魔王のお仕事④

 「さ、如月殿。訓練のお時間ですぞ。ささ、お急ぎ下さいな。」

「はい、はい、分かってますよ。ね~、小田爺~、ちょっとは手加減してくれよ・・・勇者が来る前に俺が死んじゃうよ。魔王が勝手に消滅だなんて前代未聞だろう。」

これから行うのは対人(ロボット)訓練だ。相手は小田爺。魔王たるもの、勇者よりも強くあるべし、圧倒的に。小田爺の口癖である。おかげで我ながら、随分と魔法やら特技を思い通りに使いこなせるようになった・・・はずなのだが、今日で5度目の卒業試験である。小田爺に勝てれば実践トレーニングは晴れて終了ということになる。

 小田爺によると俺は政樹と同様、魔導士タイプの魔王だという。幾つかある俺の特殊能力を駆使して小田爺と戦う。その能力を小田爺は高く評価してくれていて、

「能力は問題ないのです。あとは戦い方。要は作戦ですぞ。」

お褒め頂き、光栄である。ちなみにだが、魔王の戦う理由は勇者に負けない為。決して倒すことが目的ではなく、魔王城やラストダンジョンまで到達した勇者一行を退けること。似ているようで全く異なる。魔王の仕事は勇者を殺すことでも人間族を滅ぼすことでもない。生き残ること。次の魔王が見つかるまで。でないと、モンスターの創造主がいなくなってしまうからな。

「小田爺に勝ったら実践トレーニング卒業ということでいいんですよね。」

「はい、左様でございます。その後はご自分のペースで能力を維持できるよう、適度に精進なさいませ。」

確認終了。では―


 先手必勝。『万死の雷撃』。御大層な名前だが、これが言わば俺の通常攻撃。魔法攻撃なのでマジックポイントを30消費するのだが、俺の最大MPはまさかの1,000。さらに毎ターン50ずつ自動回復するというおまけつき。ということは実質マジックポイントを使わずに魔法を放つことが可能なのだ。ズルいと指摘を受ければ認めるが、魔王だもの、ラスボスだもの、これくらいは許してほしい。俺もマジックポイントが底を突いたら打撃に移らざるを得ないのだが、弱いぞ。自慢じゃないが凄く非力だ、仮にも魔王の一撃が大したことなかったら拍子抜けだろう。格好がつかない。マジックポイントが基調で、その回復アイテムがレアだった人間界ではチート級の能力である。ついでに付け加えておくと、魔王は1ターンに2回行動がデフォルトである。独りで強者4人を相手にするにはこれくらいで最低ラインなのだ。

 小田爺にはワンパターンだと言われる。開戦直後、様子を窺いながら作戦を立てたいという心理、狙いはそれなりに理解してもらえたが、にしても雷撃が多すぎると。4人もいる敵の出方を見るのも大切だと反論したら、それならば守りに徹した方が賢いだとさ。ちなみに小田爺の戦闘パターンはランダム。魔法連発の時もあれば、武器でごり押しという時も。ズルいというよりも、魔王より強いんじゃないかという印象だ。どう来るか、それを見極める為にも雷撃は有効だと判断したんだけれどな。

 小田爺の今日のパターンは、剣でゴリ押しの様だ。そうと分かれば俺は『魔界障壁』を使う。これは物理攻撃のダメージを30パーセント減少させられる大地属性の魔法だ。個人用の結界みたいな物。名前の通りバリアだな。効果は2or3ターン。物理攻撃を得意とする相手にはすこぶる有効な対策だ。こんな風に、俺なりにちゃんと考えているのだから、まずは雷撃というのも悪くないと思うんだけれどな。年を取ると頑固になるのだ。小田爺も自分の考えに縛られているのかもしれない。考え方を変えるのが億劫なのかもしれない。ちなみに相手が魔法を多用してくる場合は『魔導障壁』を使って、魔法攻撃の被害を減らす。どう見たって正攻法だろう。

 もうちょっとだけ付け加えると、この世界では魔王のヒットポイントが1番高い。群を抜いて。攻めが遅れても敵の特徴を掴むことが戦闘を有利に運ぶと思うのだが、どうも小田爺は考え方が違うらしい。納得してくれない。それならば力で証明するしかない。

 今日は小田爺が剣を振り回してくる近接タイプの様なので、まずは物理ダメージを抑える。そんでもって攻撃はひとまず雷撃。ま~た嫌味を言われるかもしれないが、俺は悪い攻めとは思っていない。雷撃によって小田爺のヒットポイントを、マジックポイントの消費無しで削っていく。

すると、待ってましたとでも言いた気に小田爺が動いた。回復魔法でヒットポイントを回復しつつ、魔法攻撃を跳ね返す『魔鏡』という道具を使ってきた。こうなると雷撃は数ターン通じない。そこで攻撃を魔法から特技へと切り替える。今日俺が持参した道具はコイツだ。

 『剣の舞』。このアイテムを使うと、敵の頭上から十数本の剣が降り注ぐ。えげつない攻撃力を誇る道具だ。これができあがった時は嬉しかった。これで攻撃の幅が広がったと。俺の苦手だった物理攻撃を補って余りある道具。俺の特殊能力のひとつ、『アイテム召喚』。2種類の道具を組み合わせることで、様々なレアアイテムを作り出せる。組み合わせに使える道具は様々で、店で売っている道具や武器、防具。そして、アイテム召喚専用の道具も沢山あるようだ。俺が確認しただけでも50種類以上。全ての組み合わせを試したわけではないが、『剣の舞』は使い勝手が抜群。リスクなく高い攻撃力を発揮する、俺の攻撃の主軸になりそうな道具である。どうだ小田爺。

 ・・・すげ~な、小田爺。ほとんど弾いちまったよ・・・2本か3本かすった程度のダメージしか与えられなかった。人でも魔族でも頭の上は死角だと訊いたが、効果はいまひとつだった。その後は互いに防御を重視した戦いが続き、決定打に欠けた戦闘が展開された。小田爺がそう仕向けていた。早よぅ、見せてみぃ、主の切り札を。そう言わんばかりに。


 「結構。合格としましょう。以後はご自分で修錬なさい。如月殿の場合は研究か錬金と言った方が正しいですかな。」

 小田爺の試験をクリアしてから、小田爺はあまり顔を見せてくれなくなった。呼んでも別の者が来る。最初は清々したが、そのうち不安に襲われるのだから、人の感情というものは一筋縄ではいかない。ま、たま~に顔を出してくれるので、いなくなってしまったという訳ではないのだが。

                        【魔王のお仕事④ 終】

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