閉店③

 数度の闘技で、覇王の俺が装備可能な武器も手に入った。剣はうまく振り回すことができず、斧は重すぎ、槍は長すぎ、ロッドは使い方が分からん。覇王は武器の装備が不可なのかと諦めかけていたら、あったあった、俺の扱える武器。それはとある紋付きが持っていた『エルフの弓』。レアリティはAランクで、使えない武器ということはないものの、最後まで相棒となりうるかと問われれば、返事はノー。より強い弓を見つけなくてはなるまい。とりあえずは装備がまとまり、クォーダも俺の戦闘能力を認めてくれた所で闘技会に区切りをつけ、俺達は小田爺の待つラストダンジョンへ向かった。


 如月 淳。覇王。武器、エルフの弓。主要特技は『裁きの雷撃』、『破邪波動撃』、『光風霽月』。最大ヒットポイントが657で、最大マジックポイントが800。

 柳 星成。真勇者。武器、ゴッドブレイカー。特技は剣技が主で、『二―ベルン・シュバルツ』は敵1体に大ダメージを与える大技。柳の剣技の中で最大クラスの攻撃力を誇る。また『風華六連撃』はランダムに6回攻撃を行う。敵が1体であれば単純に6倍のダメージを与える計算となる。その代償として、次のターンの行動順は1番遅くなる。最大HPが591、最大MPは506。

 蓑口 蛍子。大賢者。武器、『黒の杖(仮)』。以前誰かから譲り受けた杖の様だが、名前を含めて詳細は分からない。術者の法力を上昇させることは間違いないのだが。使用可能な魔法は多岐に渡り、『スターライト・エクスプロージョン』は敵全体に光属性の大ダメージ。『ホーリーライト』はヒットポイントとほとんどのステータス異常を回復できる法術。また『グラビティ』は蓑口が個人的に得意とする魔法で、対象周辺の重力を自在に変化させることができる。そう、非力な女性でも容易に鳩時計を運ぶことができるという訳だ。HP437、最大MPは覇王を超える916。使いきれんだろう、こんなカンスト近いマジックポイント。

 アレッサンドロ・クォーダ。凶戦士。最大P880。特技は装備武器によって変化する為、特定不可。現在の装備、携帯武器は『夢絶ちの鎌』、『ドラゴンキラー』、『魔人の鎚』、『三代閻鬼(えんき)』、『小さな刀』。最後の武器はよく分からないが、お守りみたいなものだろうか。他の武器は全てランクS。文句なく最高ランクの武器群である。


 「なぁ・・・ず~っと歩いて行かねぇと駄目なのか。如月よ、お前の転送陣で何とかならんのかよ。元々はお前のホームだろうて。」

ドカッ!

「転職してしまったので、僕が今ワープできるのはヨーギとラバツマくらいですよ。我慢して下さい。」

バキッ!

「ダンジョンの構造はやはり変えられているようですね。広くなったし、モンスターのレベルもさらにアップしているようですね。暇潰しにはいいじゃないですか。ちゃんと宝箱も見落とさないで下さいよ。」

シュン!

「ねぇねぇ、モンスターブック、コンプリート出来るかしら。地上編はこの前NANAちゃんで全部揃ったし、あと半分だね~。」

バーン!

モンスターのレベルが上がっていることは間違いないが、この分なら50階くらいまで余裕を持って降りられそうだ。喋りながら、片手間にモンスターを処理できた。


 そういえば、蓑口さんに訊いておきたいことがあった。

「蓑口さん。モンスターブック、前半は全部埋まったんですよね。」

「はい。空いていた105番もばっちりです。」

「モンスターは1匹も仲間にしないのですか?4体まで同行できるはずですよね。」

モンスターと戦い、勝利すればモンスターブックに記録される。その全てが仲間モンスターという訳ではないし、仲間モンスターに勝利しても運が良くないと勧誘のチャンスがない。けれどもゼロということは考えにくい。敢えて仲間にしていないのではなかろうか。何か仲間にできない理由があるとか―

「レベルの低い内は足手まといかもしれませんが、成長すれば様々な特技を覚えるはずですよ。モンスターブックを読めば仲間モンスターかどうかも分かりますし、覚える特技も仲間になる確率も書いてありますよ。」

そんなことは俺に言われなくても重々承知しているはずだ。ただ、0よりは4匹馬車の中に待機させておいて回復要員にでもしておいた方が、マジックポイントや耐久値の回復に使えるなんてことも百も承知しているはず。馬車を空にしておくメリットはない。

「え~と・・・ほら。もちろん仲間にしてもいいんですけれど、ラストダンジョンのモンスターの方がずっと強いでしょう。どうせなら、それまで待っていた方がいいかなと思いまして―」

「なるほど、そういうことでしたか。」

我ながら棒読みのセリフだった。いつの頃からだろうか、人の嘘を見抜くことが得意になってしまったのは。何かある。モンスターを仲間にしない、もしくはできない理由が。運び屋とクォーダが黙っているということは、その訳を共有しているという証拠。願わくば、下らない理由であってほしい。


 さ、何事もなく地下30階。危うい場面もなく、目新しい武器もなく、モンスターを仲間にすることもなく。地下30階、道具屋の階。とりあえず一区切り、そしてここは俺の出番である。

