49~51〈冒険の前〉
49
「皆さんお次はどちらへ行かれるので?」
すっかり商談を終えると、ユードリックはレクリル達にそう尋ねた。
「うーん…まだ決めてないんだ」
「そうでしたか。でしたら、戴天党の方々がいらっしゃらない場所が良いでしょう。彼らは彼らで、人助けの事業をやっておりますから。もちろん、彼らの方は下心はあるでしょうが」
「まぁ、私達も無報酬でって訳にはいかないし…」
「どれだけ善意の塊でも、ある程度は仕方ありませんね」
本当は無償でいくらでもと言いたいところだが、団員達も人間なので飲み食いせねばならない。例え少ないとしても、報酬を取らないという訳にはいかない。
「どこかおすすめの場所ってあるかな?」
「ふむ…東へ行くと、聖光国があるのはご存知だと思います。ハーリオン…失礼、ヘイムからそちらへ真っ直ぐ向かう途中、パーハースという街があるのですが、まずはそこへ向かわれてはいかがでしょう?」
「パーハース?」
「ルヴィア。パーハースっていうのは国家非所属の都市でね、商人や富豪が集まって造られた街なんだよ」
「…パーハースっていやあ、治安が悪くなかったか?」
ヨハンが口を挟んだ。
パーハースはカジノやら競技場やらが立ち並び、荒くれ者も多いのだという。
「確かに少し…いえ、治安はかなり悪いでしょうな」
「うーん。そう聞くとなんだかなぁ」
「しかし、だからこそでありましょう。治安が良くないからこそ、助けを求める声もここよりはあるかと」
「そっか!確かに」
確かに治安が悪いことは犯罪が多いということであり、それを解決できれば人助けまっしぐらである。しかし、借金で苦しいだとか、そういう声には全く力を貸すことは出来ないが。せいぜい暴漢を取り押さえるくらいが彼らの仕事だろう。
「それに、パーハースではきっと凄いものがご覧になれますよ」
「凄いもの?」
「ええ。1年ほど前から、なにやら競技場が盛り上がっているようです。噂も聞いておりますし事実も存じていますが、折角ですから事前情報なしで観光されてはいかがです?」
「うーん…うん。面白そうだね!ルヴィアとヨハンはどう?」
「団長が行くなら、俺は全然OKだぜ」
「私も大丈夫よ。その凄いものっていうの、気になるしね」
治安が悪いという言葉は未だに頭の片隅にチラつくが、煌びやかな街だというパーハースにたどり着くのが、待ち遠しくなってきたルヴィア達だった。
50
パーハース行きを決めたルヴィア達に、ユードリックは馬車の護衛依頼を持ちかけた。
アストン商会もパーハースに物を卸すということで、その護衛の担い手を探していたのである。
その点、ルヴィア達のことは実力も、人柄もよく知る相手であり、今回パーハースを目的地に紹介したのはそういった下心あってのことだったのだろう。
しかし頼られて悪い気はしない。
それにアストン商会の馬車が道案内になってくれるのだから、結局パーハース行きを決めたルヴィア達にとっては渡りに船だった。
「商品は集合時にお持ちします。レクリルさんの魔導の中にしまうということでよろしかったですよね?」
「うん。それでお願い。何かあったらまた頼るね」
「毎度ありがとうございます。いやぁ、本日は実に有意義な時間でした。どうぞ、また機会がありましたらまたぜひ足を運んでください!」
「うん!」
「そうさせてもらうわ」
「おう」
「明日の朝一番に指名の依頼書を
「もちろん」
出立は明後日ということで、1度
護衛依頼や討伐依頼を完了すると貢献度という点数になるらしく、ユードリックはぜひ点数にしちゃってください、とレクリルに持ちかけたのだ。
それをやって損になるということは特にないので、レクリルも承諾した。
「明後日が楽しみだね!」
「ふふふ。確かに明後日出立だけど、到着には8日くらいかかるのよ?わくわくは取っておいた方がいいわね」
「そういえばそうだね!」
「いやいや、疲れるかもしれんが、道中ずっとワクワクしてたっていいんだぜ?何時でも絶好調〜っ!ってな具合にな」
「あはは!なにそれヨハン、子供みたいだよ〜!」
和気あいあいと話しながら宿に帰る一行。
3人の影は、西日に照らされて大通りを伸びていた。
そして、
その影の先。
黒い、あまりに黒い日傘を揺らして、彼女達をみる人影があった。
すらっと伸びた背に、金に輝く長髪。目はルヴィアのように緋色の輝きをはなっている、絶世の美女と呼べる女だった。
「…あやつ…もしや…」
レクリルを目にして、何かを呟く。
「(…まぁ、良いであろう。運命が交わるのであれば、そうと分かるように出会うはずよ…)」
今度は胸中で呟き、レクリル達と反対向きに歩き出す。その姿はゆらゆらと、街の中に溶けていった。
51
翌日、ルヴィア達は早速ギルドに向かった。朝一番に依頼を出してくれているはずなので、8の時になろうとしている今ならば、既に準備は済んでいるだろう。
すこし混みあっている受付に問い合わせると、やはり指名依頼が【レクリルの団】宛に既に出されており、契約を待機している状態との事だったので、受領した。
ちなみに、ルヴィアはギルドへの登録は今後もしないことにした。依頼を受ける際には団長のレクリルが代表して受ければ良いし、数字の評価に囚われるのは良くない気がした。
レクリルもそれを聞いて、戦闘技能の再評価を受けることは今後しないことにした。
既にギルドメンバーであったヨハンもこれには賛成だったようで、登録時から1度も再評価は受けていないという。
ちなみにそれは2年前で、当時は戦闘評価8だったらしい。
現在は当然2年分強くなっているし、ルヴィアとの手合わせも彼を日々成長させている。
今後の次第によっては、ルヴィアもヨハンも、大きく強くなるだろう。
また、それはレクリルも同じである。
「おう、レクリルの団じゃねぇか。もう依頼を受け始めるのか?」
声をかけてきたのはアロダイトだった。
今日は1人で来ているようで、彼の仲間の姿は無かった。
「こんにちは!アロダイトさんも?」
「いや、ビフロンス討伐の報酬が良かったからな。まだ暫くは休みだ。今日はちょっとギルドの様子を見に来ただけよ。そしたら、あんたらが受付にいるのが見えてな」
「そうね。こっちはもう依頼を受けるところよ」
「ちょっといいお話があったんだよ」
「ほう、そいつは羨ましいね!ところで、
「ヨハンなら外で待ってるよ」
「こう混んでると、動きづらいみたいで…」
「ああ…そりゃあそうか。あいつはデカブツだからな。ハッハッハ!」
アロダイトは大きく笑った。
ルヴィアは、なるほど普通は大仕事が終わったらしばらく休むものなのかと、ちょっとした知識をみにつけた。
「レクリル…私たちってちょっと忙しすぎるのかしら」
「まあ…ちょっとね…」
レクリルは誤魔化すように目を泳がせた。
彼女は旅団を作るという夢が叶って、ビフロンス討伐に参加、そしてその中で活躍できたという達成感で、すこしはしゃいでいるのかもしれない。
「(…もう受けてしまったものは仕方ないわね。)…レクリル、護衛依頼は落ち着いてやっていきましょう。ね?」
「え…?う、うん…」
ルヴィアの圧力に、レクリルはなんだかよく分からないながらも返事をした。
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