付き合ったんだよ」


「うわ〜、一番しんどいやつじゃん」


 妹には詳しいことは言わないようにした。だって惨めに抜け駆けされたっていうのか? 俺が告白したって振られてたし、結果的に見ればむしろ13人目の敗北者にならなかったということでもあるからだ。それに……


「でもしょうがないよ。あいつイケメンだし……」


「確かにお兄ちゃんはイケメンじゃないけど……フツメンではあるよ?」


「それ慰めになってないからね?」


「ごめんごめん」


「はぁ〜……初恋も実らなかったし、恋って難しいな……」


 寝返ってリビングの天井を見つめた。次に俺は恋をできるんだろうか。


「そういえば初恋の子とは会えたの?」


「いや、こっち帰ってきたとき家の前に行ったけど表札変わっててさ……引越したんだよ」


「そっか〜、残念だね」


「まぁ今更会ったところで相手は俺のことなんてなんとも思ってないよ。もう3年前のことだしさ」


 あの頃は毎日楽しかったな。俺も引越ししなければ今頃……。

 昔のことを思い出してるとスマホが鳴った。

 相手は……新か。


「もしもし」


『よ、葉っぱくん』


「一体なんの用だよ」


『いや〜悪いな葉。まぁそういうことだからさ。残念だったなぁ〜』


「茶化すために電話してきたならもう切るぞ?」


『まぁ待て待て、お前にお願いがあってさぁ。俺が立花と付き合ってること、まだ内緒にしてくれないか?』


「別に言い振らすつもりなんてねぇよ」


『そりゃそうだよなぁ〜。目の前で惨めに失恋したんだもんな。マジウケる』


 何だこいつ。こんなクソ野郎だったのかよ。全然いつもとキャラ違うじゃねぇか。


『ま、そういうことだからよろしく。あ、ちなみに俺いまから立花の家行くから。今日は親いないって言ってたから、ヤッちまうかもしれねーわ。ははは』


「……そう、よかったな」


『そういじけんなって、明日からも仲良くしようぜ?』


「あぁ〜……はいはい」


『んじゃ』


 間を置かずにブチっと通話が途切れた。

 あー、ヤバい、ムカつき過ぎてスマホぶん投げるとこだった。

 俺は明日からあいつに対してどう接していいのかわからなくなった。


 とりあえず今日は早く寝よう。いやなことは寝て忘れればいい。

 なんかのバラエティ番組で言ってたな、スーパードクター時間先生が全部解決してくれるって。いまはその先生に頼ることにしよう。


 *****


 翌朝、俺は重い足取りのまま教室の扉の前に立っていた。

 さすがに先生の技でも1日やそこらで傷が癒えるわけもなく、昨日の憂鬱な気分を引きずったままだ。


 でもしょうがない。切り替えて行こう。

 そう思って教室の扉を開いた……ん? 何だか教室がざわついてる。


 みんなの視線は1人の男子生徒に向けられていた。

 それはあのイケメンくん。

 俺もすぐに気づいた。ない、本来あるもの・・・・・がそこにはない。


 人違いかと思って正面に回った。間違いない、新だ。


 俺が昨日新に抱いた怒りの感情は嘘のように抜け落ちていた。むしろ心配になった。

 イケメンくんに何があったのか……。


「おい新、一体何があったんだ」


「よ、よう、なかなか似合うだろ?」


 いや、似合わなねぇよ。少なくともこの高校にこんなやついねぇわ。


 俺の目の前には高校生の制服を着たスキンヘッドの男・・・・・・・・が座っていた。

 恐らく新のことを好意的に見ていた女子からは悲鳴が上がっている。


 俺の好きな子に告白した友人の様子がなんだかおかしい。

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