再会①

【再会 ①】

 酒場での盗み聞きより。

「ヒットポイントの回復は苦労しないんだ。薬草でも魔法でも好きな方を選べばいい。あるだけ薬草を使って、その後で魔法をというのが理想なのかもしれないが。尤もある程度のレベルに達すれば、緊急時は薬草の回復量では間に合わないか。問題はマジックポイントだ。魔法でマジックポイントを回復することができない。そして、マジックポイントを回復するアイテムがとても貴重なのだ。道具屋でもなかなか売っていないんだよな~。」

俺としては、ふ~んという感想しかなかった。仰る通り、俺の店でも薬草しか売っていない。帰還の羽でダンジョンから脱出して町の宿屋で休んでくれ。

 翌日以降はそんな話をいつまでも気にすることなく、すっかり忘れていた。が、ひょんな所からマジックポイントを回復するアイテム『マジックポーション』の存在を知ることとなる。なんとびっくり、ラビがマジックポーションを持っていた。というか、首に掛かっていた、ネックレスみたいに。それまでは気付かなかった、正確には知らなかった。マジックポーションという道具を見たことがなかったから。福引きの導入に当たってマジックポーションを発注できるようになった。納品してみるとどこかで見たことのある小瓶。そういえばラビが首から掛けていたが、まさか中身は違うだろうと聞いてみたが、中身も本物ということだった。

「ラビ、その首から下げている小瓶。マジックポーションをどこで手に入れたんだ?凄い貴重なアイテムで、なかなか仕入れられないんだぞ。」

「むか~し、お姉ちゃんからもらったです。綺麗だから紐をつけて、ネックレスにしてくれたです。」

「へ、へぇ~・・・」

 その後、運び屋と詰めの打ち合わせを行い、『道具屋うどんこ タキシーモ』店より、福引きを始めることにした。


 「如月さん、ラビさん、おはようございます~。支度は宜しいですかね。それではお二人共、後ろへどうぞ~。」

久々の空中遊泳は緊張する。外を見なければいいだけだし、見るつもりもないのだけれど、やっぱり空を飛ぶというのは特異特殊なことだと思う。それをスラリとやってのける人物も。

 一方のラビはというと・・・

「お空ですかっ。お空を飛ぶですかっ!ラビ、ドキドキです。」

娯楽施設の遊具に乗る前の子供じゃないのだから、あまりはしゃがないで欲しい。俺の緊張とはまるで種類が異なるようだ。怖がって乗りたくないと言い出すよりはずっと好都合なのだけれども。

 今回の空旅は、これまでと比べてだいぶ長かった。一瞬で着地するものと思っていたから、5分程度の飛行が20分にも30分にも感じられた。ダイヤ・セガタから随分と離れた所にあるのだろうか。タキシーモ。どうやら村とか街ではないそうだ。もしかするとオメガの丘みたいな立地なのだろうか。

 さて、運び屋の話によると、防具の取り扱いが増えるとのこと。こいつは有難い。もはや単価の高いアイテムを売り捌かないと生活が成り立たなくなっている。数十円の道具だけでは十分と言える利益が得られない。道具屋と名乗りながらも売上・利益の大部分は防具に頼る所が大きい。ただし、道具と防具では決定的な違いがある。薬草や毒消し草は消耗品で、使えば無くなる。無くなればまた買う。継続的な購入に結びつく一方で、防具は1度使ったらおしまい。高価な一方で、ひとりの客が繰り返し鋼の鎧を買ってくれるということはない。そこで切り札となるのが福引きなのだ。

 

 「ここが新しいお店ですか?何かドキドキするですね。」

ラビはドキドキしっ放しだな。

 やれやれ、予感的中だ。ほんと、悪い予感だけは外れることがない。オメガの丘と同じだ。俺達の店と宿屋しかない。挙句、ここは街の中でもダンジョンの中間地点でもない。ぐるりと見回す限りは道のど真ん中。う~ん、違うな~・・・道なんかないから広場のど真ん中といった方が適切だろうか。道具屋があって少し先に宿屋があって、他には何もない。360度、地平線が広がる。いつモンスターに襲われておかしくないが、人ならざるものが近付いてくれば早めに見つけることができそうだ。

 「それではラビさんの送迎は8時、15時になりますので。それでは~。」

バビューン!!

