勇者連盟vs道具屋連合⑤

 まずは4つの紋章について。秋桜(こすもす)、白百合(しらゆり)、鳳仙花(ほうせんか)、竜舌蘭(りゅうぜつらん)。標準的というか、一般的というか、無難というか、どこにでもある、どこでも目にする道具屋が秋桜である。白百合も雑な説明になるが、似たようなもの。特筆すべきことなし。あなたの意識下にある情報を修正する必要もなし。一般的という表現は、時にこの上ない皮肉を意味する。

 現在、良くも悪くも注目を集めているのは残りの鳳仙花と竜舌蘭だ。この紋付きとなるには高水準の強さが必要である。何故ならば、一定期間ごとに成果報告が要求されるからである。

 まずは鳳仙花。こちらは複数の条件を認めているので、竜舌蘭に比べれば難易度は低いとされている。明らかになっている所では、期間内にレアリティA以上のアイテムを10種以上、鳳仙花に所属している店舗に販売すること。または闘技会で10勝。もしくは20万ルナの寄付。どれも骨の折れる条件ではあるが、紋付きを維持したい勇者にとっては選択肢に幅のある方が好都合だろう。パーティーの現状と相談してクリア条件を変更できるからな。

 一方の竜舌蘭はさらに厳しい。レアリティA以上の武器の販売。これ以外は認められていない上に、一定期間竜舌蘭に所属すると、Sランクの武器を請求される。ちなみに、ラストダンジョンの地下30階で販売している武器がランクAである。

 

 では、厳しい条件をクリアして紋付きであることを維持する恩恵は何か。持ちつ持たれつ、ギブ・アンド。テイク。まずは鳳仙花。明らかにされている特典は毎週『妖精の粉』が支給されること。鳳仙花に所属する店舗での買い物が20パーセント割引されること。そして目玉の恩恵がSランクのアイテムが所属店舗に流通した際に通達が入ること。鳳仙花の紋付き勇者の多くがこれを目的としていて、その通達には数日後に開催される裏闘技会なるものの日時も記されている。参加資格は鳳仙花の紋付きであることで、優勝者、もしくは成績優秀者にはSランクのアイテムが授与される。

 続いて竜舌蘭。最も謎の深い組織。秘密主義。公開している情報がほとんどない。竜舌蘭の紋付き勇者が極端に少ない。加えてほとんどの店が閉まっている。秋桜、白百合、鳳仙花については、紋付き勇者の募集要綱を各店舗の張り紙で確認できるが、竜舌蘭はそれすらも難しい。

 さて、そんな竜舌蘭の恩恵であるが、Sランク以上のアイテム支給ということが言われているが真偽のほどは何とも言えない。竜舌蘭限定の特別な販売会を目にしたという話も聞くが、とにかく謎だらけの竜舌蘭。その紋付きを見掛けたら問い詰めるなりとっ捕まえるえるなりしてもいいかもしれない。

 

 秋桜、白百合、鳳仙花、竜舌蘭の創始者は順に道具屋、防具屋、、武器屋、道具屋。圧倒的財力を背景に、勇者を雇うことで武力も持ち合わせる。無論、武力といっても当初はアイテムを仕入れる為。各々、目指す所は店舗拡大。他社との競争に勝つこと。自社系列の店舗に客を呼び込み、自店を拡大する。口には出せないが、他店が潰れてくれれば仕事はやり易くなる。その為の商品獲得や知名度拡大の為に、勇者達が一役といわず、二役、三役買っているのだ。

 均衡を保っていた4団体だったが、近年それが崩れ始めていた。

「ちょ、ちょっとタンマ!」

俺は思わず話を断ち切った。正真正銘前職道具屋の俺が全く知らない道具屋の話がまるで世界の常識みたいに語られてはさすがに戸惑ってしまう。

「お、俺、これまで見たことも訊いたことも―俺の店舗も知らないうちに所属していたのでしょうか、秋桜とか白百合とかに。」

「いえ、全ての道具屋が紋章に関係しているわけではありません。如月さんのお店の看板に紋章はなかったでしょう。如月さんは紋付きと関係ないルートを選択されたのでしょう。」

ルート?選択?

「誰が決めたのですか?」

「如月さんもよくご存じの人物ですよ。」

 運び屋がそこまで話した時、俺のネックレスが青く発光した。

「それは?」

「小田爺が呼んでいます。ラストダンジョンも中盤辺りまで攻略する勇者が出てきたようです。店の準備があるので行かなくては。」

「そうですか、大変ですね。近い内に、またお会いしましょう。」

切り出すことができなかった、道具屋をなくそうとしていることを。

 グラスに半分ほど残っていたビールを一気に飲み干し、そのままカウンター席でルナを支払い、宿に戻ってチェックアウト。こんな時間からお出掛けですかと、宿主が心配そうに声を掛けてくれた。




 「ただいま戻りました。」

「お帰りなさいませ。」

俺が帰った時、客はいなかった。

「下を目指す一行が出てきましたか。」

「はい。しかし、まぁ・・・ようやくといった感じでございますな。最近の勇者は警戒心が強いと見えます。用心深いと申しますか。戦力やアイテムに余裕があっても、潔く引き返していきますな。」

「もう少しだけ店番をお願いします。地下60階までワープして、ちゃちゃっと店の準備をしてきますので。」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ。」

 ということで地下60階に到着。品揃えは決めてあった。そこには錬金法を発見した夢絶ちの鎌も入っている。クォーダ達はかなり昔のラストダンジョン内で手に入れたと思われるが、この武器をはじめ防具、アクセサリーのレアリティは全てSランク。最終決戦に向けた装備として恥ずかしくない品揃えと自負している。

 けれどもさきほど地下30階を突破した勇者一行を含めて、万事屋うどんこラストダンジョン地下60階店を訪れる者は現れなかった。それどころか、ラストダンジョンに挑む勇者が激減した。

                       【勇者連盟vs道具屋連合 終】

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