「さて、どうしましょうか?元道具屋さん。」

運び屋が次の行動を俺に委ねる。

「ええ、こうします。」

足元に落ちている小石を拾い、えいっ、っと店番のロボットにぶつけた。さぁ、戦闘開始だ。地下30階の敵はどんな奴に小田爺は設定したのだろうか。


 「『ダークイフリート』が現れた」。

真っ先に驚いたのは何を隠そう俺だった。

「もうダークイフリートが出てくるのか。思ったよりもずっと早かったな。」

思わず口に出した俺に突っ込むのはクォーダ。

「な~んで仕掛けたご本人様が驚いてんだよ。」

「いえ、俺の知っているラストダンジョンとは全くの別物ですよ。さすがにもう少しマイルドな中ボスが設定されていると考えていたんですが・・・」

「しゃんとしろ、しゃんと。ほれ、始めるぞ。」

「丁度退屈していた所ですし、問題ないでしょう。」

「いいわ、私がやるそろそろ如月さんにも私の戦いを見て頂いた方がいいでしょう。いきなり見せてびっくりさせちゃったら悪いですもんね。」

何か奇妙なことを言うな、と。蓑口さんの戦いなら多少なりとも見てきたはずだが。

「蓑口さんの戦い方って、魔法で攻撃したり、回復したり―ですよね。」

「まぁ、そうなんですけれど、見て損はないでしょう。ただし少し後ろに下がりましょうか。巻き添えを喰らいますよ。」

運び屋までおかしなことを言い始める始末。通常戦闘、闘技会を通じて、初めて蓑口さんが先頭に立った。

 ちなみにダークイフリートは幻獣種という特別なモンスターで、その属性は炎ではなく黒炎。魔界からの使徒、ダークイフリートがどれほどの強さかというと、俺は60階付近の中ボスとして配置しようと考えていた。その強さを知っているからこそ先頭に立たせる訳にはいかない。

 「蓑口さん、下がっていて下さい。あのモンスター、強いですよ。俺達が前に出ますので、後方支援を―」

話し掛けている最中にグイっと肩を引っ張られた。

「下がるのはお前で、俺達だ。さ、ケガしたくなけりゃ、引け。」

そう言うと、らしくなくさっさと後ろに引いてしまったクォーダ。

「しかしですね。」

「大丈夫ですよ、如月さん。彼女、強いですから。それと、蓑口も如月さんに見ておいてほしいんですよ、幻獣使いの戦いを。」

「げ、げんじゅうつかい・・・?」

「はい。蓑口の前職です。」

 ホークブリザード、ダークフェニックス、アイスクイーン。


 我が目を疑った。召喚された3体の幻獣に肝を潰しただけではない。蓑口さん、目の前の幻獣使い―遥か昔に消滅したジョブ、封印された職業のはずだが、現に俺の眼前で確かに幻獣が召喚された、空いているモンスター枠に。そういうことか、仲間モンスターを勧誘しない理由が判明した。そして、そんなことはどうでも良くなった。一体何を怪しんでいたのか。モンスターブックの穴埋めは正真正銘、蓑口さんの個人的な趣味だったか。圧倒的な強さを誇る幻獣を召喚する条件が仲間モンスター枠を空けておくことであれば、わざわざ育成することはない。数の差もあり、幻獣同士の戦いはすぐに勝負がついたのだが、見入ってしまった。カッコイイ・・・・・・


 「凄いですね!蓑、口、さん・・・?」

あれだけの幻獣を召喚したのだ、マジックポイントの消費も激しいのだろう。肩で息をしながら、蓑口さんはその場に座り込んでしまった。

「蓑口さん、大丈夫ですか?」

「ええ、ちょっと張り切りすぎちゃいました。えへへへ・・・でもマジックポイントが減っただけですから、大丈夫です。」

「アイテムを使いましょう。マジックポーション―」

「いえ、節約、節約。この帽子で。」

そう言って、ひょいと帽子をかぶった蓑口さん。彼女の呼吸が整うのを待ってダンジョン探索を再開した。


 野郎3人が横一列に並んでダンジョンを進む。紅一点の大賢者をかばうような陣形。男だけでちょっとしたお喋り。話題は今し方目にした召喚獣について。

「蓑口さんは他にも幻獣を召喚できるんですか?」

「ええ。他にもドラゴンとか巨人とか。もっとレベルの高い幻獣も召喚できますよ。」

ということは、もっともっと蓑口さんの負担が増えるのか。可能な限り避けたいところではある。

「凄いですね・・・ちょっと怖いくらいですよ。・・・・・・ところで、蓑口さんのかぶっているあの変な帽子は何ですか?」

ダークイフリート戦後から身につけている帽子。お世辞にもセンスが良いとは言えない。あまりに奇抜。絶対に蓑口さんの趣味ではない。色は目にも鮮やか、黄色に近いオレンジ色。蛍光塗料でも擦り込んでいるのか、目がチカチカする。形状は先の尖ったトンガリ帽子。そして最大の問題がその模様。至る所に様々な大きさの「目」が描かれている。何かもう呪われそうで―

 「弱点を上げるならばMPの消費量ですかね。今回の幻獣で言えば、アイスクイーンなんかは300位のMPが必要だったはずです。」

「1体の召還に300ですか・・・」

それに見合った実力は見せていたが、最大値の約3分の1。

「ですから、現在、蓑口のマジックポイントはほとんどすっからかんのはずですよ。」

「馬鹿め。張り切りすぎだ。」

「そこであの『不思議な帽子』が登場するわけです。防御力は期待できませんが、1歩ごとにMPが1回復します。」

「へぇ~、いいですね。戦闘では少し休んでいてもらえば、いずれ全回復できますね。」

「そう・・・ですね。」

「まぁ・・・な。」

ただ、あまりにも見た目が滑稽で―3人揃って後ろを振り向く。そしてすぐに向き直る。やっぱりダサい。ニタニタしたり、ぷぷっと吹き出したり、唐突に咳払いしたり。

「ファイア・・・」

野郎3人の尻に火が付いた。

                              【閉店③ 終】

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