再会②

 タキシーモ。ここは聖域『ヨーギ』へと通じる祠。ここまで進んできた冒険者は紛れもない実力者。度重なる試練や修羅場を乗り越え、着実なレベルアップを繰り返し、腕力と法力をはじめとする、魔王軍に対抗可能な力を手に入れている。そんな勇者一行と比例してタキシーモ周辺のモンスターも強力。油断してヨーギを目前にしながら辿り着けない者もいる。気を抜いていないのに苦渋を嘗めさせられる者がいる。念には念を入れて、ルナをケチらず、タキシーモの道具屋でアイテムを補充しないと逃げ切ることすら叶わない。けれどもタキシーモの祠を抜け、聖域ヨーギで祝福を受けた者は、上級職へと転職することができる。聖騎士や狂戦士、大魔道士に賢者や大司祭など。そして、大魔王との決戦が現実味を帯びてくるのだそうだ。町人の会話からも頻繁に魔王軍の噂話を聞くことができる。支えるものが増えた勇者一行はもはや引き返すこともできない。

 「・・・・・・なんて話があったんですけれど、この辺りはそんなに危険なんですか?」

蓑口さんに聞いてみる。

「そうですね~。でもヨーギ以降のモンスターはもっとずっと強力だと聞きますよ。この辺の敵が可愛く思えるくらい。それこそ祝福を受けて、上級職になっていないと太刀打ちできないでしょう。」

最近は夕食後、こうやって話をするのが恒例となっている。無論2人きりで邪魔者は無し。どうやら今回も、冒険者一行は宿で休憩も挟めないようだ。オリベイラは全国展開だそうで、蓑口さんは勇者の情報についてよく知っている。ちょっと怖い位に詳しい。

 俺も間抜けではない。さほど鈍感でもないと自負しているし、良くも悪くも勘は当たる方だ。蓑口さんは何か隠している。秘密を持っている。ついでに言えば運び屋も。今は知らない振り、気付いていない振りが無難と判断して演じてはいるが、いずれ全てを話してもらおう。


 「あ~、残念です~。白なので薬草です~。」

 「む~、ごめんなさいです~。白玉は薬草なんです~。」

 「ぶ~、申し訳ないです~。薬草の白です~。」

ラビの白玉三段活用だ。福引でハズレが連続すると、あ~、む~、ぶ~となる。たまに俺へ視線を手向けてくる。ラビよ、俺が悪いわけではないので誤解しないでおくれよ。色の割合は一緒に調べたじゃないか。白が80パーセント、赤が18パーセント、金は2パーセントしかないんだから、白ばっかり出るのは必然なんだぞ。反面、赤玉が出ると自分のことのように喜んでいる。3回に1回は喜び過ぎて景品を渡し忘れる。俺の仕事がひとつ増えてしまう。さらに、金なんか出た日にゃ狂喜乱舞だ。客に抱きついて喜びを共有してしまう。俺の役目は被害を受けていない、抱きつかれていない客に『白銀の爪』を渡すこと。ラビにとっては景品なんてどうでも良い。玉の色が全てなのだ。ラビのおかげで福引の盛り上がること、盛り上がること。


 どうやら、売上げとしてはダイヤ・セガタ店の方が高そうだ。新しい防具を買っていく客も多いが、鋼シリーズ程は出ない。けれども宿泊などには差し支えない。程ほどに忙しくて居心地良く働ける環境だ。ラビにも余裕が出てきた。だからだろう、本音も出てくる。

「ラビは如月さんが羨ましいです。仕入れもできて、計算もできて、お客さんの対応もできて・・・いいなと思います。なのにラビは、掛け算ができません。重いものが持てません。高い所が届きません。今でもやっぱり数を間違えます。だから如月さんが羨ましいです。」

 別に暗い話をしている訳ではないし、説教をかました訳でもない。それどころかここ最近、仕事に関してラビに注意したことはおろか、アドバイスもほとんどしていない。する必要がないから。だから話をするラビの表情は笑顔だ。気を張ることなく素の自分でいられることが多くなって本音が漏れてしまったのだろう。頭を掻きむしりたくなる程に照れ臭かったが、本音で返すことが礼儀だと思う。頑張ってくれているラビへのお礼になると考えた。

