魔王のお仕事②

 目が覚めて、ゆっくりと体を起こす。 どうやら生きているようだ。そして、しっかりと覚えている。300回を目前にして、俺はどうにか魔王を引き当てた。俺は魔王に転職した。そこまでは間違いない。その後はどうなった。政樹、政樹はどこだ。っ言うか、ここはどこだ。おそらくは政樹が運んでくれたのだろうが、随分とふかふかな、少なくとも今まで俺が寝ていた布団の数倍柔らかい(蓑口さん、ごめんなさい)。両腕で布団の感触を楽しみながら周囲を見回せば、巨大なベッドの中央にいた。4、5人は余裕で横になれる。ベッドだけではなく掛布団まで馬鹿デカい。一気に目が覚めた。さらにくそデカい部屋。部屋の中央にベッドがぽつん。それ以外は何も見当たらなかった。この部屋の雰囲気を俺は知っている。全く同じ場所ではなかろうが、おそらくここは―

 「お目覚めですか、魔王様。」

俺の勘を肯定するかのように、どこからともなく音もなく、小田爺が現れた。

「どうも・・・ここは、魔王の城ですか?」

「いかにも。しばらくの間は私目が教育係となりまして、魔王とは何たるかを学んで頂きます。」

「政樹は?前魔王はどこにいますか?」

「『ヤガタセ』でしたかな。そこに転送したと柳殿が仰っていましたぞ。」

さすが運び屋、味な真似をする。

「そうですか。分かりました。」

政樹は故郷に帰れたようだ。しばらくは母ちゃんとのんびり過ごすのだろう。土産話はどうするのかな。魔王について語るのだろうか。そんな妄想をしていると、小田爺が興味深い追加情報を伝えてくれた。

「落ち着いたら、政樹殿は、お菓子屋のお手伝いをするそうですよ。店の名前は確か・・・『サタンズ』。」

「サタンズ・・・ふっ・・・・・・くっくっく・・・くくっ、あっはっはっはははは・・・・・・・・・いい!!!いいネーミングセンスをしている。うん、安心しました。ではでは、小田爺、宜しくご指導、ご鞭撻のほどお願いしますね。」

 吹っ切れた。


 最初に連れて来られた所は通称、校庭。ただただだだっ広いグラウンドだ。

「ふむ・・・如月大魔王のステータスは―」

わざとらしく声に出した小田爺が、バインダーに挟まった数枚のプリント資料をペラペラめくる。どこからどう見ても普通の爺さんだ。仮にロボットだというのならば、ペラ紙数枚程度の情報はインプットしておいてほしいものだ。

「属性は雷(いかづち)と大地。モンスター創造の際には、モンスターに武器や防具を装備させることが可能。ほ~~~。転職の影響かの。珍しい能力じゃて。ま、それは置いておいて、始めますかの。」

まずは、魔王としての戦闘能力のレベルアップから始まった。

 感情を言葉で表すならば、驚きと快楽だろうか。小田爺に教わって魔法の訓練を始めると、何の苦労もなく雷の魔法を使えるようになった。運び屋やラビの魔法を見てきて単純に凄い、羨ましいと心のどこかで思っていた。そして、いざ自分が不思議な力を手に入れると、何かこう、子供の頃の夢が叶ったみたいだ。

 右手の爪に意識を集中させると、いとも簡単にエネルギーの集約を感じることができた。それを離れた対象に向けて放てば、一筋の雷が迸(ほとばし)る。5本指で撃てば威力も5倍。数回、試し打ちを繰り返すだけで魔界の雷を自在に操れるようになった。

 お次は左手。こちらは大地属性。今度は指先ではなく、手首から先、全体に力を込める。すぐさま掌の中心に重さを感じる。力を溜めれば溜めるほどに重さが増し、それを対象に向けて放つと、その周辺に地震が起こる。練習することで揺れの大きさや範囲をコントロールできるようになった。初めは驚き戸惑った。天変地異を操れてしまうのだから。それが喜び、楽しさに移り、そして分かっていた。いずれ普通、当然、日常に変わることが。


 「さすが、と言っておきましょうか。おおよそそんな所でしょう。あとは鍛錬を重ねて頂ければ、より自在に使いこなすことができますでしょう。こちらの校庭は自由にご利用頂いて結構ですので―」

小田爺から太鼓判が押されるのに3日とかからなかった。

 それではモンスター創造へと向かいましょうか。

 どうやらここからが本番らしい。             

                       【魔王のお仕事② 終】

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