クリア後の世界①

 俯瞰図というのだろうか。幽体離脱をさせられたのか。俺の肉体はない。意識はある。意思もある。思考も可能。だから夢の中のようで夢ではない。鳥にでもなった気分だ。地上に立っているのではなく上空にいる。10メートルくらいか。最初は未経験の高所に恐怖を感じていたが、それも直に慣れてしまった。

 ここがどこかは分からない。かなり栄えた城下町のようだが、道具屋として訪れたことはない。

 政樹の話を思い起こしてまずとった行動は、外に出向いてみた。モンスターの様子を窺いたかったからなのだが、そういえばこっちの世界に転送されてからは町や村の外に出たのは初めてだ。しばらく上空をうろちょろしてみたが、モンスターの姿はゼロ。広く静かな世界が広がっていた。戦闘が行われ様子もない。平和。魔王が何と言おうと、勇者達の夢にまで見た世界が広がっていた。

 数羽の小鳥が俺の目の前を通り抜けていった。言ってみれば空飛ぶ透明人間だ。悪くないな、なんてほんわかしながら町に戻ってきた。望んでやってきた場所ではないが、兎にも角にも勇者御一行を探さねば、と。そして俺は後悔をすることになる。魔王の精神攻撃に足を踏み入れてしまった。

 勇者というのか特殊能力者というのか知らないが、奴等は城の中にいた。城内の様子は、思い出したくもない。一言だけ記すならば酒池肉林。幾らか観察してみれば生活レベルや環境がまるで異なった。持つ者と持たざる者。支配する者、されるもの。人が人ならざる力を手に入れた時、人が悪魔に変貌する。その縮図を見せられているようで吐き気を催してしまった。これではまるで奴隷じゃないか。平等とはかけ離れた、持つ者による圧倒的な支配。もしくは持つものを利用した治政。持たざる者が逆らうことはできない。反逆がもたらすのは火を見るよりも明らかな死。どうすることもできないのだ。

 俺が心の中で結論を導いたことを見越したかのようなタイミングで目の前が真っ青に、そして緑に、やがて暗転した。もう何回目だと思っている。事の成り行きはすぐに理解できた。次の街だか村にでも転送させられたのだろう。そしてここでは、幾らか希望を見出だせた。能力を用いて罪を犯すものに対して自警団なる存在、まさに勇者が立ち上がっているではないか。規模で言えば小さいのかもしれないが、勇者とその仲間達が平和の為に戦っているのだ。希望という光が広がっていた。そう思ったのは早とちりだと、後々思い知らされたのだが。

 3ヶ所目の場所は戦場だった。国盗り合戦、戦争だ。人が国家戦力を持ち、その人間が何十、何百と集まり、命を奪い合う。武器と魔法―信じられない戦争が展開された。                      

【クリア後の世界① 終】

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