EX:アーリマン

極彩潰しのアーリマン。

彼女は美しい母と、魔導の研究機関に所属する父との間に産まれた。

母はアーリマンと同じプラチナブロンドの髪を持ち、さらに豊富な魔力も持っていた。

しかし魔導を鍛えたことは無く、魔力が多いことは何の役にもたっていなかった。

父は若き研究員として名を馳せていた。そして目立つ赤髪だったので直ぐに他人に覚えられた。


彼は魔導と魔力の研究をしていた。

魔力とは、主に魔導を使うために消費する、超常的なエネルギーの塊である。ほとんどの生き物は、これを限界まで体内に生産する。個体によって保持できる魔力量は様々で、生産と貯蔵の仕組みはよく分かっていない。

彼は強力な【重力】の魔導を持って産まれた。しかし魔力量は少なく、大したことは出来なかった。


それが理由で、父は強力な魔導と、強大な魔力を持った子供を望んでいた。自分自身では行えない研究の一助とするためである。

つまるところ、アーリマンは父に愛されていなかった。彼は幼きアーリマンを道具としてみていたのである。


しかし、新人革命以来人間にそのような扱いをすることは禁止されている。

そのため、心優しき母が守っているうちは、父の悪意など知らずに育った。


転機が訪れたのは彼女が八歳の時である。

母は病に倒れ、父はアーリマンを研究室へ連れ帰った。


そこから6年もの間、アーリマンは父に利用され続けた。

魔力を搾り取られたり、過酷な訓練で魔導を鍛えさせられたりした。

父の研究は進む。アーリマンの犠牲によって。


十五歳の時。研究室の牢で暮らすアーリマンの元に、手紙が届いた。

母が亡くなったのだ。そして最後に書いた手紙を、アーリマンに宛てて届けた。


"あなたはあなたの自由に生きなさい。父の夢に囚われることは無いわ。アーリマン。あなたを心から愛しているわ"


手紙の最後には、そう綴られていた。


アーリマンは初めて、悲しみで泣いた。

辛くて、苦しくて涙を流したこともあったが、悲しくて泣いたのは最初で最後だった。


次の日、アーリマンは研究所を破壊し尽くした。立ち尽くし、腰を抜かし、アーリマンに怯える父を見下ろして、拍子抜けした。


「ふん…男なんて、大したことないわね」


アーリマンは国を抜け、組合員ギルドメンバーになった。どこに行っても、大したことのない奴らばかりだった。

アーリマンを口説こうとした者。アーリマンを一統パーティに誘おうとした者。どいつもこいつも弱っちくて、アーリマンの足元にも及ばなかった。

父、ハッチマン・サーフェイスはクズだったが、あれよりも酷い者もいた。


男という男を見下し、それでも強すぎるアーリマンは上に立ち続けた。なんなら昇り続けた。

そしていつしかアーリマンは、"極彩潰し"として尊敬を集めるようになった。


「アーリマン、君はこれからたちどころに有名になるだろう。今なら名前をも変えられる」


組合ギルドの長がアーリマンにそういった。字名が付くのに合わせて、名前を変えるものもいるらしい。


「ふーん…」


アーリマンは少し考えて。


「じゃあ、アーリマン・リ・ベルト。私のことは、アーリマン・リ・ベルトとしなさい。」


そのセカンドネームとファミリーネームは、母の元の名である。そうしてアーリマンは亡き母、マリアンを想った。


次の戦場は四帝が一、【悪霊帝】ビフロンスの討伐だ。母は褒めてくれるだろうか。

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