勇者連盟vs道具屋連合②

 10組中、魔王討伐を明言した勇者一行はゼロ。皆が皆、揃って仕入れという言葉を口にし、中にはマジックジュエルや妖精の粉も一緒に買う連中もいるにはいたが、武器なり防具なりを購入していった。1組、いや2組か、予算が足りず何も買わずに帰っていったが、ルナを貯めて再来店することだろう。あといくら必要かも確認できたはずだ。

 仕入れに期限があるのか強さを不安視しているのか、今の所はここからさらに潜る勇者はゼロ組。仕入れ目的であればひとまず契約している店に戻るというのが賢明か。ルナもほとんどなかろうて。先を急ぐ理由は見つからない。転売士達を見ていて気になる点をひとつ。盾、鎧、剣もしくはアクセサリー・・・どこか一箇所に紋章が付されていた。最初の内はお洒落か何かかと踏んでいたが、どいつもこいつも一輪の花柄の紋章を掲げていると、ファッションではないな。ぱっと思い浮かんだのは派閥みたいなものか。俺が目にした紋章は4種類。競合店だろうか。互いに切磋琢磨して共栄共存を目指すという理想を、あくまで理想だが、掲げていればまだいいが。過剰な力を持つ者同士の争いは、それこそ勇者同士の戦いとなれば、町の一つや二つ簡単に消し飛ぶことだろう。


 「ふざけるな、12万5千ルナだと!?テメェ、なめてんのかっ。こちとら泣く子も黙る勇者様だぞ。」

こんなに柄の悪い客は道具屋時代だって会ったことがない。全く、嫌になってしまう。何でこんな奴が勇者に選ばれたんだか。教会の神父様の目も怪しいものだ。

「―んだと?」

「ですから、1ルナたりとも安くすることはできません。ルナをお支払頂けないのであれば商品をお売りすることはできません。」

「わざわざ遠くからきてやった客だぞ、2万でも3万でも負けやがれ、さもないと後悔するぜ。」

完全に悪役だな。

「そうすればあなた方の取り分が増えるという訳ですか。それとも手持ちのルナが足りないのかな。」

「だったらどうした!?」

「いえ、どのような理由があろうと、1ルナたりとも安くはできません。」

「ふん、それなら覚悟しな。こんな所に店を開いたのが運の尽きだったな。泣いても誰も助けに来ねぇぞ。安心しな、残った道具は俺達が有効活用してやるからよ。」


 大魔王が現れた。

 非礼な勇者はこの時初めて、俺が大魔王であることを知った。だがもう遅い。大魔王からは逃げられない。本気か脅しかは俺の知った所ではないが、先に剣を抜いたのは勇者。止めなかった奴の仲間も同罪。残念ながら、この戦いで彼等の冒険は終幕を迎える。後戻りはできない。大魔王が店を開いていることを知ってしまったから。

「な!おい、ちょ、ちょっと待て。待って下さい、お願いです。」

気付いたか。

「冗談、冗談だって。ほら、剣も引っ込めたじゃねぇか。」

俺が負ける要素は一切なかった。勇者共人間4人はひとまず馬車に逃げ込み、4体のモンスターに戦闘を任せた。無論すぐに引きずり出したが。そして、覚悟を決めたというよりもやけくそで挑んできた4人をあっさりと片付けた。

 ヒットポイントがゼロになった4人は強制的に各々の故郷へ転送される。その際にジョブを失い二度と冒険に繰り出すことはできない。彼等の冒険はこれにてお終いと言うことだ。ついでに記憶も消去してしまうのでこれまでの冒険や俺の正体も覚えていない。ああ言った連中だと同情という感情も生まれないから、精神的な疲労がないのは助かるな。




 万事屋の店主を演じながら思案していたことは、地下60階に向かうか、地上の様子を見に行くか。地下60階まで潜る目的は2店舗目の万事屋を開くこと。地上へ戻るのは道具屋や転売士の動向を己の目で確かめる為。ただ、地上で情報を集めている間に地下60階に辿り着く勇者がいるとちょっとまずい。まだ準備していないので、何もない空間が広がるだけだ。どこぞの勇者にも店がオープンしていると言ってしまったし。3、6、90階に店があるという話が拡散しているということも考えられる。

 「いらっしゃいませ。ようこそ万事屋うどんこへ。」

おや、この一行は2度目の来店だな。俺は客に悟られないよう、布の下でメモ帳を開いた。顧客情報、商品情報諸々を書いてある。前回の来店時よりレベルが2上がっている。・・・たった2か。そんなものなのか。他に何か変わったことは・・・おっ、モンスターを入れ替えたか。1体、防具の耐久度を回復できるモンスターを仲間にしているではないか。それは『アリエス』という羊の形を模した精霊のモンスターなのだが、貴重な特技『クロスヒーリング』を習得できる有能な仲間モンスターである。120ものマジックポイントを消費するが、仲間ひとりの防具の耐久値を全回復することができる上、戦闘能力も優秀。いい奴を引き連れている。ついでに彼等の紋章は『秋桜(こすもす)』。

 「死霊の鎌をひとつください。」

「かしこまりました。」

短時間で、と言えるか分からないが、10万ルナ以上をしっかりと貯めてきたようだ。買い物をする為には単純に魔王討伐を目指すよりも、道具屋と契約した方が近道の様だ。

「どうされますか、さらに地下を目指すのであれば、階段はこちらになります。」

気まぐれから誘ってみた。あまりにどのパーティーも帰ってしまうから。それにこの一行はまだ余力がある。道具もマジックポイントも。どんな状況でも対応できよう。もう少し深く潜っても良さそうなのだが。

「ん~・・・そうなだぁ。予定ではこのまま引き返すつもりだったんですけど―どうする?」

協調性があるのか決断力に欠けるのかは知らないが、4人で相談を始めた。その結論は引き返す。

「もう少し下に降りてもいいんですけれど、あまり勝手に期間を延長できなんですよ。まぁ、何を言っているか分からないですよね。また次回、行ければ挑戦します。」

そう言って秋桜隊は地上へ戻っていった。


 「それじゃあ、小田爺。店番の方、宜しくお願いします。」

「はいはい・・・いってらっしゃいませ。全く、言い出したら訊かないというか、頑固というか。如月殿がいない間に売上が落ちても責任は取れませんぞ。」

「大丈夫、大丈夫。利益度外視の店ですから。ただ、繰り返しになりますが、地下60階を目指す勇者が現れたら、雫を光らせて知らせて下さい。すぐに戻りますので。」

「かしこまりました。」

 『魔界の雫』。首からネックレスとして下げる小さな結晶石。先日の誕生日に小田爺から贈られた。機能は雫を握って念じれば相手の雫を光らせることができるというもの。唐突に現れる小田爺にいつも驚く俺を気遣ってプレゼントしてくれた、という解釈をしているのだが、いいですよね、小田爺。

                  

【勇者連盟vs道具屋連合② 終】

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