†静寂の罠†
…力無きことが罪なのか…それとも…
…その目に映るものは、小石を含んだ土。
その頬に触るのは、でこぼことした、複数の小石…
「…、…う…」
…ライセは、傷口から溢れ出る血を少しでも抑えるべく、手でその箇所をかばうように強く押さえ込んだまま…
立ち上がることも出来ずに、血の海の中で苦痛に喘いでいた。
辺りには血液特有の、どこか生臭い匂いが立ちこめている。
幾ら不意打ちとはいえ、あの速さは…尋常なものではなかった。
魔力を扱って久しいはずの自分が、同様の扱いでは素人同然の弟に、よもやここまで手酷くやられるとは…!
(…油断した…な)
本来なら、ルイセの意識がヴァルディアスに呑まれた時から、この事態は想定しておかねばならなかったはずだ。
それを全く想定しなかったわけではない。
だが…
(…こうなった今では…どうせ全てが、ただの言い訳か…)
ずきずきと襲う痛みが、堕ちることを決して許さない。
ライセは、怪我のあまり暗くなりかけた視界を、その痛みを逆手にとることで、やっとの思いで覚醒させていた。
…予期せぬ怪我のおかげで、今の自分は、魔力すらも上手く使えない。
城に移動出来れば、事は容易いのだが…
生憎と自分には、そのための魔力は疎か、それを実行するだけの些細な体力すら残されていない。
指一本動かすことすら億劫なのだ…
移動どころか、今の現状では立ち上がることすら難しい。
…そんな中、ライセにはひとつだけ気にかかっていたことがあった。
あの戦いの最中に、呪印に支配された弟を窘め、本来のあるべき姿へ導こうとした自分が、確かに存在したこと…そして、
結果、その甘さが引き金となり、今の現状があること。
(…俺は何故、ルイセを説得する気になったのだろう…)
兄である自分に、殺気と敵意を同時に向けた弟…
その段階で、こちらからも殺す理由としては充分過ぎるくらいなはずなのに。
…何故、殺せなかった?
自分に殺意を向けられていたというのに。
(…、そうだ…、何故、殺さなかった…?)
…そんな自問を繰り返していたライセは、いつの間にか傷の痛みが遠のいていくのを感じていた。
それでも流れ出る血は、相変わらず止まることを知らない。
遠のいていったのは…
そう、他ならぬライセの意識の方だった。
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