名付けられた双子

…だが、カミュの父親は恐らく、子どもの性別を知っているはずだ。

知らなければ、まず間違いなく、真っ先にカミュか自分に問うているだろうし、何よりも実際に、直接子どもに触れた現段階で、そのような簡単な情報すらも掴めていないとも思えない。


「!あのっ…」


唯香がサヴァイスに声をかけた。それにカミュが鋭い目で反応するが、父親に無言のままに視線で制止され、そのまま棘を消失させた。


「…どうした? レイヴァンの娘よ」

「私のことは、唯香で結構です。けど、それよりも…」

「子が気にかかるか…」


サヴァイスは、冷厳さを露わにしながらも、双子に目を落とした。


「名は決めたのか?」

「えっ? あ、いえ…、まだですけど」


これには、唯香は曖昧に答えることしかできなかった。

…性別がまだ分からない以上、名前など…まるで考えていない。

すると、サヴァイスはそれを予測していたかのように、冷酷な笑みを浮かべた。


…その笑みは、周囲の空気をも凍てつかせ、見ている者の血液すら凍らせるのではないかと思えるほど、ひどく冷たいものだった。


吸血鬼皇帝と、奇異な名を馳せる者が生まれながらにして持つ、その独特の雰囲気に、唯香が身も凍るような恐怖に呑まれていると、サヴァイスは静かながらも、有無を言わせぬ口調で、唯香に訊ねた。


「…名が無くては不便であろうな…

唯香よ、我が自ら、その血を引く者に名を与えても構わぬか…?」

「!…あ、はいっ…」


…確かに冷酷でありながらも、どこか柔らかみを帯びたサヴァイスの言葉に、唯香は逆らう術を持たなかった。

そして、カミュの父親である彼が、彼にとっては孫にあたる子どもに名を付けてくれるとの申し出に、唯香は、ようやくその子どもの存在を他者に認められたような気がしていた。


…それに逆らうことに、意味はない。


唯香は深く頷くと、正面からサヴァイスの瞳を見つめた。


「…ぜ、是非…、お願いします…!」


やっとのことでそう言って、ぺこりと頭を下げる唯香に、サヴァイスは、その身に纏う冷たい雰囲気を全て取り去った。


右腕に抱いていた子に、先に目を向ける。

その子には、右の手のひらに、薔薇を模したような、1センチほどの目立たない赤い痣があった。



…そう、その痣は、双子たちにとっての両親…

カミュと唯香、二人の首元にある、あの例の痣と同じ類のものだった。



サヴァイスは次いで、左腕に抱いた子に目を移した。

さすがに血を分けた双子だというだけのことはあり、こちらは左の手のひらに、色違いの…1センチほどの、青い薔薇型の痣があった。


手にしていた二人を見極めるように、一頻り見比べると、サヴァイスは、聖書を読むがごとく厳かに口を開いた。


「…右の子が…ライセ。左の子が…ルイセだ」

「ライセと…ルイセ?」


無意識に名を反復した唯香は、瞬間、自分の胸が熱くなるのを感じた。


ライセ…そして、ルイセ。

…ようやくその存在が形作られた、自分の子どもの名…!


「!…あ…、ありがとうございます! すごく…綺麗で、いい名前…!」


…何も知らない唯香は、何も知らないが為、ただ純粋に喜び…

嬉し涙をその目に溜めていた。


だが、唯香は…“知らなかった”。

知らないからこそ、この時は愚かにも、喜んでいられたのだ。


刹那にも似た幸せの後。



この後に、地獄のような悪夢が待つことも知らずに…!

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