魔王のお仕事⑤

 丸1日、今日は研究所にこもりっ放し。モンスター創造。苦ではない。嫌いじゃない。俺はこういうの、凝ってしまう。適当にというのができないのだ。エンカウント率や数値関係はもちろん、デザインというかモンスターの外見まで好みを追求してしまう。楽しくて夢中になってしまい、いつの間にやら時間が溶けている。

 モンスターのデザインは俺の故郷で有名な漫画家の絵をパクらせてもらった。教科書にも載った、俺達の町で知らない者のいない人物。子供時代、男子ならば1度は真似して描いたものだ。俺も御多分に漏れず、何冊も自由帳を真っ黒にした。その経験が大人になってから、というか、魔王になってから活きるとは夢にも思わなかった。まぁ、思うわけないわな。

 序盤のモンスターの特徴は親しみ安さ。この漫画家のキャラクターは悪役でも、どこか愛嬌があるのだが、特に最初の方は命を狙う敵であると同時に、どこか可愛らしさを感じるキャラクターを心掛けた。ちなみに俺達の町では、そのキャラクターのキーホルダーなども売られていて、カバンや筆箱に付けている者も多かった。モンスターでありながらマスコットになる。そんなデザインなのだ。

 序盤のモンスターにはほとんど武器や防具を装備させなかった。弱い武器でもコストはかかる。こちらの都合という奴だ。同様の理由で道具もほとんど持たせない。アイテムドロップ率も低確率で。序盤は戦闘に集中してもらう。何故なら、ちょっとだけルールを変えるから。


 小田爺曰く、俺の造る中ボスはワンパターンと。自覚している、そして、それでいいと合点済みだ。ちなみに戦闘スタイルとかAIがということではなくて、見た目がという話。中ボスモンスターの外見が飽きてしまうと。決してそんなことはないと思うし、まさかそこを突かれるとは意外だった。

 一般モンスターと言えばいいのだろうか。自分の造ったモンスターを雑魚敵と呼ぶのは抵抗があるが、こいつらは様々なバリエーションを割り振っている。スライム系にアニマル系、ゾンビ系にゴースト系等々。生息区域も地上、空中、水中と用意している。また、弱点属性や、反対に耐性のある属性を設定することで、法術の利用価値を上昇させる。これをやっておかないと物理攻撃で叩くだけの単調なバトルに陥りやすい。色々書いたが、モンスターがバラエティ豊かであることに越したことはない。


 一方の中ボス。イベント上、必ず戦うことになるモンスター。イベントによっては勇者一行と会話したり、イベントアイテムを守っていたり、時にはライバル関係になったり、改心して姿を消したり。そしてこの世界において、中ボスは例外なく強い。傷と共に、勇者達の記憶にも刻まれるはずだ。そんな中ボスはスタイリッシュにしたいという個人的な思い入れが強すぎるようだ。

 モンスターの強さはほとんどそのままに見た目を変えているが、中ボスには人型モンスターを選択することが多い。ダークナイトみたいのが使いやすい。暗黒魔術師なんて言うのも乙だ。言葉を違和感なく喋ることができるというのもストーリーに組み込みやすい。いい奴にも悪い奴にも仕立てられる。加えて外せないのがドラゴン。強キャラはもちろん、知恵の番人的な役割も適任。

俺だって中ボスに巨人やサーベルタイガーみたいなモンスターも設置している。けれどもず重要イベントとか、勇者一行と関係が繋がる際は、確かに人型か竜族を選んでいた。

 「如月殿、今度のドラゴンは何色に致しますか?」

モンスター創造室に小田爺が苦言を呈しにやってきた。開口一番、嫌みから入ってきたな。

「いや~・・・まぁ・・・・・・どうも俺の中では、中ボスというと騎士とかドラゴンのイメージが払拭できなくて。イベントにも組み込みやすいと思うんですよ。」

「構わんのです。構わんのですが―何か狙いがおありですか?雑魚はバラエティ豊かと申しますか、魅力的なキャラクターで種類も豊富。それと比較しますと、中ボスのキャラクターがあまりにワンパターンに見えて仕様がないのです。決して悪いと申し上げているのではなく―」

