閉店②

【閉店 ②】

 見送るラビと政樹の対照的な表情は面白かったな。心配で仕方ない政樹と、スーパーヒーローが誕生したと勘違いするラビ。

 まずは俺の転職の為に聖域ヨーギへ向かった。魔王のままでもと思っていたのだが、相談してみるかということで寄ることにした。


 「ふむ、転職をご希望ということですな。如月殿が転職可能なジョブは・・・ひとつでございます。『覇王』ということになりますが、いかがなさいますか?」

見たことも訊いたこともない職業だった。ラストダンジョンで万事屋を営んでいる際、勇者達のジョブは全て上級職だった。そこで見かけなかったということっは上級職ではないのかもしれない。もしくはあまり戦闘向けでないジョブ。もしも大幅なステータスダウンなどしたら―

「うわぁ、如月さん!カッコイイじゃないですかっ、覇王ですって。」

「蓑口さん、この職業、知っているんですか?」

「いいえ、全然。訊いたことありませんけど、いい響きですよね。後からサインくださいね。うちの宿に飾ったら客寄せになりそう・・・うふふ・・・」

え~っと・・・・・・

「訊いたことのないジョブですが、名前からして問題ないでしょう。ま、転職していいんじゃないでしょうか、魔王様。」

「クックック・・・あれだろう、単なる語呂合わせ。音が似ているだけ。何でもいいさ、さっさと転職しちまえよ。」

この人達は本当に、他人事だと思って適当に楽しんでいるとしか思えない。とはいえ、迷っていても進まない。魔王改め、俺の職業は覇王となった。


 クォーダが正解。いい機会だからステータスを色々と調べてみた。ジョブから特技から装備から、解説を確認してみた。例えば俺のジョブ、『覇王』。

「魔王が地上で通常戦闘を行う際のジョブ。覇王もしくは邪王。ステータスは一定の修正が入り、ラスボスとしての能力は喪失される。それでも近接、遠距離共に秀逸な攻撃を繰り出せる特殊上級職。ちなみに覇王に覇者とか王者という意味合いはなく、魔王と響きが近いだけである。邪王についても同様。転職前の行いによって覇王か邪王の選択肢が異なる。」

 ジョブチェンジに伴って特技の名称も解明されていた。『裁きの雷撃』は強力な雷属性の特技で、敵全体を攻撃できる。また『破邪波動撃』は敵単体に無属性のダメージを与える。攻撃だけではない。『光風霽月(こうふうせいげつ)』は自身のヒットポイントを最大HPの7割分回復できる。上記3つは特技なのでマジックポンとは必要ない。必然的に主軸のコマンドとなる。というか、ここまで強力だとこれ以外必要ないのではないかと思う。我ながら強い。元々はラスボスだからそうあってもらわないと困るのだが、期待通りのステータスであった。ラスボスの能力が喪失されるとあったが、それはおそらくヒットポイント。ちなみに魔王の俺の最大ヒットポイントは65536。覇王の弱点を強いてあげるとすれば、特技と魔法の種類が少ないこと。なんだけれども、先にも言った通り、この3つがあれば心配いらない。よっぽどの奴でなければ楽勝でクリアできる。そもそも特技を使う必要すら生じない。

 伝説人の特技や装備については後述するが、ひとまずジョブについてだけ。

 蓑口 蛍子。大賢者。

『攻撃、回復、補助、いずれの魔法も使い熟す魔法のスペシャリスト。最大マジックポイントも豊富で、その能力を惜しみなく使用することができよう。よほどの長期戦でない限りはマジックポイントが枯渇することはあるまい。一方で近接攻撃は不得手であるので、その点はフォローを要する。従って、魔法に耐性のある敵との戦闘は注意せねばならない』。

 アレッサンドロ・クォーダ。凶戦士。

『例外なくIQ低めの、直接攻撃のスペシャリスト。いわゆる脳筋野郎。幾多の武器を使い熟し、その秘められた力を引き出すことができる。魔法は使えず、攻撃の全て、特技の全てが武器を介する。よって万が一にも使用可能な武器を一切失えば、その戦闘能力は限りなくゼロに近付く。誤解され易い点として、重装備が不可ということが挙げられる。最大ヒットポイントは全ジョブ中最高クラスではあるが、被ダメージには常に注意を払う必要があろう。』