「え、そうなの?あ、ちょっと待て、運び屋~・・・」

行っちまったよ。

「ラビはこっちに引っ越さないんだな?」

「はいです。ダイヤ・セガタから送ってもらうです。」

「そうか、良かったな。」

先に言っとけよと思いながらも、ほっとした部分もある。理由は宿屋の看板。『オリベイラ』。嬉しいには違いないのだが、もう本当にどうやって移動しているのだろう、蓑口さんは。そして、さすがに俺も薄々感付いている。運び屋に送ってもらっているというのは絶対に嘘だ。

 ラビと一緒に在庫の確認を進める。防具から始めたのだが、運び屋の事前情報とはちょっと違った。防具の取り扱う種類は減った。いわゆる鋼シリーズは盾と兜が外れ、鎧のみの販売となった。代わりに販売するモノが『精霊の羽衣』3,500ルナと『身かわしの服』3,000ルナだ。どちらも鋼の鎧2,000ルナよりも高額だ。魔道士系の防具と武道家専用の防具。売り上げに貢献してくれるであろう、期待の商品である。

 そして、福引き。五千ルナの報酬によって、この『道具屋うどんこ タキシーモ』店から導入。そのシステムだが―

 「はいです、如月さんっ。」

唐突にラビが挙手。

「はい、ラビさん。」

俺が指名する。最近ラビお気に入りのお約束だ。

「ラビ、福引きやりたいです。」

「そうだな~、今日はやることもないし、福引きの試し引きでもしてみるか・・・よし、ラビ。福引きの中身を確認してみるか。」

「はいです!」

 福引きは1回50ルナ。景品は薬草、マジックポーション、白銀の爪の3種類。ハズレが薬草で、あたりがマジックポーション。大当たりが白銀の爪といった所か。

 マジックポーションは、マジックポイントの回復手段に乏しいこの世界では、物凄く貴重なアイテム。なんなら最後まで世話になる道具だ。下手すると、マジックポーション目当てに福引きを引きまくる輩が出てくるぞ。それと白銀の爪。これは武道家専用の武器で、武器屋にも置いていない代物らしい。福引きの目玉景品ということになる。そしてその振り分けをラビと一緒に調べていこう。

 「よし、ラビ。準備できたぞ。」

「はいです。ガラガラ始めるです。」

昔懐かしの抽選方法だ。取っ手を持ってグルグル回せば玉が1個出てくる。その玉の色によって景品が決まる。俺としては玉の数や色の割合を把握しておかないと景品の発注ができないし、景品が足りないなんて事態に陥ってしまう。そこでラビの出番だ。玉が無くなるまでガラガラをグルグル回してもらおう。もちろん裏から蓋を開けて中身を出してしまえばいいのだが、目を輝かせている奴が残念がるだろうから。今日はやることもないので、ま、いいか。

 ガラッ、ガラッ、コロッ。

「出ました~、白です~。」

「ほい、白が62個。」

ガラッ、ガラッ、コロッ。

「当たりです~、赤です~。」

「ほい、赤が12個。」

 ・・・・・・飽きたな・・・ラビの奴、よくずっと同じテンションで続けられるな。俺達は今、福引きのガラガラから玉を全て取り出す作業をしている。蓋を開けてしまえば即終了なのだが、ラビたっての希望で、目下福引大会開催中だ。ラビが飽きるまでと思ったが、俺の読みは甘かった。

 「あれ?ガラガラしなくなったです。」

ふぅ、やっと終わってくれたか。

「お疲れ様、ラビ。おしまいだ。」

「お、終わりですかぁ。もう少しやりたかったですぅ・・・」

「ははは・・・また今度な。」

嘘だろう、全く。玉の総数は100個。その内訳は白が80個、赤が18個、金が2個だった。景品としては超目玉が白銀の爪、目玉がマジックポーション、残念賞が薬草とういことになる。さて、コイツがどれくらい客を引き寄せてくれるか楽しみだ。

                                                      

            【再会① 終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る