小田爺の指摘は尤もだった。何か狙いがあるのではと怪しむのも当然だ。やれやれ、エスパーめ・・・・・・統一感が出るかと思いまして、ということでごまかしておいた。当面の間はこれで押し通してみようかと思う。

 さて、中盤のモンスターからは段々と装備を身に付けさせていく。アイテムを持っているモンスターも増やす。複数のアイテムを持つ敵キャラも作ってみた。その目的はモンスターの行動パターンを増加させること。

行動の選択肢を広げることで複数の局面に対応させるのだこれまでの場合、戦闘開始時に攻撃、ダメージを受けても攻撃、死にかけでも攻撃、というモンスターがほとんどだった。ダメージが大きかったら薬草を使えばいい。ステータス異常が出たら回復させればいい。ちなみにモンスターのステータスは弄らずに武器、防具を装備させたので、その分モンスターが強化された。補正値は思っていたよりずっと大きかった。残念ながら勇者達の冒険はより苛酷になった。

 後半から終盤にかけてはかなり強力な品を装備させた。下手をすると勇者一行に見劣りしないか、それ以上の性能を持つモノも。ただ俺だって鬼ではない(魔王ではあるが)。一定の確率でドロップするように設定しておいたので、期せずしてレアな装備品を獲得するチャンスでもある。無論、低い確率ではあるが。 

 道具もまた然り。店売りのない、また宝箱にも入っていないレアアイテムをモンスターに持たせると、冒険者の間で噂が広がった。

「モンスター○○が、アイテム×××を落とすらしいぞ。」

コレクターの心を掴むこと間違いなしだ。


 こうして魔王としての仕事の第一段階が概ね終了した。突然環境が変わり、摩訶不思議な能力を手に入れ、幸か不幸か魔族のトップ、意思を決定できる立場にいる。そんな魔王の裏の顔をちょっとだけ紹介する。

 店の売上げを上げるということは、客数と客単価を上げるということだ。まず客数であるが、これは来店頻度と置き換えた方がより正確化と思う。1日単位で見る分には単に客数ということで問題ないかと思うが、殊に俺達の様な小売りの場合。1週間ベース、1ヶ月ベースで検証する際は、同じ客が何回足を運ぶかに着目すべきだ。来店頻度を上げるカギはやはり、モノ。商品に拠る所が大きいが、例えば武器、防具屋でどうやって売り上げを伸ばすか。これは少々時間がかかるので次章に持ち越そう。

 さて、客単価を上げるカギもまたモノ。これもまた難しい。高単価のアイテムを売る、プラス一品を購入させるということが道具屋であれば通用するが、武器や防具といった一回限りの買い物は難しい。武器、防具屋でも来店頻度を上げて、勇者達に金を落とさせる手法を実践しなくてはならない。


 序盤戦最後の仕事は、魔王直属部隊を編成すること。これは一定のパラメータがあって、仮に100としようか、その値を自由に割り振ることができる。例えば強さ25の部下を4体とか、50、30、20を3体でもいい。舞台と言いながら100の強さを持つ右腕を作ることも可能。ちなみにモンスターのタイプは自由。滅茶苦茶に強いスライムを造ってもいいし、お決まりの巨人やドラゴンだっていい。そうなると、政樹は王道の部隊を編成したのだな。俺の好みの部隊だった。ちなみに俺のレベルが上がればより強い部隊を作ることができる。振り分けられるパラメータが上昇するのだ。

 魔王直属部隊の主な役目としては、シナリオ上のイベントバトルで勇者と戦うこと。2度、3度と顔を合わせることもあるし、場合によっては勇者とライバル関係になることもある。そうなるとやっぱりこだわりたいよな、ビジュアルには。

 「了解致しました。では、直属部隊はこれで進めます。」

「ええ、宜しくお願いします。」

「しかしながら―意外でしたな。てっきり騎士やら竜族やらを揃えると思っていましたが・・・」

「小田爺の裏をかいたのは初めてですね。何か嬉しいな~。」

「・・・・・・」

嫌な空気が流れた。さすがにわざとらしかったか。小田爺の沈黙が怖かった。

「下がって結構ですよ、小田爺。」

「はい・・・では失礼―何をお考えで、魔王様。」

「さて、何でしょう。」

                        【魔王のお仕事 終】

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