 「俺だってラビに助けられているんだぞ。お客の対応はラビの方がずっと上手だし、福引きだって盛り上げてくれているじゃないか。大丈夫、何の問題もないぞ。」

「ホントですか?」

「俺は嘘は言わないよ。俺が見倣わなくちゃいけない点が沢山あるんだ。でもな、ラビ。」

恥ずかしさで顔面が熱かったが、こうなったら最後まで頼れる店長でいてやろう。ペンとメモ用紙を手繰った。

「俺はラビを羨ましいとは思わない。『羨む』は『恨む』に通じると、昔ある人から教わったんだ。」

メモ用紙に漢字を書いたが、読めないかな。

「目標にすることはあっても、羨むことはしないよ。」

ラビの表情から察するに、おそらく理解していない。「はいです」とも「わかったです」とも言わない。ま、褒められているということだけ直感してくれればいいか。

こんな穏やかな日々が続くと思っていた。少なくともここヨーギでは。


 その日の朝、運び屋が僅かに遅刻した。いや、もしかしたら間に合っていたのかもしれない。俺も運び屋の到着した正確な時間をこの目で見た訳ではない。とは言え、普段の来店時間よりは明らかに遅かった。ただこの時は、珍しいこともあるもんだ位にしか思っていなかった。

 続いて昼。そろそろお弁当を頂こうかな、なんて考えていると突然馬車が降ってきた。けれどもうちの店じゃない。どこだと店を飛び出したが、他に行く場所なんてひとつしかない。運び屋の目的地はオリベイラ。一体どうしたのだろうと観察していると、まずは運び屋が中に入っていった。続いて・・・スキンヘッドの巨大な男?

「嘘だろっ。」

思わず吐き出した感想にラビが近付いてきた。

「どうしたですか?」

どうやってごまかしたかも覚えていない。多分、何でもないをずっと繰り返していたと思うが。

 床しいなんて感情は全くない。後ろ姿しか見えなかったので万が一ということもあるが、体が運び屋の倍はあるんじゃなかろうかというガタイ。縦にも横にも。何を食ったら、どんな鍛え方をしたらと聞いてみたい。後ろ姿を遠目でしか見ることはできなかったが、張本人だろうな。何が起きるのか、もしくは起こっている最中なのか。ラビに勘付かれないように脳味噌大混乱している俺に、さらなる圧力がかけられた。

 おやつタイムのこと。名付け親は当然ラビ。14時~15時の間にラビが作ってくれた迷菓(・・)を食べる休憩時間だ。今週はプリン週間。

「今日のプリンは『バナナプリン』です。」

「おお!ラビっ、今日のはいいじゃないか。美味しそうじゃないかっ。」

「む~~~・・・いつもおいしいです・・・」

「そ、そうだよな。ごめんごめん・・・」

そんな折に蓑口さんが来店した。初めてのことだ。用件はというと、

「ラビちゃんをお借りできないでしょうか?」

「あ~、お姉ちゃんです~。久しぶりです~。」

もう何が何だか分からなくなってしまったが、いいえとは言えなかった。


 営業を終えて宿へ戻る。オリベイラの前にはまだ馬車が停まっていて、結局ラビは帰ってこなかった。蓑口さん、運び屋、クソ親父にラビの4人が中にいる。共通点の全く見えない4人が。

 「ただいま戻りました。」

恐るおそる中へ侵入。鈴もならない程にゆっくりと扉を開けたが、視線は床から上げられていない。勇気が出ないというか、心が決まらない。もう見間違いとか遠くて分からないとか気のせいとか、そういった類の言い逃れは通用しない。息を止めて顔を上げる。

「お帰りなさい、如月さん。」

そんな蓑口さんの言葉にも反応できなかった。食堂のテーブルに4人が腰掛けている。蓑口さん、運び屋、ラビ、そして。俺を道具屋に導いたマッスルスキンヘッドヒゲジジイ。で、口開いたのがこのオヤジだから嫌になってしまう。

 「オゥ、久しぶりだな。しっかり道具屋やってるみてぇじゃねぇか。しっかり道具屋やっているみてぇじゃねぇか。」

「ええ、お陰様で何とかやっていますよ。それよりも―何事ですか?」

そのまま部屋に消えたほうが身の為だったのかもしれない、俺にとっても目の前の人にとっても。4人の共通点がまるで見えない事、談笑している様子のないことから悪い知らせしか帰ってこないだろうことは予測できたが、聞かずにはいられなかった。一体全体、何事なのだ。

「如月さん、お願いがあります。」

蓑口さんが立ち上がった。

「しばらくの間、ラビちゃんを貸して頂けませんか?」

「理由を教えて下さい。ラビはうちの大切な従業員です。何も知らされずに、はいどうぞ、という訳にはいきません。」

沈黙が流れる。その意味する所は如月に話すべきかどうか、我々の正体を。けれども選択の余地が無かったのだろう、間もなく運び屋が立ち上がった。

「分かりました、お話しましょう。どうぞこちらへ。蓑口さん、如月さんに飲み物を。」

ようやく明かしてもらえそうだ、こいつらの正体を。

 蓑口さんが麦茶を用意してくれた。どうもと軽く会釈する。ちらりとラビを見ると、ずっと下を向いていた。今にも泣き出しそうだ。しこたま怒られた後の子供みたいで、どこか可哀想になってくる。

