魔王のお仕事③

 最初に断っておくが、政樹によって見せられた映像に感化されたわけではないし、反対に依怙地になっているということもない。あくまで俺の意思決定。小田爺からの助言、投げた質問への返答を参考に現魔王が下した判断だ。

 で、俺はモンスター創造のペースを落とした。俺の仕事はモンスターの創造と言いながら、その数を減らすことから始まった。あくまで減少。ゼロにすることを目指したわけではない。魔王の権限みたいなもので、パッと消滅させて希望の数にすることができれば話は早いのだが、そうは問屋が卸さなかった。数を減らすには勇者達がモンスターを倒していくのを待つしかない。ならばモンスター創造を完全にストップしてしまえと思ったのだが、そうすると中途半端な位置で、冒険者がレベルアップする術が無くなってしまう。どう頑張っても中ボスに勝てず、詰む。そんな状況を避けるべく、まずはモンスタークリエイトのペースを落とすことから始めた。

 「如月殿、いかがですかな?」

「う~ん、そうですね。現在、モンスターの数が2割程減りました。そのせいで勇者一行のレベルの上がり方、成長スピードが鈍ってきましたね。外を歩いていても、ダンジョン内を彷徨っていても、エンカウントする回数が減る。戦闘回数が減る。そりゃ、レベルアップのスピードは落ちますよね。」

「モンスターの数を減らすのは、単刀直入に言えば勇者の弱体化が目的ということで宜しいのですかな?」

その通り!と言えれば魔王として及第点なのだろうが、残念ながら少し違う。今の魔王が欲っするモノは情報。行動後の変化に関する情報の為の実験。

「そうですね、うまくいけばいいのですが―」

魔王となって1ヶ月、小田爺意外と喋る機会もなし。孤独なんだな、魔王って。

 

 先代の頃と比較しておよそ50パーセントまでモンスターの数を減らした。ルナや経験値はそのまま。その結果、勇者達の成長速度がガクンと落ちた。レベルアップに必要な経験値獲得の効率が悪くなったのだから当然である。同様にルナを稼ぐのにもより沢山の時間がかかる。エンカウント率が下がっているので、例えば、強引にとある洞窟の中ボスの所へ行くことは可能かもしれないが、中ボスの強さがかなり高めに設定されている世界である。低レベルで挑めば返り討ちに遭うのがオチだ。モンスターが少なかろうが、時間がかかろうが、手間だろうが面倒だろうが、準備を怠っては先に進めない。するとどうなるか。

 一部の勇者から文句が訊こえてきた。モンスターの数を半減させたらクレームが発生するというのもおかしな話だが、内容はやっぱりルナが貯まりにくくなったということだ。中ボス強キャラ設定の世界ではレベル上げは元より強い装備を整えるため、アイテムを購入すべくルナを稼ぐのに、単純計算でこれまでの2倍の時間が要される。でも俺は決して無理難題を押し付けているわけではないし、解決困難な課題を提示しているわけでもない。ただ時間がかかることによって、各地で勇者の渋滞が発生した。町や村に冒険者が溢れ、宿も満室ということが珍しくなくなった。蓑口さんは大忙しだろうな。酒場はさぞかし盛り上がっていることだろう。もしかしたら、あの味無しソフトクリーム屋も繁盛しているかもしれないな。

 ルナの貯まりづらい、代わりにストレスの蓄積されていく状況に痺れを切らした勇者同士のいざこざまで発生する始末。詳細というか理由も一応は調査したが、特筆すべきものはなかった。肩がぶつかったとか、宿の予約を延長したとか、生意気な口をきいたとか、挙句、互いに酔っ払った勢いで、とか。とても世界の平和を取り戻すべく奮闘している勇者様の言動とは思えない。モンスターの少なくなったことで、ダンジョン内は進み易くはなったはずだ。けれども、俺は中ボスの強さを変えていない。繰り返すが、この世界の中ボスは大変お強く設定されている。武器と防具は言わずもがな、道具もフル活用しないと撃破はなかなか大変だ。個人的には中ボスのレベル設定が間違っていると確信しているのだが、それほどまでに各地の要所を締める中ボス連中はいやらしい強さを持っている。けれども俺は中ボスの設定を変えなかった。

 勇者一行の滞在期間が延びたことによって、一般の人々に落とされるルナは増加した。宿屋がそうだし、酒場も連日大繁盛で営業時間を伸ばしている所が多いと訊く。日中はモンスター狩りに奮闘し、夕方から一息ついて疲れを癒すのも一興だろう。そうそう、一攫千金を夢見って、冒険そっち退けでカジノに入り浸る者も続々と現れているらしい。十中八九、ルナを減らすのが下げなのだが、ごく稀にとんでもない大当たりを引き当てて、カジノ景品でしか入手できない超が付くほどのレアアイテムを手に入れる者もいるらしい。そうなれば確かに冒険は楽になるが・・・

 さて、まずはモンスターの数を半減させてみた。町や村の人々の暮らしが多少は好転したのではないかと思う。勇者達が沢山のルナを落としてくれているはずだ。一方で、一部の冒険者に限っては素行不良の評判が立っている。大きな争いには至っていないが、政樹の指摘を思い出さないわけにはいかなかった。                                              


                         【魔王のお仕事③ 終】

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