ちょっと昔話を②

 階層は進み、地下50階。折り返し地点である。何やら宝箱の中に希少なアイテムが入っていたようだ。4人が盛り上がっている。

「ほぅ。良さそうな剣じゃねぇか。柳、さっそく装備してみろよ。」

「そうですね。でもまずは呪われていないか調べて貰わないと―蓑口、鑑定して頂けますか。」

「どれどれ~・・・」

「それ、本当に名刀なのか?何かおもちゃみたいじゃないか~。」

 ダンジョンの途中とはおもえない程どこか楽しそうな4人。ピクニックじゃないんだから。

 蓑口が簡単な呪文を唱えると、手に入れた武器のステータスが判明したようだ。

「大丈夫よ、呪われてはいないようね。え~と・・・名前は『アロンダイト』。攻撃力は358。2回に1回の割合で無属性の追加攻撃が発動。精霊の加護を受けたいわば精剣。数百年前、円卓の騎士達が―」

「どうだ柳、握った感じは?」

「いいですね。しっくりくるというか、重くもなく、軽すぎず。早く試してみたいですね、追加攻撃。」

途中から蓑口の説明なんか訊いちゃいない。

「蓑口、このバカ2人、燃やしてやろうか。」

「ウェルダンで宜しく。」

鑑定を依頼しておいて、勝手に2人の世界に入ってしまういつものパターン。外野の2人も慣れてしまった。

 



 もう少しだけ遡って、昔の話をしようか。伝説人と呼ばれる柳、クォーダ、蓑口、ラビの4人。元々は2人ずつのパーティーだったということを知るものは少ない。

 柳とクォーダの2人組。他を寄せつけない強さを誇る戦闘狂。2人の跡には粉々に砕かれたモンスターの骨しか残らないということで『クレイジーソルト』なんて名を馳せていた。向かう所敵無し。出会ったモンスターの方が恐れ戦(おのの)き、逃げ出すことも珍しくなかった。その実力差は魔王城に乗り込んでも変わらず、魔王直属部隊とすんなり対峙するに至った。そして初めて、逃げ出した。

 「柳よ、どうして逃げた?問題なく勝てる敵だったはずだぞ。」

魔王城を脱出し、アラタヤードの宿にて。

「う~ん・・・いや、やっぱり回復手段が足りないなと―」

「お前だって多少は回復魔法が使えるじゃねぇか。この辺の敵なら十分間に合っていただろうが。そもそも慌てるほどの傷を負った覚えもねぇけどな。」

柳の指示の下、逃走した2人。大したダメージもなく、納得のいかないクォーダが釈明を求めた。

「クォーダが攻撃、私が回復に専念すれば魔王の配下はもちろん、魔王にも負けませんよ、2人でもね。」

迷いなく言い切った柳。

「それじゃ―」

「要するにその先です。ラストダンジョンの最下層を目指すにはやはりもう2人必要なんです。法術に特化した仲間がどうしても。それを見つけに行きます。」

「別に逃げ―」

「そう。わざわざ敵前逃亡することもなかったのですが、倒してしまうと暇になるなと、急に強迫観念に囚われまして。」

「だからって―」

「ということで、法術士を探しに参ります。誰でも良いというわけではありませんよ。最高レベルの魔法使いです。目的地は魔道会議。」

「柳、貴様・・・」

「はいはい?」

「俺の話をわざと・・・俺に喋らせる気なかっただろう。」

「あ、バレましたか。面倒臭かったので―」

すっと、クォーダが斧を構えた。

「わ-、ごめんって~。ちょっ、武器をぶぉんぶぉン振り回すなって~・・・・・・」


 「手当たり次第に町の酒場を回った方が早ぇんじゃねぇのか?」

やや肌寒い午前中の早い時間。クォーダが呟く。

「う~ん・・・単に仲間を増やすだけならそっちの方が手っ取り早いんですけどね。あ、そっちの肉焼けてますよ。あとこれ、ミルク貰ってきましたので―」

目の前には巨大な城がそびえたつ。その城門すぐ横にテントを張って野宿2日目の朝。どこから調達してきたのか、焚火を前に朝食を食べながら、柳の眼鏡に叶う魔導士を探していた。