「端的に申し上げます。我々はかつて魔王討伐を目指しておりました。蓑口が魔道士、ラビが司祭、クオー

ダが狂戦士。」

聞きなれないジョブだったが、そんなことよりもやっと名前が判明した。クオーダと言うのか。狂戦士というジョブは聞き慣れなかったが、戦士の上級職だろうか。見た目通りだな。

「ご存知の通り現在は私が運び屋、蓑口が宿主、クオーダが鍛冶屋、そしてラビは如月さんの道具屋でお世話になっています。これが我々の日常で、何事もなければこの生活を続けていくはずでした。元冒険者と言いますか、引退した身と考えて頂いて結構です。」

 「クゴートの里―覚えていらっしゃいますか?」

もちろんだ。俺が『道具屋うどんこ』を始めた里。何も分からぬまま薬草を売り、階段を昇って名物のうどんを食べた。里全体がとてつもなく早寝早起きだった思い出がある。

「クゴートの里が魔物の襲撃を受けました。本来は我々の出る幕ではないのですが、現役のパーティーが何組も返り討ちにあったと―」

もう素っ頓狂な話で同受け答えしたら正解なのか全くもって不明。運び屋の説明を鵜呑みにするしかないのだが、ラビがモンスターと戦っている所はどうしても想像できない。

「我々が依頼を受け、私が承諾しました。我々がクゴートの里へ行き、里を襲う魔王軍と戦います。ただラビに関しましては、如月さんのお店の従業員ですので、如月さんの許可を頂いてからと―」

 ガタンと、突然ラビが立ち上がった。

「如月さん、フィオを知っているですか?フィオのお家が・・・フィオはラビのお友達で、一緒に遊んで―」

フィオ。クゴートの里で俺に勇者かと聞いてきた女の子だ。俺がクゴートで店をやっている間、1日も欠かさず遊びに来た。誕生日を迎えていなければ5歳。ラビの友達というには年が離れすぎている気がするが・・・丁度いいのかな。

「フィオは俺も知っている。よく店に遊びに来ていたんだ。」

「ラビはフィオを助けたいです。」

「そうだな、ラビ。フィオを助けてくれるかい?」

「はいです。ラビ、がんばるです!」

本当に戦えるのか、ラビが。俄かには信じられないが、わざわざ招集したということはよほど貴重な戦力に違いない。

「では皆さん、ラビのことをお願いします。それと、柳さん―」

俺も自分で立てた仮説を確かめる必要がある。自分の目で確かめなくてはならない。

「俺も一緒に連れて行って下さい、クゴートの里へ。」

 「やめとけ、道具屋。」

まず反対したのは筋肉親父改めクオーダだった。そう言えば、この人の真面目な顔を見たのは初めてだ。

「お前ぇが来た所でクソの役にも立たねぇ。大人しく待ってろ。」

クオーダの言い分が正しいことは百も承知しているのだが、何とか説得して連れて行ってもらう。恐ろしいが初めてこの男に異を唱える。

「邪魔はしません。隅っこに引っ込んでいますから、お願いします。」

「バーロー!こちとら突然のことでほとんど準備できてねぇんだ。余計な荷物を持っていく余裕はねぇんだよ。」

「ほら、クオーダ。そんな言い方しないの。顔が悪いのはもう手遅れだけど、言葉遣いは直せるでしょう。」

蓑口さんがフォローしてくれた、毒舌と共に。こういう言い方ができるということは、もう随分と長い付き合いだのだと思う。

「俺は外の世界を知らなさ過ぎるんです。先日、教会で死者が生き返る所に居合わせました。勇者は死んだら生き返らないと聞きました。クゴートの里がモンスターに襲われたと―これが日常なのでしょう。とてもじゃないけれど、話を聞くだけでは理解が追いつきません。この目で見て、ちょっとでも脳みそに理解させないと―」

「如月・・・だったな。気持ちは分からんでもないが、お前さんに何ができる。餅は餅屋だ。俺達は仮にも最終試練まで残ったチームだ。お前さんの周りにいるようなハナタレ勇者共とはレベルが違う。薬草なんか役に立たねぇ。お前んとこで扱っている防具程度じゃ腹の足しにもならねぇんだ。それに準備不足と言っただろう。倒すことが目的じゃねぇ、クゴートから追い返して結界を張り直す。俺達に任せておけ。」

