19~21〈群れと群れ〉
19
そして作戦決行の正午が訪れる。
ルヴィアとヨハンは万全で、他の人員と戦列に並んでいた。
前方の森から、ざわざわと気配が現れ始める。
人間の集合に気付いたのか魔獣達のほうから出向いてきたようだ。
この平地なら、森の中よりは戦いやすい場所だろう。なにしろ、視界の邪魔となる木々がないのだ。
「すごい数ね…」
「ああ。囲まれたら大変だぜ」
向こうは大体500で、こちらは1000。囲むならこちらの方だが、戦場で引きずり倒されたりすれば、どうなるかは明白だ。
そもそも相手は魔獣であり、人間が考えるような戦い方はしないと胸に留めておかねばならないだろう。
直ぐにあちらの雰囲気が変わり、緊張が走る。それに反応して、参加者は皆武器を構えた。
誰かの、息を飲む音が聞こえる。
そして次の瞬間、500匹の魔獣達が、一斉に飛び出した。
「総員!迎え撃てぇッ!!」
ヴァンダムの合図で、参加者が雄叫びを上げて突っ込んだ。
最初にぶつかった先頭が、互いの命を手に掛けようと、牙を剥き、剣を振り下ろす。
群れと群れが地面を揺らしながら激しく絡み合い、辺りはたちまち戦場となった。
ルヴィアとヨハンは群れの中にくい込み、近付く敵を倒しながら、後方にいる強敵の元へ走り寄った。
騎士クラスの
どろどろとした緑の体を流動させながら、前線に向かって進んでいた。
「《
そこへルヴィアの魔導がぶつけられる。
ウーズ達は、時を止められたかのように動きを止め、隙だらけになった。
「今っ!」
「おうっ!」
ルヴィアとヨハンは息を合わせ、ウーズ達を薙ぎ払う。彼らは体内の核を破壊すると斃すことが出来るが、ルヴィアの魔導は相性抜群であり、騎士クラスだがすんなりと仕留めることができた。
「追加っ。来るっ!」
「まかせろぉっ!」
順調にウーズを減らしていた2人に向かって丸太が振り下ろされる。ヨハンはそれを受止め、はじき返す。
丸太を振り下ろしたのは、ルヴィアとそう変わらない身長の幽鬼だった。
そして攻撃を弾いたヨハンに向かって、また別の方向から液体が飛んでいく。
「《
いち早く気付いたルヴィアがそれを阻止し、ヨハンはその場を離れる。魔導を解除された液体は地面に落ち、しゅわしゅわと音を立てた。
高濃度の酸だ。
「ちっ」
ルヴィアが舌打ちして振り返ると、そこに居たのは巨大な
鱗の生えた全身の内、頭部のみを地面から這い出させ、鎌首をもたげている。
その口からは、ぽたぽたと酸液が滴っていた。
20
ルヴィアとヨハンは互いに背中を預け、2匹の怪物に向き直る。
ちらりと顔を合わせ、ほとんど同時に頷いた。
ルヴィアは幽鬼の方へ、ヨハンはワームの方へ駆け出す。
それに反応して、幽鬼は丸太を横なぎに振るう。確かに威力はあるが、速度は遅い。
あまり遅い攻撃は…
「《
ルヴィアが簡単に止めてしまう。
懐に飛び込んだルヴィアが剣を振るうと、幽鬼の胸がぱっくりと切り裂かれた。
切られた幽鬼は素早く丸太を手放し、素手でルヴィアに挑みかかった。
「《三日月》」
ルヴィアは手元で剣を小さく回転させる。
そして幽鬼が伸ばしてきた手を、半ばから切断した。
この魔獣には動揺と言えるものは無く、続けて攻撃を仕掛けてくる。
「はぁっ!」
ルヴィアは幽鬼の胴を蹴飛ばし、距離をとる。体勢を立て直して再び疾走する幽鬼を、大きく剣を振りかぶって待つ。
「これで終わりよっ!《朧》っ!」
幽鬼が到達する前に、剣を振り下ろす。
そのまま駆けてきた幽鬼は僅かな時間の後、左肩から腰までを袈裟斬りに裂かれ、地面に倒れた。
