俺の好きな子に告白した友人の様子がなんだかおかしい。

ベータ先生

第1話「ちょろ男」

「俺、告白する!」


 静まり返った教室の中、椅子を後ずさらせて勢いよく立ち上がった俺の名前は佐原葉さはらよう。この春に入学したばかりの高校1年生だ。


 突然だが、一目惚れをしたことはあるだろうか。


 話したこともないのにただ見ただけで惚れてしまうなんて、そんなちょろインみたいな奴って本当にいるのか? なんて、高校に入学する前はずっとそんな風に思ってた。


 ちなみにちょろインってのは、簡単に惚れちゃう“ちょろ”いヒロ“イン”のことね。


 でもそんな俺のちっぽけな固定概念は一瞬にして瓦解する。それはあの子、同じクラスの立花たちばなあいりに魅了されてしまったという事実が確固たる所以である。


 ちょろインは実在したのだ。俺の存在によって証明されたのだ……あ、俺男だったわ。

 この場合はなんて言うの?


 女がヒロインで男はヒーローだから、ちょろーローか? それともちょろヒー? 聞いたことないわ。

 もうシンプルにちょろでいいか。


 そんなちょろ男の俺は誰もいない教室で告白宣言を高らかにする痛い奴、キモい奴というレッテルを貼られる前に目の前にいる男を紹介しておこう。


 同じクラスの進藤新しんどうあらた。いわゆるイケメンだ。

 新とは2ヶ月くらいの付き合いだが、さぞオモテになるこの女泣かせの男に俺は相談を持ちかけていた。


 こんなリア充カースト上位のやつがなんで俺なんかと友達やってくれてんのか分からんが、まぁいい奴だよ。


「なぁ葉、止めとけって。お前なんかが告白したって振られるだけだぜ?」


「何を言うか、やってみなきゃわからんだろ。もしかしたら立花さんだってちょろインかもしれん」


「ばーか、立花がこの高校で一体何人に告られてると思ってんだ? 12人だぜ? まだ入学して3ヶ月しか経ってないってのに」


「週に1人は告られてるのか。そうなってくるとそろそろ嫌気がさして『もう断るのめんどくさいしOKしちゃおうかな』とか思ってるかもしれん」


「意味わからん」


「とにかく、俺はもう決めたんだ」


「……そうか、じゃあ13人目はお前だな」


「殺人事件簿みたいな言い方はやめてくれない?」


 俺の決意は固い。それはもうダイヤモンドくらいに……あれ、ダイヤモンドってトンカチで叩くと割れるってようつべで見た気がする。多分気のせいだな、うん。


 でも一度くらい会話してから告白しろよって思うだろ? やっぱ普通そうだよな。でもどうも勇気を出して話しかけようとした絶妙なタイミングで誰かに話しかけられるんだよなぁ。


 だから俺は例えダメと分かってても告白だけはしたい。

 告白さえしてしまえば今後話しかけるハードルだってめっきり下がるだろう。

 え? 普通逆? そんなことはない、ちょろ男の俺には適用されないからだ。


「で? いつ告んの?」


「いま」


「は? 突然過ぎるだろ」


「もう待てない。いまから行ってくる」


「ちょっと待て」


 ガシっと俺の肩を掴んでくる新。

 なんだこのイケメン……もしかして俺のこと好きなのか? そうなのか?


「すまん新、俺にはもう心に決めた人が」


「は? キモい死ね」


「しんらつー」


「まだ3限目だぞ? 振られたあとのことを考えろ。それにいまって……授業中に告白でもする気か? ムードもクソもないぞ」


「……まぁ言われてみればそうか……っていうか、新……ずっと言おうか迷ってたんだが……お前……」


「な、なんだよ?」


「早く準備して理科室行かないと遅れるぞ?」


「やば!? 気づいてたなら早く言えよバカ」


「じゃ、お先」


「おい待て葉っぱやろう!」


 イケメンを背に俺は理科室へと向かった。

 はやる気持ちをすぐにでも発散させたくて廊下を走るという禁忌を犯してしまったが、何とか授業には間に合った。


 ちなみにイケメンくんは30秒の遅刻。

 少しだけ先生に注意を受けていたが事なきを得たようだ。


 そんなやりとりが終わってすぐに右手を上げる1人の女の子。

 手など上げなくても俺の視線はその子へ吸い込まれる。


「せ……先生、教科書、教室に忘れちゃいました……」


 黙って隣の人に見せて貰えばいいのに、わざわざ顔を真っ赤にして正直に申告する立花さん。

 うん、やっぱ可愛い。可愛い上に正直者とか最高かよ。


 俺の気持ちがふわふわしてると不謹慎なワードがボソッと聞こえてくる。


「葉っぱやろう、絶対に許さねぇ」


 幻聴かな。俺、少し疲れてるのかも。

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