「・・・・・・」

返す言葉もない。が、はいそうですかと引き下がりたくはない。咄嗟に出た俺のセールスポイント。

「マジックポーションはどうですか?」

「何だと?」

クオーダの目付きが変わった。手応えアリだ。

「柳、コイツの店にマジックポーションが置いてあるのか?」

「ありますよ、福引きの景品として。」

「柳、テメエ、何で黙ってやがった。」

「聞かれなかったので。」

何やら分からんが、運び屋に一杯喰わされたのだろうか。

「如月、いくつ持っているんだ?」

「店に6個程・・・発注数が限られていてなかなか在庫を持てないので。それと薬草は約200個。うまく使えば回復魔法を節約できませんか?俺を連れて行ってくれれば荷物持ちくらいはできますよ。」

「全く・・・そんな情報どこで仕入れやがった。」

クオーダが煙草を取り出しながら吐き捨てた。無論、酒場だ。何とパーティーによっては仲間として道具屋を連れて行く勇者もいるとか。道具屋以外は道具の所持数が限られているが、道具屋は―全く意味が分からないが、記憶しておいて良かった。

「おい、柳。マジックポーション、いくつ要るんだ?」

「ふふふ・・・愚問ですね。多ければ多い程。最低でもラビの封印にひとつ。」

「チッ。」

舌打ちが心地良く響いたのは初めてだった。

「黙って道具全部よこしやがれっ言(つ)っても無駄だろうな。」

「武器、防具も合わせて10個でしたっけ。」

「ふん、その通りだ、畜生が。いいだろう、その代わり隅にいろよ。お前ぇの役割は道具の提供だ。」

「分かりました。ありがとうございます。」

こうして俺の同行が決まった。

 「それじゃあ、ラビの封印を解いてしまうわね。」

そう言った蓑口さんはラビの背後に立って、首に掛かったマジックポーションのネックレスを外した。如月さん、驚かないで下さいね、という警告を添えて。

「チンタラすんな、掛けたり外したり面倒なんだよ。クゴートだろ、出掛けるぞ。柳、蓑口、お前達の魔法で行くんだろう。さっさと連れていけ。」

「ラ・・・ビ・・・・・・?」

蓑口さんにネックレスを外された途端、喋り方が180度変わった。がさつかつ乱暴で、愛嬌の欠片もない。驚くなという方が無理だ。そして、

「ん?誰だ、お前は。」


 封印の前後で記憶が分断されるとのこと。つまり今のラビは俺のことを知らないし、道具屋勤務の記憶もない。足を滑らせて腰を強打したことも、掛け算ができずに悩んでいることも、別次元のお話。目の前のラビは、圧倒的な方力で仲間のヒットポイントやステータス異常を回復する司祭。ちょっと想像がつかないが、回復や補助魔法を唱えさせたら、歴代の魔導師の中でも5本の指に入るという。一説によると、魔王軍から水を向けられたこともあったそうだ。ただしラビは好き放題にその能力を使える訳ではない。条件付き。その代償として与えられたのは記憶の分断。司祭の記憶は幼子の君にはほとんど残らないし、幼子の君の記憶は司祭には全く持ち込まれない。そして、ラビが司祭としてその法力を保っていられる時間は、最長でも6時間。


 クオーダは運び屋の馬車で空へ飛んで行った。バビューン、と。俺とラビは蓑口さんに連れられて。そっと肩に手を置かれ、蓑口さんがどこの言語かも俺には分からない呪文を唱えると、目の前の景色が、色が青から緑へ移ろいだ。この感覚はそう、転送陣だ。間違いない。間違えようがない。鋼シリーズを2階から下ろす際、毎日使っているのだから。ということは、次、目の前がはっきりしたらそこはクゴートの里なのだろう。懐かしいな、俺の初めての店舗。

 ああ、そうか。蓑口さんの移動手段が分かった。宿から宿へと魔法を使ってテレポートしていたのか。俺が運び屋に運ばれる先には必ず蓑口さんが待っていた。必ずオリベイラのフロントには蓑口さんが立っていた。どこかに転送陣があるのかしらと考えたが、ようやく答えが見えた。転送陣なんか要らないのだ。すっきりしたよ。


 懐かしさを感じる風景は広がっていなかった。緑から青、そして眼前から靄(もや)が霧散する。肩から手が外され、隣にいたラビは黙って歩き出した。かつて勇者と共に旅をしたラビはフィオの友達なのだろうか。できればフィオの顔を覚えていてくれると嬉しい。でないと、フィオが絶対に悲しむ。それを知った、俺の知っているラビも悲しむ。2人は良いお友達だ、100パーセント。俺達の数メートル横には運び屋の馬車が停まっていて、蓑口さんは無言でそちらへ歩いて行ってしまった。