ルヴィアは上に構えていた剣を下ろす。《朧》は大きく振り下ろした剣を魔導で停止させ、折り返して切る技である。
刹那ほどの時間で切り返される刃は、瞬時に剣が止まりもとの高さへ帰ってくるという、本来ありえない動きによる死角を突くことで、相手に理解不能の一撃をあたえることができた。
結果、幽鬼は何もわからぬまま斃れた。
もともと生気のない亡骸を横目に、ルヴィアは振り返る。
「《岩砕き》っ!」
叩きつけられたヨハンの戦斧が、ワームにとどめを刺すところだった。
地面ごとワームの身体が砕け、血と酸を吐きながら息絶える
「鱗もたくさんあって頑丈なのに、凄いわね」
「はははっ!だてに重い得物で戦ってねぇからな!」
ヨハンは兜の下で、快活に笑った。
騎士団長クラスを無傷で仕留めたが、戦場はまだまだ血が流れ続けている。
ルヴィアとヨハンは、次の魔獣を仕留めに走った。
21
一方、運搬班のもとにも魔獣が現れていた。
3、40匹ほどで、せいぜいが狩人クラスや戦士クラスのものだ。
運搬班とはいえ、油断しなければ十分に対処可能だった。
しかしそれでも、中には全く戦えない者もいた。
それらを守りながら挑むことで、運搬班は不利な戦いをしていた。
「きゃあっ!」
「危ない!」
魔獣に襲われかけた女性を庇い、レクリルが剣を振るう。
相手は因縁のグラウルフだった。標的をレクリルに切り替えたグラウルフは、彼女に飛びかかった。しかし、それを避けながら2度、3度と切りつけると、やがてグラウルフも動かなくなった。
「(うん…!私、強くなってる!)」
レクリルは息を正しながら、拳を握りしめ噛み締めた。
ルヴィアとヨハンのおかげで、ますます理想に近づけている。
自分自身も、そしてなにより、今も向こうで活躍しているだろう仲間が誇らしかった。
「あっちはかなり魔獣が減ったよ!」
「あ、ありがとう!」
安全な方を指さし、女性を送り出す。
油断せずに武器をかまえ、さらに迫る魔獣を次々に斃していく。あくまで敵の攻撃に合わせてカウンターを行うような戦い方であるため、辺りの魔獣を一掃するような活躍は出来なかった。
しかし、激しい動きがないため、長く戦い続けられるだろう。
「助けてえっ!」
声の聞こえた方に駆け出す。そして間一髪、魔獣に襲われかけた者を庇うことが出来た。
「くっ!(お、重っ…!)」
攻撃を受け止めた剣から、利き手の右腕が震える。びりびりと重い衝撃が肩までの神経を襲い、痺れてくる。
「あはは…これは最悪」
グラウルフも、群れを一気に相手にしないのであればせいぜい精鋭クラスのものなのだ。なのでルヴィア達の評価的には、レクリルが戦えるのは精鋭クラスまでである。
しかしそれは明らかに騎士クラスだった。
長い腕と脚、そして鋭い爪を持った毛むくじゃらの人型。一般的に、
ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!
ルーガルーは雄叫びをあげ、レクリルに腕を振るった。
「わっ、ほっ!」
レクリルは鍛えた回避力と剣で持って、その攻撃をいなしていく。
しかし剣は使う度、重い衝撃に取り落としそうになった。
視界の端に、駆けていく男を捉える。襲われかけた彼はようやく逃げおおせたようだ。
「今度はこっちの番だっ!」
痺れる手を握り込み、剣を支える。
突き出された腕を避けながら、レクリルはルーガルーに斬りかかった。
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