皇族の血統

「唯香、お前もいい加減に、ルイセを甘やかすのはやめろ」

「!累世を…甘やかす? …あたしが?」


唯香は、予想の範疇外である、累世への感情を指摘され、反射的に眉を顰めた…が、そこにカミュの容赦のない追随がかかる。


「ライセと違い、ルイセはお前に育てられた。だからこそあいつには、変な人間くささが染み着いている。それを今のうちに引き剥がしておかなければ…

ルイセは到底、この世界の皇子として起つことは叶わないだろう」

「!…この世界の…皇子って…」


唯香は興奮のあまり、息が詰まりそうになるのをようやく抑えて続ける。


「…カミュ…、あなたはいつ、累世を認めたの?

いや…そんなことより、累世は…、累世自身は、それを望んでいるの!?」

「…、いや、現段階では否定しているな」


カミュは前者の質問には答えず、ただ漠然と後者のみに答えた。

それが釈然としない唯香は、涙を振り払うようにして、カミュに向かって声を荒げた。


「だったら、あたしは累世の意志を尊重する!

あの子は、あたしが今までずっと…人間として育てていたんだから!

累世は…この世界の皇子なんかじゃない!」

「そう興奮するな。俺も始めはそう思っていた…

だが、ルイセは明らかに俺とお前の子。…この世界の後継だ」

「【後継】…、だから、甘やかすなって言いたいの? 累世はそれを望んでないのに!」

「お前は知らないだけだ。累世はいずれ、この世界に留まることを望むようになる…」

「あり得ないわ!」

「お前は口ほどに物を知らないようだな…

あいつは嫌でも留まる。ここに、俺とお前が居るからにはな…!」

「!…」


意外に意外を重ねたという表現がぴったりなカミュの言葉に、ここまでを淀みなく切り返してきた唯香の反論が、初めて止まった。


「…か…、カミュ…」


何かを酷く恐れるように、その足は意図せず後退る。


「あなたは…まさか、累世の父親であることを利用して…」

「…以前に比べて、なかなか勘は良くなったようだな」


カミュが、空に浮かぶ冴え冴えとした月の魔力を得たように、ただ…冷たく笑う。


「父親の、得られぬ愛情に飢えているあいつに、自らが渇望した感情を与えてやるだけのこと…

何の支障もないだろう」

「やめて! …カミュ、どうしてあなたは累世に対してそうなの!?」

「…俺の子であるなら、己の脆弱を示す、甘えなどは一切許されない。

俺も、父上にはそう育てられた。それがこの世界を支配する者の後継たる試練だからだ」

「!あなたは、そうして…いつも累世を…、累世だけを…追い詰める…

あなたは…父親である事実を楯に、言葉を振りかざし、利用して…

結果、累世の人間らしい感情の…その全ての逃げ道を…

行く末を…塞ぐのよ!」


湧き上がる悲しみを声に変えて、唯香はカミュにぶつけていた。

未だ未知の部類に入る、高潔にして真なるヴァンパイアの血統が…

どんなものであるのか、強く思い知らされたような気さえしていた。



…魔力のみが全て。

感情などは二の次…



それに気付いた時、唯香は、自分でも驚くほど冷静に身を翻し、その場から去ろうとした。

しかし、カミュはそんな様子の唯香を見ても、引き留めようともせずに、その背にただ、突き刺すような…冷酷な瞳を向ける。


それが更に、唯香の悲しみと絶望を煽った。



…気が付けば…


唯香はその空間から飛び出し、城の中庭らしき場所にいた。


だが、カミュは…

決してその後を追うことはなかった。

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