 ふと背後を振り返ると長く険しい階段がそびえ立っていた。覚えているさ、忘れるわけがない。ここを昇ると名物のうどん屋がある。フィオがおねだりして、彼女の母親と3人で上がったこともあった。途中でフィオが疲れてしまって、俺がおんぶしたっけな。はは・・・懐かしいな、思い出だけは。フィオは、フィオは無事だろうか。俺は再び振り返り里の様子を再確認した。至る所から炎が上がり、家屋が焼け崩れ、樹々は炭へと変わっていく。朝でも昼でもないこの時間帯、闇に身を任せ静かに暮らすクゴートではありえない明るさに包まれていた。

 「如月さん―」

馬車の方から蓑口さんが戻ってきた。運び屋とクオーダは車中だろうか。

「これから道具屋へ―如月さんのお店へ向かいます。里の皆さんは階段を昇った先に避難しているそうです。如月さんはどうされますか?」

「俺も道具屋へ連れて行って下さい。そこで大人しくしていますから。」

「分かりました。」

意外とあっさり許可が下りた。


 里や街を魔王軍が襲うのは稀なことだそうで、しかも今回クゴートの里を襲撃したのは魔王の直属部隊。詰まる所、強い。撃退を依頼された勇者タチはこれまで4、5パーティーいたそうだが、いずれも返り討ち。まるで歯が立たず。そこで運び屋達に声が掛かった。彼らは『影法師』の異名を持つ、かつて大魔王と戦った経験を持つ伝説人。何故バラバラで各々の職業に就いているかは教えてもらえなかったが、勇者と呼ばれる者がひとりではないのと同様、魔王も一体ではない。倒されては次の魔王が現れる。姿、形、能力が異なる新たな悪の親玉が。いつ終わるとも知れぬいたちごっこ。そして、冒険者の最終目的地にて待っているはずの魔王とその護衛軍。それが今、クゴートにいる。目と鼻の先に。


 「それでは如月さん。絶対にこの結界から出ないで下さいね。何があってもです。絶対ですよっ。」

ちょっと怖い。起こっている位に真剣な蓑口さんも素敵だ。いつの間にか皆、戦装束を言うのだろうか、戦闘用の装備に着替えていた。ただし、凄い、強そう、恰好いい、スタイリッシュ。

「蓑口、そこまでだ。あちらさんからおいでなすったぜ。」

クオーダが似気無い落ち着いた声で指摘した。柳もラビも構えている。直属部隊が道具屋に来店するようだ。音もなく一体いつの間に・・・

「まずいですね。拠点にするつもりがバレてしまいましたか。如月さん、マジックポーションをすぐ出せるようにしておいて下さい。」

運び屋にいつものヘラヘラした感じはなかった。

 大袈裟な表現をするからもっと大部隊かと覚悟していたが、数は少なかった。まさかこちらの人数に合わせたということはないと思うのだが。

「ダークナイト、ギガントトロル、闇の司祭にダークドラゴン・・・相変わらずお強そうだことで、クックック・・・」

ラビは何が嬉しいのか、半笑いで奴等を紹介してくれた。

「久し振りに暴れがいのある敵さんだよな。フッフッフ・・・中途半端な勇者共じゃ一溜りもねぇか。蓑口、いつもの奴、頼むわ。」

「はい、はい。そしたら斧出して。」

「そっ、らっ、よっ。」

ドゥスゥーン!!

・・・・・・・・・俺の店の床が、ヘコんだ!?その斧、何百キロあるんだよ、全く。その斧に蓑口さんが魔法をかけた。それをクオーダが片手でひょいと持ち上げる。ほんの数秒のことだった。この人達にとっては何ら特別なことではない、日常なのだろう。

 そうか、もうひとつ謎が解けた。鳩時計に重力魔法をかければ軽く持ち上げて運べるわな。

 「ラビ、怪我人の様子は?」

柳がラビに尋ねる。

「問題ない。重傷者は全員治した。」

「マジックポイントは?ポーション使っておくか?」

「要らん。雑魚と一緒にするな。」

俺の知っているラビは、こんなに口は悪くない。立ち居振る舞いも堂々としていてどこか気味が悪い。

「お喋りはそこまでだ。行くぞ!」

クオーダが注意を喚起すると、4人は結界の張られた道具屋を出て行った。店と結界に被害が及ばないようにという配慮があってのことだろうか。それでも、両の目でしっかりと魔物を見据えることができた。

                                                        

【再会② 終了】

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