「今日の10時から魔道会議があります。各地から優秀な法術士が集まりますので、そこを狙ってみようと思います。」

粥を食べながら柳が目論見を話す。肉と卵の入った、割とちゃんとした朝食だ。

「どこぞのパーティーから引っこ抜くのか?魔法使いや僧侶の類を。」

既に平らげたクォーダ、おかわり分も。

「いえ、即戦力が欲しいんです。そこで魔道屋―魔法研究者と言いますか、開発者と言いますか。蓑口という女性が会議に参加するはずです、パートナーと一緒に。彼女達を誘います・・・クォーダ・・・・・・?お腹が一杯になったら寝てしまう癖は直しましょうね。」

 やがてお目当ての女性が現れた。蓑口という女性が、女の子という表現が適切であろう女児の手を引いて城門に向かう。柳は顔を知っていたようだが、それだけでなく、並々ならぬ魔力が醸し出ていたのだろう。

「来ましたね。ちょっと行ってきます。」

「おぅ、行ってこい。」

「おや、起きていたんですね。」

「大したもんだな。手合わせ願いたいもんだ。」

「そうですね、伝えておきます。」

 蓑口たちが門番の下へ到着する前に柳が接触した。

「初めまして、蓑口さんですね。」

丁寧かつ優しく声を掛ける柳。

「どちら様でしょうか?」

「柳と申します。お手合わせ願えませんか。」

「はい???」

そりゃ、そういう反応になるわな。

 もう小慣れているいうか仕組みを理解しているというか。柳が門番のフードをめくり、胸の辺りにあるボタンをピッピッピ。しばらく待つとひとりの老人が現れ、クォーダも含めた4人はこの老人について中に入った。

 「どうもお忙しい所すいません、小田爺。無理を言ってしまって。」

誰がどう聞いてもわざとらしく謝る柳。その表情は全くもって悪怯(わるび)れていない。小田爺を先頭に柳、クォーダ、そして手を繋いだ蓑口とラビという順番で城内の廊下を歩いていく。

「ふん、心にもないことを。口から出任せが見え見えじゃ。昨日から珍妙な客が寝泊まりしとるから怪しいとは思っとったんじゃ。」

「そんな、本当に悪いと思っていますよ。このお城を壊してしまっては申し訳ないですし。」

「全く・・・本当に困った勇者様だことで・・・・・・さてと、着いたぞ。共同実験場じゃ。儂が結界を張っておくから、よっぽどでなければ外に被害は及ばんじゃろう。」

「あれっ。小田爺自ら?珍しいですね。」

「馬鹿者っ。魔道会議に可愛い魔法使いの卵が来るんじゃよ。つまらん怪我などさせられんわい。」

気心の知れた仲なのだろうが、突如連行された側としてはそんなことどうでもいいこと。

 「あの・・・」

何の説明も受けぬまま連れて来られた蓑口とラビ。 いい加減に説明を訊かせなさいと、蓑口が声を掛けてきた。か細く消え入りそうな「あの・・・」ではなく、重く太い「あの・・・」だった。そしてその「あの・・・」にまず反応を示したのは小田爺だった。

「蓑口さん。そろそろ実戦に戻っても好い頃合いかもしれんの。」

 「―という訳で、蓑口さんの実力を試させて頂きます。」

柳が蓑口に対して一通りの説明を終えたが、もちろん納得を得られぬまま話は進む。

「おい、柳、さすがに2対1は気が引ける。お前が相手しろ。俺は見てる。」

そんなクォーダの紳士的提案に反応したのは女性陣。

「余計な気遣いは要らんっ。黙って構えろ!」

蓑口がその封印を解いた途端、ずっと大人しく手を繋いでいたラビがクォーダに食って掛かった。蓑口はもとより小田爺も知っていた。目ん玉をひん剥いたのは柳とクォーダの2人だった。

「一方的に試されるというのは気が進みませんが―」

蓑口がニコリと微笑んだ。

「まぁ、いいでしょう。私とラビに勝つことができたらあなた達に力をお貸しするということで。」

会話を聞いていた小田爺がす-っと4人の下を遠ざかった。足を使うことなく膝を曲げることなく、宙に浮いたまま。今回に至るまで、実は数度、小田爺に声を掛けていた柳。年齢を理由に断られ続けて実現には至らなかったが、従って蓑口は、第二候補だったりする。

「じゃぁ、恨みっこなしだな。」

クォーダが巨大な斧を構え、

「それでは宜しくお願い致します。」

柳は二刀流だ。

「お手柔らかに。」

蓑口は宝玉の付された杖を、

「黒焦げにしてやる。」

ラビは念珠(ねんじゅ)を手にした。

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