再会③

 敵さんながら神威輝くというか、威風堂々というか。素直にスタイリッシュだと思う。漆黒の鎧、兜に身を包み、同色の剣と盾を備えている。色が色ならそのまま勇者だ、聖戦士だ、正義の味方様だ。顔まで覆う兜のせいで素顔は伺えないが、間違いなく強いよな。強くなくちゃいけない姿、形をしているもの。ダークナイト、味方だったらさぞかし心強かろうて。

 その隣には巨人、ギガントトロル。ダークナイトとは対照的に装備品は皮のパンツと棍棒のみ。デカさはダークナイトの2倍はある。横も縦も。動きは絶対に遅いよな。あのガタイでスピードが速かったらそれは反則だ。何らかの法則に反している。怪力だけが自慢ですと体現している、いわゆる脳筋野郎だ。ん、似たような奴がコチラにもいるが、黙っておこう。

 そんなギガントトロルよりもさらに一回り大きなダークドラゴン。飛行タイプかどうかは知らないが、翼も生えている。その名の通り鱗は真っ黒。赤なら炎、青なら氷、黄色は雷、黒は何だろう。暗黒の炎でも吐くのだろうか。他の色なら神の使いでもおかしくなかろうが、黒はダメだ。どっからどう見ても魔王軍。もしも空から火を吐いてきたらどうやって対処するつもりなのだろう。

 最後は一番弱そうなダークプリースト。闇の大魔道士といった所か。黒のローブで全身を包み込み、右手に杖を持っている。黒っぽく映るが、紫・・・だろうか。その先端には深緑色の宝玉が付いている。腕力は乏しいが呪文は任せろ、といった感じか。あちらさんのパーティーもしっかりとバランスが取れているご様子。抜かり無し、か。バカデカイ奴等と一緒にいる為か小さく大人しそうに見えるが、かえってそれが不気味に映る。何をしてくるか予測がつかないという点では最も恐ろしい。


 結論から言うと、運び屋一行はこいつらと戦わなかった。道具屋を出て行った4人は魔王直属軍と対峙した。道具屋からの距離はおよそ10メートル。汗が止まらない。結界の中にいれば安全と言われてもやはり緊張した。怖かった。俺には攻撃する術も身を守る術もないのだから当然か。両陣営の距離が縮まる度に呼吸が苦しくなる。目の前で戦闘が繰り広げられると思うと、誰かが死ぬかもしれないと考えるとクゴートに来たことを後悔せざるを得なかった。忠告に従っておけばと。今更になって、自分を押し通さなければ良かっただなんて心の弱さが嫌になってしまう。浮かぶのは教会での取り乱した冒険者の姿。

 戦わなかった理由、それは、魔王降臨。突然のことだった。いつ、どうやって現れたのか俺には分からなかった。そう、最初は何様なのかも判別つかなかった。教えてくれたのは魔王直属部隊だ。ギガントトロルとダークドラゴンは知能が低いからか人外の体躯の為か、ダークナイトと闇の司祭だけが跪いた。魔王は真っ黒なマントを身につけただけの簡素な出で立ち。全身を覆ってはいたが顔を拝むことができた。できてしまった。魔王の指示だろうか、魔王を先頭に翻り、ゆっくりと離れていきながら消失した。その様子を片時も目を離さず、この目に焼き付けた。魔王としっかり、目と目が・・・目をそらすことが、できなかった。遠目ではあったが、十中八九―俺の望んだ再会ではなかった。

 「お、お帰りなさい」

4人が疲れ果てて道具屋に戻ってきた。蓑口さんが結界を解くと、4人は散り散りに床へ座り込んでしまった。戦いは行われなかった、だのに4人は汗だくだった。呼吸も乱れていて、それこそ長い階段を上り終わった直後のように肩で息をしていた。こちらから気楽に話し掛けてはいけない雰囲気を察知した。心を落ち着け、考えをまとめるまで待っていろと言われている様で、俺も黙っていた。記憶を辿っていた。旧友の顔を思い出していた。

 「如月さん、マジックポーション、ありがとうございました。」

立ち上がり、沈黙を破ったのは運び屋だった。

「1個使わせて頂きましたので、明日、お代をお渡しします。」

「分かりました。」

運び屋から残りのアイテムを受け取り、俺とラビは蓑口さんに連れられてタキシーモへ戻った。


 「さ、着きましたよ、如月さん。」

ぼ~っとしていて転送が完了したことに気付かなかった。

「ああ、すいません。ありがとうございました。」

自分の中だけでは解決できないな、やっぱり。

「あの・・・蓑口さん。ひとつ聞きたいことがあるのですが―」

オレの問いかけを耳にしたラビは、気を利かせて離れていった。ネックレスをした後のラビではこうはいかない。

「どうぞ、私に分かることでしたら。」

「はじめ、敵は4体でしたよね。騎士、巨人、ドラゴン、魔道士。」

「そうですね。」

「途中、ひとり、黒いマントを羽織った男が加わったように見えました。」

「はい。」

「あれが、大魔王・・・なのでしょうか。」

「おそらく・・・・・・・・・私達も見たのは初めてですが、間違いないと思います。数年前に先代の魔王が討ち取られました。あそこにいた、黒マントの男が、今の魔王だと思います。直属部隊が素直に命令に従っていましたし。」

「そう・・・ですか。勇者の、勇者一行の最終目的は、魔王討伐ですよね。」

「・・・・・・そう、ですね・・・」


 時刻は夜9時。蓑口さんには外で済ませますと断りを入れ、オリベイラを出た。尤も、外で済ませると言った所で、飯屋がある訳でもない。とりあえず独りになって、頭を冷やして、冷静さを取り戻して・・・ということで自分の店へ入店。当然閉店しているので店番をする訳ではない。

 当初は血眼になって探していたのに、いざ現れてみたら自分の目を疑っている。見間違いとか他人の空似を期待している。運命のいたずらという奴なのだろうか。それよりも、故郷の神父はこの事を知っていたのだろうか。恐らくは、あの時の話振りからすれば、全て知っていたと考えるのが自然だろう。もしそうだとしたら―その先に思考を発展させることは辞めた。ちょっとずつ、頭が冷えてきたようだ。

 目と目が合ったから、向こうも気が付いただろうか。それとも記憶なんか残っていないか。記憶が残っていたらば、魔王を辞めるだろうか。記憶が残っていたから直属部隊を退かせたのだろうか。クゴートの里を襲わせたのは政樹ではなく部下が勝手にやったことで、政樹がそれを止めに―

「如月さん!ただいまですっ!やっとお姉ちゃんのお手伝いが終わったです。」

ラビが帰ってきてくれた。

「お帰り、ラビ。でも今日はとっくに店仕舞いだ。もう遅いからお姉ちゃんの所に泊まっていくか?」

「え、いいですか?ラビ、お泊りしますです!」

ラビが従業員で良かった。

                                                      

【 再会 終 】      

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