勇者撲滅計画④

 地下30階の品揃えは以下の通り。とりあえず確定しているのは『マジックジュエル』と『妖精の粉』。価格は25,000ルナと50,000ルナ。悪の親玉が言うのもおかしな話だが、なんとも法外な値段だなぁ。ここまでは魔王城にいる時から決めていた。問題はこの先で、どうしようかとずっと迷っていた。魔法陣を用いてめぼしいアイテムの研究を進める。そんな時にふと、万事屋の時の感覚というか、経営者としての心境が思い出された。

 道具屋の品揃えは基本的には皆一緒なんだろうな。そして誰もが品揃えを見直そう、売り場の手直しに時間をかけたい、陳列やフェイス取りはこれでいいのかなど、いつだって心の中で叫んでいる。けれども時間や人手に不都合が生じて、思うように改善できない。気が付けば時間に追われ、追い抜かれている。店によっては長らく追いつけていない所もあるだろう。だから売り上げアップの手段として、新しい商品に頼りがちになってしまう。客に飽きられてはいまいか、その恐怖を克服する手っ取り早い方法が新商品を展開すること。ただし忘れてはならない。時間と新規に追われる日々、そこに計画性が加わっていなければ遅かれ早かれ、店の経営は傾いてしまうだろう。

 単発の新商品に頼り切らない経営に関してはまた別の機会に触れるとして、客の期待している新規アイテムのひとつの傾向を見てみようか。

 メーカー側も大変。止(と)め処(ど)無く新商品を世に送り続けなくてはいけない。枯渇は許されない。作っては消え、作っては消えの繰り返し。1ヶ月前の商品が今なお現役で主役ということはほぼ皆無。商品の寿命は限りなく短くなった。そんな新商品が店にとってもメーカーにとっても命綱。そこに希うはずばり尖ったアイテム。

 尖ったアイテムとはどんなモノか。それはラビと政樹のお菓子屋サタンズにもあった。店頭のケーキを覗いた際、その遊び心に笑ってしまった商品。確か名前が『山盛りホイップケーキ』だったかな。考案者はラビだろう。スポンジの上に山盛りのホイップケーキ。ただそれだけ。チョコレートか何かでデコレーションされて本物の山みたいに見えるのは流石だとは思ったが、ラビの考えそうなケーキである。でも店のPOPによると、人気ランキング5位らしいから分からないものだ。政樹の手伝いというのはこいつのことなのかな。

 記憶を辿ればうどんでも尖った商品に会っていた。出汁や麺にこれといった特徴はなかった。良くも悪くも普通。でもここにこれでもかとネギが乗る。麺がほとんど見えなくなるまでネギが乗る。で、このネギが絶品。甘さをしっかりと感じられるネギを俺は初めて食べたのだが、見た目と味の衝撃はいまだに覚えている。俺が出立する前日に店主が作ってくれたのだが、いつかもう一度食べたいと、そう願いながら現在に至っている。

 全く糖分を使わないアイスクリームなんてのもある。筋肉島案に需要があるらしいのだが、たんぱく質を取る為のアイスで、とある客層にターゲットを絞っている。そのターゲットは多少値が張ろうと、無味無臭だろうと、まずかろうと買うのだ。尖った商品でさらにターゲットまで定まっていると非常に売りやすい。さらに、販売が落ちた際の潮時も見極めやすい。

 それであれば、もっと尖った商品を開発すればいいではないか。何故、製造側は尖ったアイテムに手を出しにくいのか、他と似たり寄ったりの商品よりも人気が出るかもしれないではないか。理由は単純。それはこけた時のリスクがとてつもなく大きいからだ。下手こくと、全くと言っていいほど動かない。そして周囲からは「ほら、言わんこっちゃない」と非難の嵐。結果が全て。だってプロセスなんてほとんど思いつきなんだから。商品を尖らせて失敗したら、全責任が尖らせた奴に降り注ぐ。反対に沢山売れれば時の人になるのだが、もう一つ大問題がある。一般的なモノよりライフサイクルがさらに短い。新発売から死筋と化すまであっという間なのだ、ほとんど。


 な~んて偉そうに語った直後にこう言うのもなんだが、客の求めているモノ、売れるモノが分かればこんなに楽な話はない。さらに付け加えると、今の俺にはほとんど関係ないが、販売期限や在庫管理などの対応は、例えば生物を扱うサタンズは頭を悩ませているかもしれない。

 尖らせるとはすなわち、刺しやすいが折れやすいということ。換言すると、メリットを目立たせる代わりにデメリットも大きくなる。客が、デメリットを把握したうえでメリットの恩恵に魅力を感じれば購入に結び付く、というのが一応の理屈かな。

 

 まず品揃えに選んだ武器は『封印の剣』、125,000ルナ。桁は間違っていない。十二万五千ルナだ。攻撃力は350。地上で入手できるどの武器よりも高い攻撃力を有するが、もちろんそれだけではない。覚えた魔法を剣に捧げることで攻撃力の上乗せが可能なのだ。上乗せ値はその魔法の消費MP分。要は、強力な魔法を封印するほどに剣の攻撃力が大きく上昇する。封印できる魔法は最大で5個まで。ただし、封印した魔法は使用不可能となる。武器が壊れれば魔法の封印が解けて使えるようになるが、装備を外したり捨てても魔法は復活しない。重要な留意点だ。

 続いては『死霊の鎌』。攻撃力は660。装備可能なジョブは狂戦士と一部のモンスターだけで、使用者は限られてしまうが、隣の封印の剣と比べても攻撃力は相当に優秀。ただし、毎ターンヒットポイントが減少していく、最大値の10パーセントずつ。結構えげつない・・・

 どうにかこうにか武器、防具、道具を品揃えして、改めて万事屋うどんこを開業した。誰が何と言おうと魔王は俺だ。俺が何をしようと文句は言わせない。勇者一行をサポートし、攻略の手助けを使用とも。

 小田爺にも話していないが、プレゼン以外の変更点も着々と進行している。

 ひとつ。モンスター専用の装備品を作ること。アイテム合成で勝手の良さそうなモノが出来上がったらこっちに回すつもりだ。人間では装備できない、モンスター専用アイテム。

 ふたつ。パーティーメンバーの構成を変更可能にする。これまでは人間4プラスモンスター4だったが、勇者1を固定として、残りの7枠をフリーに入れ替えできるようにする。変わらず4+4でもいいし、勇者1とモンスター7だって構わない。仲間モンスターにはそれだけ秀逸な逸材を、人間と比較しても見劣りしない能力を備えさせてある。

 

 俺は知らなかった。俺の計画と対をなすそれが同時に進められていたことを。勇者撲滅計画。

                            【勇者撲滅計画 終】

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