二章〈欲望の玉座〉
1~3〈パーハースの事情〉
1
レクリルの団は、金の渦巻く商売の街、パーハースにたどり着いた。
街の路面は綺麗な石畳になっており、建物はどれも立派なものだった。
ここは所謂大通りであるが、この場所からは、噂ほどの治安の悪さは見えない。
「それではレクリル殿。こちらが依頼達成のコインになります」
「ありがとう!」
「いえいえこちらこそ、心強い方々の護衛は有難いことです」
「本当にありがとうございました」
ゾームとマルチェは礼を述べ、街に消えていった。行先は恐らく支店だろう。
「まずは
「うん。依頼の達成を報告しないと」
「今、聞いてきたぜ。向こうにあるそうだ」
「ヨハン、気が利くねぇ」
ヨハンは露店で買った串焼きを抱えながら、その店の店主に聞いた道順を示した。
一行がその道を進んでいくと、周囲の建造物よりさらに造りのいい建物が見えてくる。
壁にかけられた表示を見る限り、ここがギルドのようだった。
「わっ、空いてるね…」
「そうね…昼間とはいえ…」
ギルドの中は驚くほど人が少なく、その理由となるのか、依頼の貼り付けられているはずの壁には全くと言っていいほど依頼が無かった。
ひとまず受付で報告を行う。予定通りの金額である金貨1枚が報酬として手渡され、扱いにくいので銀貨に交換してもらった。
「観光ですか?」
「まぁ、半分は」
目的はふたつあった。アストン商会から、パーハースで面白いものが見れると聞いてきたのが1つ。そして治安の部分で、団の生業を果たせるかという点でもう1つ。
「お仕事は諦めた方がいいでしょう。この辺りは魔獣も出ませんし、揉め事や住人の願いすら警吏が解決してしまいますから」
確かに仕事といえばそうだが、ギルドの仕事が中心ではないレクリル達にとってその部分は問題ではなかった。
しかし、治安が悪いと聞いていたが、この街の警吏は優秀らしい。
「なので、観光と割り切って行った方がいいですよ。ですが観光には適しませんから、裏街にはあまり入らないでくださいね。あそこはガラが悪いですから…」
「裏街ですか?」
「ええ。街の西側に、一段下がった土地があります。そこに広がっているのが裏街と呼ばれている地区です。あっちの問題には警吏も手を出しませんので…」
どうやら、パーハースで噂される治安の悪さは、その裏街に集中しているようだ。
ガラの悪い者達だけが集まっているようだと、それで困っている者も必然、悪人になってしまい、あまり気持ちの良い勧善懲悪は起こらないだろう。
2
「そう、観光ですけど、なにか面白いものが見れるって聞いてきたんです」
「はい、そうなんですよ!裏町より手前側に、大きい建物がありまして…それが、闘技場になってるんです」
「へぇ。そこが今、盛り上がってんのか」
「今、闘技場ではある魔道具を商品に武闘会が開かれてます。そこにあの、【人類最強】がいらっしゃるんですよ!」
「人類最強…?」
ルヴィアが呟く。
しかしレクリルは驚いたらしく、ええ!
とかそんな有名人が!などと言っていた。どうやら広く知られている人物らしい。
「どういう人?」
「うーん。一言でいっちゃえばちょー強い人。ギルドには登録してないんだけど、色んな業績があってね。あの四帝の一体、【破壊帝デギマギウス】を単独討伐したのが1番有名かな。それも無傷で」
なんと、ルヴィア達がアーリマンと共に倒した、悪霊帝ビフロンスと肩を並べた程の魔獣を、そんなにも容易く屠ったらしい。
おおよそ人間業とは思えない。
「そんなに強いなら、武闘会にいると知れたら誰も挑まなくなるんじゃない?」
「確かに。どうしてそんなに盛り上がってるの?」
「実はその魔道具がですね、光の羽という魔道具らしいんです」
「ええ!」
レクリルはまた驚いた。
彼女曰く、光の羽は訪れたことのある場所、会ったことのある人物の傍に、自在に、それも一瞬で移動できるという魔道具であり、あらゆる者が欲しがるとんでもなく高価なアイテムだという。
「手に入れれば自分も使えるし、売れば一瞬で億万長者だもの!そりゃあ皆欲しがって武闘会に参加するよ!」
「じゃあ、その最強さんも、それ目当てで参加しているということ?」
それほどの人物であれば、既に大会を終わらせ、目的通り手にしていたりしてもおかしく無いのに。
「ああ。誤解です」
ギルドの職員は話を続けた。
「大会参加を申請した人は、全員が1対1で彼と戦って、彼に勝った人が、魔道具を手に入れられるルールなんです」
なるほど、とルヴィアは納得した。
景品が良いから、人が集まる。
そして始まった戦いは、毎戦人類最強が戦うのだから、それを見に人がさらに集まる。
パーハースで見れる面白いものとは、人類最強の戦闘の事だったのだ。
レクリル達は一通り話を聞いた後、職員に礼を言って話を切り上げる。人類最強の戦闘など本来そうそう見られないものだろうし、いい時に来た、と考えながら、ギルドを去ろうとした。
すると、建物を出たレクリル達に近づく者がいた。
「よう。また会ったな」
それは森で見た狩人、バルバドスだった。
3
「バルバドス!こんにちは!」
「こんにちは」
「よう!元気そうだな」
「ああ。こんにちは。俺は元気だぜ」
バルバドスは軽く手を振ってレクリル達の元へ来た。
「お前ら、今日着いたばかりだろ?」
「ああ。そうだ」
「まだ宿も決まってねぇし、飯も食ってねぇって顔してるぜ」
「そ、その通りね」
「お前らさえ良けりゃ、お勧めの宿を紹介してやるよ。飯も美味いぜ」
「ほんと!?って、まさかそのためにわざわざ?」
「ああ。お前らのことが気に入った。だから、特別だぜ?」
「ええ、ありがとう〜!」
バルバドスは人の良い笑顔で、レクリル達と話した。どうやら彼はここに詳しいようだ。それに悪意も感じない。知り合いになれて良かったと、レクリル、そしてヨハンとルヴィアも思った。
「こっちだ」
「本通り沿いにあるの?」
「ああ。でも、格安だぜ」
「そいつはいいな!」
本通り沿いにあるということは、きっととても整った、見栄えも中身も良い店だろう。それが格安ならなお素晴らしいのは当然だ。
「見えてきた見えてきた」
「え!どこどこ!?」
「こっちだぜ」
「え?どれ?」
「これだよ。これ」
建物の前までくると、バルバドスは混乱したレクリルの為に、何度も指さした。
「これ?ほんとに?」
「そうだ」
「で、でもここって…」
バルバドスが連れてきた場所。
本通りにあり、確かに外観は見栄えもいい。
内装もきっと綺麗だろう。大きいし、寝床や部屋がやたらと小さい。ということは無いはずだ。
しかし、その建物は宿屋にはとても見えない。
なぜなら、どう見ても…
「ここって…教会じゃね?」
そう。どう見ても教会であった。
そんなつぶやきに対して、バルバドスはくいっくいっと親指で指し示す。
そこには建物の名前が記されており、この建物がなんであるかすぐに分かった。
【パーハース中央孤児院】
「「「宿屋じゃないじゃん!(じゃない!)(じゃねぇか!)」」」
声の響き豊かな三重奏が、その場を飾った。
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