唯香の心情

…そういえば、成り行きで今まで来ているも、今の状況はあくまで形のみで、当事者であるカミュの口からは、自分たちの関係は一切、明らかにされていない…!


精の黒瞑界での自分は、ライセと累世の母親。そして六魔将のうちのひとり・レイヴァンの娘…

だが、それだけだ。

…その名称だけなのだ。



今まで一度たりとも、カミュの口からは、自分が“こうである”と語られたことはない。

伴侶であるとも、妻であるとも言われていない。



ただ、“皇妃”に近い言葉と、計り知れない独占欲を匂わされただけ──


「…っ」


唯香の瞳に涙が滲む。

無性に惨めで、心細くてたまらなかった。


…そう、自分は今だカミュに認められてはいなかった。

どんなにこちらが気にかけていても、

どれほど好きで、この体の血を全て捧げても構わない程、強く求め、愛していても──

カミュにはそれが、届いていなかった。

それを今、はっきりと知らされたのだから…!


「…カミュ皇子は、お前を真に伴侶にと考えているのか?」

「!」


心にこびりついた焦燥感を見透かされたような気がして、唯香が言葉に詰まる。


だが声に出さずとも、ヴァルディアスは、唯香の表情でその全てを読んだようだった。


「…成る程な…」

「…で…、でも…カミュがどう思っているかとか…そんなことは関係ないの!」

「……」

「あたしが…、あたしの方がただ、カミュを好きなだけなんだから!

カミュがあたしをどう思っていようと…どう扱おうと、それは全て、カミュの勝手なのよ!」

「…、母の言い分はこうだが…

さて、どう見る? レイセ」


何事か考えたらしいヴァルディアスが、息子に話を振る。

するとレイセは、今までに見せたこともない負の感情を露にした。


「…、確か、今、ココに向かッている敵が…“カミュ”だよネ?」

「ああ」


ヴァルディアスが頷きながら、唯香の細い首筋に唇を這わせる。

しかし、今だ精神的に不安定なレイセは、両親の情事がまるで目に入っていないようで、次にはその蒼の瞳に、果てしなく憎悪に近い、鋭い殺気を浮かべ、空間の先を睨む。




「──じゃあ、殺シてもイイ…?」




氷を模したように冷たい言葉。

尖った刃のように明確な殺意。



「…え…」


…それは驚きと絶望が入り混じって、傍目には、ごく普通の反応のようだった。



心臓がいつもより音を立てて波打つのを、唯香は呆然とした頭の片隅で、反して冷静に捉えていた。




──カミュを…殺す…?




誰が?




「…レイセ…が?」




“自分の息子が”!?




唯香の顔が、絶望の青に彩られた。

ヴァルディアスは、そんな唯香の表情にすら情欲をそそられる。


…しかしその時。


最悪のタイミングで、その空間の入り口が、爆音と共に外から破られた──

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