 柳 星成(せいせい)。真勇者。

『勇者の最上級職のひとつ。パラディンを経由した際のジョブである。剣の扱いに長け、魔法も使用可能。特に勇者特有の魔法は強力であるが、消費マジックポイントが大きい為、使用には細心の注意が必要。また、真勇者に転職する際にはパワータイプ、スピードタイプ、法術タイプを選択することになる。特化型への移行ではなく、ステータスのプラスアルファ。長所を伸ばすも良し、弱点補強も悪くないし、バランス重視も堅実だ。』

 やはり運び屋は只者ではなかった。バビューンと飛んでおかしな喋り方をするものだから、出会った当初は変人かとも思っていたが、世界を変えられる可能性を秘めている奴というのは、こんな風をまとっている人間なのかもしれない。

 俺が転職を終え、さてどうするか、ということになるかと思ったが、意外にも行き先を決めたのはクォーダだった。

「ちぃとばかり覇王様のお手並み拝見といこうじゃねぇか。いざ戦闘だ、戦争だっていう時に、足を引っ張られたり、使い物にならなかったら敵わねぇからな。」

一理ある。そして俺自身、ぶっつけ本番は勘弁してほしかった。好都合。

「それでしたら闘技会に参加しませんか。俺の扱える武器も手に入るかもしれないし。」

俺の実力試しと武器探しを兼ねて闘技会に参加することになった。

 ちなみに、これまで装備していた武器は『魔界樹の枝』。俺の意思で短剣にも長剣にも、鞭にも銃にも変化する。魔王専用の武器だったようで、転職した途端、ただの棒切れになってしまった。


 弱いはずがない。元魔王だからな。武器が使い物にならなくとも問題ない。元々、どちらかといえば直接武器で攻撃するよりも、特技や魔法の方が得意だしな。『裁きの雷撃』で全てが事足りた。攻撃面は問題なかろう。対して守りの方はというと、敵の攻撃をクォーダが一手に引き受けてくれた。打撃も魔法も全ての攻撃を、身を呈して引き受けてくれた。恐らく相手側はクォーダ以外にも狙いを定めていて、下手したら全体攻撃も繰り出していて―クォーダの特技『仁王立ち』。味方への攻撃をひとりで受ける特技。ヒットポイントの高いクォーダだから成立する技。ただしもちろんダメージは受ける。それを回復するのが蓑口さんの役割。攻撃は俺。運び屋は眺めているだけだった。5回程、闘技したが、ラストダンジョンの60階まで到達できそうな勇者達には会わなかった。

 それにしても気色が悪かった。我先にと攻撃を仕掛けるに違いないクォーダが、1度も武器を振るわなかった。やられたらいの一番にぶちぎれそうなクォーダがじっと我慢していた。しかもその表情に苦痛の色はなく、何やら微笑みを携えているように見えた。ひたすら俺達の盾となり、鎧となり。作戦として正しいかどうかは置いておいて、なんかこう、胸を打たれるというか、涙が出てきそうな光景で・・・と思ったんだよ、本気でね。皆の事を思って、特に参加間もない俺の為に身体を張ってくれているものだと。まぁ、ある意味、俺の為というのは正しかったのだけれども。


 「勝負!?ですか?」

「おぅよっ。お前、思ったより強ぇじゃねぇかよ。差しでやろうぜ、なっ、な。1回でいいからよ。怪我はないんだろう。もしダメージがあったら蓑口に言って回復してもらえ。万全の状態で―」

瞳がキラキラと輝いて、もう子供みたいに欲求丸出し。ただもう強い奴と戦いたいだけ。敵だろうと味方だろうと、強者と戦い、勝つ。運び屋と蓑口さんは分かっていたんだな、クォーダの奇行の理由を。感動で涙ぐむ俺とは反対に、笑いを堪えて涙目になっていやがったな。

「なぁ~、1回だけ―」

「やりません!さぁ、行きましょう。ラストダンジョンへ。」

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