第10話 磨りガラスの女性
私の母の家系は、所謂「見える家系」でした。
母は勿論、祖母や叔母も普通の人には見えない物が見えていました。そんな母方のお里に、お盆と正月には一緒について行かねがなりませんでした。怖いものが苦手だった私は、母の実家に来る度怯えました。
唯一救いだったのは、その家で飼われている猫のルーシーでした。グレーのペルシャ猫の彼は、ふわふわで触ると癒されます。
彼は癒しであると共に霊センサーでもありました。彼がいる時は部屋はいつも和やかな雰囲気が流れており、私も安心して寛ぐことが出来ます。逆に彼が居ない時は何か異様な空気が流れ、言い様のない不安が込み上げてきます。
ある日のお盆、例年と同じく母の実家に来た私達は、集まった親戚とトランプ等をして遊んでいました。
気が付くとルーシーの姿は無く、大人が数人居ると言うのに私は不安になりました。何処かから、見られている…。
私は視線の元を探しました。怖いけど、正体が分からない方が怖い。
キョロキョロと当たりを見渡す私に母は、「余計なもの見ようとしないの。」と窘めました。
余計なもの…?そう思うと同時に、目の端で捉えてしまったのです。
磨りガラスの向こうに、長い髪を垂らした白いブラウスに赤いスカートを履いた女が。
見方によっては巫女さんのようにも見えましたが、何故か私はハッキリと「白いブラウスと赤いスカート」に見えたのです。遂に見てしまった私は一気に鳥肌が立ち、情けない声で「おかあさぁん…」と言いながらしがみつきました。
祖母によると、私が見たその女性はこの家に縁がある人だそうで、怖い人ではないらしいです。
擦りガラス越しに見えるのはその女性だけでなく男性も現れることがあるらしいのですが、そちらは逆に善くないものらしいので、見てしまった時は直ぐに別の事へ注意を向けるように、と言われました。
それを聞いてから私は極力磨りガラスを見ないようにしていましたが、もし男性が映ったらどうなるのか。そして、その男は何者なのか。
祖母が亡くなりその家も無くなった今、確かめるすべはありません。
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